異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

丸屋九兵衛さんイベント2024年6月は【BLACK MUSIC MONTH 2024】!

 丸屋九兵衛さんイベントは続くよー。
 ということで2024年6月は【BLACK MUSIC MONTH 2024】!

https://blackmusicmonth2024.peatix.com/?utm_medium=web&utm_source=results&utm_medium=%E4%B8%B8%E5%B1%8B%E4%B9%9D%E5%85%B5%E8%A1%9B%3A35.3367%2C139.534%3A%3A%3A3959149&utm_campaign=search
正確にはAfrican-American Music Appreciation Monthだそうで。
(まだ7/21まで見られますよー)
①6/8(土)【Soul Food Assassins vol.39】ラッパーたちの命名センスを読み解く:グッチ、ミツビシ、アル・カポネ
 実名からかけ離れた芸名をつける人がほぼ全員(らしい)ヒップホップ。その名前の由来を紹介。ホントに丸屋さんは文化人類学的に良い仕事を続けているなあ。このテーマも黒人大衆文化のいったんを明らかにしていると思うんだよね。芸名のユニークさといえば、カリプソに通じるものがある気がする。
②6/14(金)【Soul Food Assassins vol.40】魅惑のコンセプト・アルバム世界! 物語として音楽を楽しむということ
 世界最初のコンセプト・アルバムはWoody Guthrie 'Dust Bowl Ballads"なのか。Ray Charlesなどポピュラーミュージックにおける股旅もの紀行ものの系譜は面白いねえ。m-flo作品はあまりわかっていなかったなー。アフロフューチャリズム系についても相変わらず表面的な理解にしかたどり着けていなくて、歌詞をちゃんと確認する時間を割ければなあと思っている。
③6/22(土)【Soul Food Assassins vol.41】ケンドリックとドレイクは速すぎる! のんびりビーフの時代を再訪だ
④6/23(日)【Soul Food Assassins vol.42】ファンク生誕60周年記念! 聴き語り音楽史会:JB、スライ、WAR、オハイオ
 ギリギリまでファンク関連企画でありつつ詳細は未公開だったこの回、結局王道の大御所についての特集であった。ファンク生誕60周年とはJB"Out Of Sight"から60周年ということらしい。上記のほかMiles DavisHerbie Hancock、EW&F、The Barkays。EW&Fのスタジオ録音のヴォーカルはモーリス・ホワイトフィリップ・ベイリーのみだったというのもびっくり。日暮泰文逝去に伴い過去話も少し懐かしかった(ミュージックマガジン育ちなので)。
⑤6/30(日)【Soul Food Assassins vol.43】続・黒人音楽の流れを変えた偉人たち! ソウル、R&B、ヒップホップのパラダイムシフト
 80年代後半-90年代のブラック・ミュージックの話、しかも技術革新含めた細かい話まで登場したので、世代的に一番よく同時代を追っていた時期でなるほどと思う内容であった。特にNew Jack Swing周りの話に目から鱗がボロボロ落ちた。"Mama Used To Say"のJuniorが影響していたとは!

2024年6月に読んだ本と参加した読書会・読書イベント

 雑誌を読んだり。 
◆『いまは見てはいけない』ダフネ・デュ・モーリア

 「いま見てはいけない」
 娘を失い、心理的に動揺のみられる妻とヴェネチアに旅に出る主人公。謎の老姉妹から亡くなった娘を幻視したと告げられたという妻に気を揉む。意外な方向に話が展開して結末になだれ込む。同じ作者の「美少年」もヴェネチアだったが、幻のようで死の影が漂う都市を舞台に言葉の通じない旅行者の不安が重なり、舞台効果を上げている。映画ヴァージョンであるニコラス・ローグ監督の「赤い影」も評価が高いらしく是非観てみたい。
「真夜中になる前に」
 趣味の絵画作成のためクレタ島に赴いた教師が現地で遭遇する出来事が描かれる。主人公がなかなか狷介な性格で、それも相まって悪循環から抜け出られない緊迫感が非常によく描かれている。解説にある神話とオーヴァーラップした側面は把握しきれなかったので読み直してみよう。
「ボーダーライン」
 父の死の際に遭遇した出来事などから、気になった父の旧友の元を訪れることにした娘。本来の目的を隠しての詮索のため、軟禁に近い状態になるサスペンスフルな展開が巧みで、この作家はサスペンスの作家だなあと実感する。
「第六の力」
 いかがわしい研究に打ち込む学者の元へ派遣されることになった主人公。死後の人間の生命エネルギーを解き明かすのが目的と知り、当惑するも次第に協力をするようになる。枠組みとしてはSFにも位置づけられる作品だが、禁忌に抵触し慄く人間の心理が物語の機動力となっていて、終着点は異なっているように思われる。
 サスペンスの描写には追随を許さないものがあり、その手腕に唸らされたとともに、神話・宗教・疑似科学などバラエティに富む題材でデュ・モーリアの幅広い顔が伺える好短編集だった。
 で、kazuouさんの怪奇幻想読書会に参加。SF境界領域として「第六の力」の話題が特に面白かったなー。その他にもさまざまな話題が出て楽しかった。
 
kimyo.blog50.fc2.com
 そして次回の怪奇幻想読書会はジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』!!いやあこれは嬉しい。ということでー
◆『デス博士の島その他の物語』ジーン・ウルフ

 再読した。
まえがきに「島の博士の死」という掌編が挿入されているが、これがさりげなくそれでいてウルフらしいブッキッシュなユーモアを湛えておりなんとも素晴らしい。それから冒頭に島々に関する作品として「取り替え子」(『記念日の本』収録)が言及されていて、ついでに再読。こうなってしまうからなかなかウルフは読み終えられない(笑)。
「デス博士の島その他の物語」
 再読何度か目になるが、全体がコンパクトな長さの中の小説内小説がきちんと起伏を感じさせるところにウルフの凄さの一端をみた。それにしても素晴らしい作品で虚構を愛する人々全てに贈る賛歌のような名作である。蛇足だが同じDr.dのところをブラック先生とデス博士と訳し分けてるんだな。
「アイランド博士の死」
 ある島で、物事の理解に問題を抱えた少年が次第に世界を発見していく。これまでかなりの部分を理解できていなかったな。これまた大傑作。世界の認識が転換するというようなモチーフが作品全体に散りばめられている。残酷でありながら優しく美しいウルフワールド。
「死の島の博士」
 自ら語る本を開発をした発明家が罪を犯し、新しい技術である冷凍睡眠の実験台で四十年後に送られる。ディケンズ作品のオマージュがふんだんに取り込まれているなど、なかなか謎が多い作品。ただオーディオブックや電子書籍が当たり前になるはるか前(朗読テープなどはあったと思われるが)にテーマにしているのが興味深く、『書架の探偵』につながるのは明らかでありこれまた読みどころの多い作品。
アメリカの七夜」
 崩壊した未来のアメリカをイランからきた青年が旅をする。この崩壊し終末と背徳とグロテスクに覆われたアメリカが魅力的。しかし有名な<失われた一夜>の謎は今回も解けず(基本的には若島正説が好きだが)。ちなみに 『ある小惑星への訪問』の演劇が出てきた。映画版のVisit to a Small Planetがyoutubeにあった。細かくは分からずともまあ昔っぽいオーソドックスなコメディだなと思ってたら、いきなりbeatnikの集うクラブが出てきて身を乗り出した(笑)。
「眼閃の奇蹟」
網膜をID確認とした未来の管理社会。網膜がなく視力のない主人公の少年は社会の外の孤独な存在。寄る辺ない身から、わずかな仲間と共に旅に出る。いまだにオズの魔法使いなど周辺知識が深まっていないのだが、それでもこの作品もまた他の収録作品同様フィクションについての物語だということが再読でより印象づけられた。さりげなくかなり胸を痛めるようなエピソードが挿入されているのもウルフらしい。
◇文藝2021年春季号

・特集「夢のディストピア」。感想は一部のもののみ。
○フィクション 
特集関連作品。
「腹を空かせた勇者ども」金原ひとみ
 中学生たちの日常が描かれる。以前にも作者の作品を読んだ記憶があるが、非常に技巧が優れているなと今回も思った。
「オキシジェン」真藤順丈
 疫病で変貌を遂げる世界で酸素吸入による能力向上でアンチユートピアの創作を続ける実験が行われる。ここでの酸素吸入はあくまで寓意的なものだが、ユートピア/反ユートピアが共通する想像力によって生まれるということをメタフィクショナルな仕掛けからとらえようとする試みだろうか。ユニークなアプローチで印象に残った。
「天国という名の猫を探して悪魔と出会う話」東山彰良
 いわゆるゾンビ化を呈するウィルスが蔓延した世界で、タイトル通りに猫を探して悪魔と出会う。背景はともかく割とオーソドックスな悪魔もの短篇を踏襲しているが筆さばきは滑らかでやはりうまい。
「ただしみ」尾崎世界観
 TVが衰え、「事実しか映し出さない」ことで町のライブカメラが支持を得る近未来が描かれる。ありそうな未来ではあるがディストピア的なエピソードの飛躍は目立つものはなく、特に惹かれなかったな。
他特集外作品。
「誰にも奪われたくない」児玉雨子
 女性アイドルグループのメンバーと楽曲を提供したことがある兼業作曲家の交流が描かれる。いかにも現代らしい事物で組み立てられたシスターフッド作品。柔らかく押しつけられる抑圧による閉塞感への怒りがよく描かれている。
「エラー」山下絋加
 フードファイト青春小説。大食い選手権の人気番組「真王」。ルックスとのギャップもあり人気者になった主人公"クィーン"一果が無愛想な年上の女にチャンピオンの座を奪われる。大食いでの心理描写、トレーニング、番組の裏側など非常によく書かれていて読ませる。
「ウェンディ、才能という名前で生まれてきたかった?」瀬戸夏子
 『ピーター・パン』の作品や成立関連人物を軸に、カポーティボリス・ヴィアンなどなどを題材にして、セクシュアリティジェンダーの問題が語られる。なかなか面白い。センス的には『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』辺りに近いかな。
○ノンフィクション
・対談 飛浩隆✖️高山羽根子 ディストピア小説の主人公とは誰か 嫌視点の作り方
 作品中においても、創作時のアプローチいずれにしても<視点>が重要であるという話が印象深い。
・連載企画 韓国・SF・フェミニズム
〇フィクション「アーミー・オブ・クィア」チョン・セラン
 性別二分法の社会が崩れ、人工的な出産が進み、大きな国家が衰退し都市国家社会に移行するという設定がユニーク。徴兵によるプレッシャーと新しい家族関係といったテーマが提示されるのも新しい世代の問題意識が感じられ面白かった。
〇ノンフィクション
論考「私たちの総意と共鳴 世界SFを俯瞰して」橋本輝幸
 タイトル通り様々な地域・文化圏のSFを俯瞰しており、非常に示唆に富む内容であった。
◇ミステリマガジン2012年10月号

 山口雅也責任編集≪YAMAGUCHI MASAYA'S MYSTERY MAGAZINE≫、ミステリ作家山口雅也選の号。感想は一部のもののみ。
「1ドル98セント」アーサー・ポージス
 神さまが願いを叶えてくれるという定番の掌編だが、1ドル98セント分のみという小ささがユニーク。
「町みな眠ったなかで」レイ・ブラッドベリ
 女性たちが夜に映画の劇場に赴くが、町には連続殺人鬼の噂があった。正直久々にブラッドベリいいなと思った。劇場や殺人鬼といったものはキングにも通ずるように米国のフィクションの大きな源流/原風景といえるのかもしれないとも感じられる。筋というよりも描写の鮮やかさやリズムから立ち上がってくる幻想性が心地良い。解説にもあるように都筑道夫の訳が良いのだろう。凄い人だ。
「では、ここで懐かしい原型を・・・・・・」ロバート・シェクリイ
 ミステリショートショートの三連発。巧いのは間違いないのだが、どうもそれ以上の何かを感じないんだよな。"Meanwhile, Back at the Bromide"というタイトルは何かのシャレなのだろうか。
「殺人生中継」ピエール・シニアック
 予告殺人が世間の娯楽と化し、犯行がアートとして評論される近未来。酷評されてきた殺人犯の計画とは。1938年作にしてなかなか斬新な設定。
SFマガジン2019年4月号

 ベスト・オブ・ベスト2018ということで、2018年に活躍した作家特集。感想は一部のもののみ。
 『零號琴』の前日譚で冒頭部分のみ。『零號琴』忘れ気味だったが、それでもさすがに惹きつけていく手腕はお見事で、だんだんと作品世界の手触りを呼び起こしてくれる。「オメラス案件」にニヤリ。しかしこの後進行はないようだな…。
「戦車の中」郝景芳
 短いが作者らしいロジカルさがよく出ている戦場もの。結構幅広くなんでも書けるんだな。
「書夢回想」円城塔
 個人的に何度読んでもとっつき易くはならない円城塔だが、基本的には紙の書物や書店に対するオマージュが反映された作品かな?デジタルによる読書補助という側面に懐疑的な視点が伺えるが、利点もあると思えるので意外に反動的だというのは言い過ぎかな。
無重力的新世界」高島雄哉
 知名度のある作家だが初読。パトロンが判定する宇宙時代のアート系デスゲームという設定がなかなか面白い。やや優等生的なタイプという印象とあるが、非常に洗練されたともいえるハードSF作家である。
「大進化どうぶつデスゲーム」草野原々
 日常系女子校アニメのような(詳しくないけど)始まりから、突然壮大な時間スケールのデスゲームへとなだれこむ。んっ?と思ったらこれ長篇の冒頭部分なのね。それにしてもデスゲームネタが目立つね。この頃の流行りなのかな。
「野生のエルヴィスを追って」石川宗生
 これはアリソン・ベイカー「私が西部にやって来て、そこの住人になったわけ」(<野生のチアリーダー>が出てくる怪作にしてまさかの感動作。『変愛小説集2』収録だが、入手困難本である)へのオマージュではないか!。短い作品なんで、すぐ読んで爆笑。最高。
「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」三方行成
 食べ物の代わりに折り紙を出す謎の食堂。短いがイメージは印象的。
「アトモスフェラ・インコグニタ」ニール・スティーヴンスン
 宇宙開発を扱った科学論考やSFのアンソロジー収録のプロジェクトSF。近年この手にはあまり興味を持てず、斜め読みだが、基本的には予想していた範囲から逸脱はなさそう。ニール・スティーヴンスンがこうした方向の作品を書くようになっているのは正直もったない気がしてしまう。
 あと引き続き長澤i唯史先生の指輪物語講義を聴講。
www.asahiculture.com
 作品において多面的にテーマを提示するゴクリ、軍事戦略的な側面、現代社会における正義のあり方や知的エリートの限界など今回も興味深い話ばかりであった。

令和版うる星やつら放送終了

 令和版うる星やつら、中断期間がありながら2022年10月から1年8ヶ月アクシデントもなく完走。
 これまで何回か令和版うる星やつらについて書いてきた。

funkenstein.hatenablog.com

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 原作ベースでしっかりやっている方針が伝わっており、(残念ながら大ブームとまではなっていなかっておらず、アニメファンではないのでそれがどれくらい問題なのかわからず)原作派としてはとにかくなんとか無事に終了して欲しいと願っていたので、まずはホッとしてるような謎の気持ちが最終回前(というか一連のボーイミーツガール=これ以降BMGと表記、の4話分に放送が到達できていた時点で発生していた。
 なので、(以前言及したように)「愛と勇気の花一輪」の方が重要案件と思っていたが、当ブログ犬でも思いの外、最終回が続くにつれて落ち着かなくなり、動画やサイトを漁るようになってしまった(動揺)。ドハマりである。
 ともかく非常に満足度の高いエンディングで、散見する限りSNS等でもそれなりに反響があってこれも令和版を推している身としては嬉しくなった。
 リメイクなので、一時代を気づいた昭和版に比べて分が悪いのは間違いないが、昭和版にも違和感があった犬には(前にも書いたかもしれないが、開始当初は大興奮したのよ!しかしその後ついていけなくなった)ほんとうによくやってくれたという気持ちがいっぱいである。
 とりあえず令和版の魅力を羅列すると
1.絵が綺麗
2.古くなった価値観の発言や描写は変化させてある
3.音楽がいい
 まずはこの辺りかな。
 昭和版が良い良いという人もネット上で見かけるが、1や2は気にならないのかなあというのが正直な疑問である。集中できなくならないのかなあ(これはアニメーションの動きやメカにあまり興味がないというせいもあると思うが、こういう感覚のタイプも一定数いるだろうと思う)。
 アニメに詳しくない犬が今回気づいたのはアニソンというのは本編と劣らないぐらい重要で、時にはそのエッセンスをコンパクトに抽出したものとして本編を超える瞬間すらあるのではないかということ。例えば歌詞などが多少古臭いなと思っていた昭和版うる星やつらの音楽も、曲全部じゃなくてOPやEDの当時の動画付きを流しているyoutubeのものを見ると悪くない。むしろ短い時間で光るようによく作られていることがわかる。
 時代を経てアニメを取り巻く状況が全く異なった現代、さらにしっかり制作され、Maisondesが全て担当、歌詞も実によく練られていて驚かされた。特に感心したのが最初のクールの方の楽曲と終盤の楽曲のトーンの違い。最初のOP「アイウエ」から、完全にうる星やつらの主役である、あたるとラムの関係とダイレクトに結びついた歌詞で統一されている(特に「アイウエ」は全編登場キャラクター名の言葉遊びで構成されている)。

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さらに第3クールのED「雷櫻」あたりから、終わり感じさせる歌詞になる。第4クールのOP「バイマイダーリン」とED「春紛い」は完全に最終回(シリーズ)BMGを踏まえ、前者がラム視点で後者があたる視点の曲となっている。
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 終了を意識した歌詞であることは楽曲制作者のニト。がXにポストしている。

 そして終わりが意識されている他にも第1,2クール(1期)と第3,4クール(2期)で違いがある。1期ではまず「アイウエ」はラム視点とあたる視点が交互にくる歌詞のうち、令和版一番目の曲だけあり知り合ってすぐのラムの呼びかけ「こっちを向いて」といった意味の内容を含む。しかしあたる視点の「一人には決められない」といった意味の歌詞を踏まえると、「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」の”誰かのものになるんでしょう"や「アイワナムチュー」”よそ見ダーリンダメダメよ”や「アイタリナイ」”誰を待ってるの"などなどとラム→あたるのメッセージは共通する部分があって、要は「浮気は許さないっちゃー」である。
 ところが2期になるとトーンが変わって、そういった「よそ見」的なワードは登場しない。代わって、ラム→あたるのメッセージは「ロックオン」”ちゃんと見てくれないのかな”や「雷櫻」”好きって一度は伝えて”や「バイマイダーリン」"この手を握り返して”など、そしてあたる視点「春紛い」にもラムからの問いかけ”心が見たいの言葉はいいの”がある。これらは("言葉はいいの"とあるものの)「好きだって言うっちゃー」である。つまり「自分があたるにとって特別な存在なのはわかったが、それは理解した上でちゃんと自分と向き合って欲しい」という段階になり、2期では1期に比し関係がレベルアップしているのだ。これは原作の発表順とエピソードの放送順をずらしたことで少々矛盾を抱えつつもラムとあたるの関係が深まっていく流れをつくるのに腐心した令和版の方針と合致しているし、「あたるがラムに好きだというかどうか」が話の幹になるBMGを踏まえてもいる。こういった形で、エピソードの選択・順番(おそらくセリフの内容や表現法、演出)と楽曲など方針が統一されていることがうかがえる。今回のリメイクは総合的によくプロダクトされていると思う。

 さて映像の方は、うる星やつらの象徴であるラムのバイバイも切ないが、あたるの「バイマイダーリン」OPアニメの1:16~と「春紛い」EDアニメ1:17~の表情がまた素晴らしい。(また引き合いに出してしまうが)昭和版の違和感の一つはあたるのキャラクター造形で割とダイレクトにラムに愛情表現をしたり、「ラムはオレに惚れている」みたいなことを発言したりする部分だった。癖の強い人物ばかりのうる星やつらだが、原作のあたるもかなりひねくれたキャラクターで、原作ではラムに対する気持ちを直接表現しないし何かあっても第三者にはなにもいわなかったはずだ(そこがBMGのクライマックスに効いてくる)。令和版ではそこはきちんと表現されていて、上記のOPではラムが空中で笑いかけても笑い返すわけでもなく、戸惑った表情になり、またEDの方となるとラムが消えたと思っているのかもしれず呆然としている。これはどちらも、いわゆるツンデレ男子であるあたるが自らのラムへの気持ちに気づいた表情なのだと思う。そしてそんなあたるの心理が視聴者側とも大きくシンクロして心を揺さぶってくるのだ。実にエモい。アニソン恐るべし。
 おそらくそうしたエモーショナルな部分は特別なことでもなく、昭和版にもあったのかもしれない。しかし令和版は実にウェルメイドで、洗練された形で提出されている。これはアニメーションという分野の進化/深化であろう。ちなみにウェルメイドといえば、声優の演技も非常に洗練された技術力の高いものになっている気がしてそこも進化している印象。(逆にその洗練が、原作から離れた遊びで一時代を築いた昭和版とは異なり不満を持つファンもいるだろうことは想像される)
 それにしても不思議なことに、満足度の高い令和版の完結によってだんだん昭和版も愛情を持って接することができるようになった。原作の癖の強いエゴイスティックなキャラクター造形や入り組んだ関係性はファンには面白くはあるもややわかりくい面もあった。1980年代のアニメファンのニーズによるある意味では分かりやすくまた一方で革新性もあいまってカルト的な地位を確立したことが最終的には令和版へつながったことも間違いない。もちろん当時の声優の演技もまた基本的なアニメのフォーマットを形成したわけで、映像・音楽などなどスタッフ皆偉大である。ともかく令和版を観ることができ生き続けていてよかった。
 ここでちょっと恥ずかしい話がある。さんざん原作派とか原作厨とか書いてきたが、驚くべき事実が判明した(大げさ)。令和版うる星やつらの一連の記事の前に映画うる星やつらの感想を書いた。
funkenstein.hatenablog.com
 これをさっき読んでみたら、どうも完結編の感想を読むと、この記事を書いた2020年4月の時点で原作最終巻を読んでいなかったか内容を忘れていたようだ。まあこんな程度の犬の感想だと熱心なファンは笑ってください。
 そうそう、それからあと一つだけ。その1988年映画の完結編はTVアニメの中途半端な終了に不満を持ったファンたちの署名活動で実現したという話も聞く(TVアニメは原作完結前に終了、その後原作が完結してから映画が製作されたという時系列)。一方でTVアニメ初期は原作ファンの不満からカミソリも届いたという。考えれば(前にも書いたが)当初ヒロインの予定だったしのぶを押しのけ主役となったのはファンの人気を背景にしたラムだった。このように(ネガティヴ、ポジティヴ含め)ファンと原作者やアニメ制作者らが共につくり上げてきたのがうる星やつらの歴史である。そうしたこともあってか、周到なプログラムが用意された作品ではなく、原作の話も(コメディだから容認されやすいが)どこかいびつでギクシャクしたところがある。それでも準備されたかのように円環構造に持っていって長い作品まとめ、しかもファンに支持されるというのがまさしく高橋留美子マジックなのだ。ということで当ブログとしては、結局高橋留美子が偉大だった、と締めることにする。

※追記 令和版うる星やつらにハマると一番堪えるのが第6弾PVだったりする。バイバイ……しかし大丈夫「また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくる」(ジーン・ウルフ)のだから
www.youtube.com

 

2024年5月に行った美術展

 5月はいろいろ美術展に行きました。
橋本治展、6/2で終了してしまいましたね。
www.tokyoartbeat.com
 橋本治の活動は幅広いのだが、小説・古典現代語訳・評論・エッセイなどの文筆関連に留まらず、絵画や舞台演出や編み物など幅広い分野で長期にわたって活動を行ってきた。まずは仕事量と幅に驚かされた。古典への造詣の深さの一方で、体当たりするかの如く同時代の事物に対峙した姿勢は、時に文体が経年で違和感を生じることも厭わなかった。誰にも似ていないそのアプローチは、非常に難しい面もあるだろう(おそらく自身も後世に「偉人」として祀り上げられるのも良しとしないに違いない)。何はともあれ当ブログ犬は若い時代に影響を受けたのは間違いないし、今後も橋本治とは何だったのか考えることになるだろう。その意味で千木良悠子『はじめての橋本治論』は読もうと思っている。

 あと著作で自分がおすすめのものをちょっと。
 三島由紀夫の解説本。明晰かつ腑に落ちるものだった。
 5巻以降は未読(窯変源氏も双調平家も途中までという中途半端ぶり失礼)。西洋美術以上にとっかかりを得られない感じだった日本美術を鑑賞する手がかりを与えてくれた。1巻だけ妙に安いんだな。ちなみに5-7巻を揃えたい一方で密林のあまりの高額ぶりに、ネット詐欺にあったのも実はそんな昔ではない。まさかこんな古本で詐欺にあうとは思わず、あっさり引っかかってしまった。皆様気を付けて。
〇鎌倉の廃寺展、こちらは6/29まで。

www.city.kamakura.kanagawa.jp
 廃寺ってなんかそそられるんですよね。簡単にはなくなりそうにないお寺ですが、いろんなことがあるようで面白かったです。ちなみにひどい理由での廃寺もありました(ヒデエ)。

〇北欧の神秘展、6/9まで。
www.sompo-museum.org
 フモさんの「メモリの藻屑、記憶領域」(いつも参考にさせていただいてます!)の記事で知って、時間があったのでのぞいてきた。
globalhead.hatenadiary.com
 空気の冷えきった青色が印象的な風景画も良かったが、やはり2章の魔力の宿る森が楽しかった。ポスターにもある≪トロルのシラミ取りをする姫≫なんかタイトルも素敵だった。
デ・キリコ展、8/29まで

dechirico.exhibit.jp
 様々な傾向の絵画作品があり、彫刻や舞台衣装まであって、あまり詳しくない身としては感想がまとまらない。ただ、子ども時代の水浴や外に出た家具の光景、有名な広場での啓示など驚きの感覚を大事にしてきた人で、それが古典と結びついたことによって普遍性を得、時代を超越し今なお新しく感じられるのではないか。ちなみにJ.G.バラードは好きだったはずと思い、この間『千年王国ユーザーズガイド』をパラパラとめくったんだけど、ちょっと触れていたぐらいだったな。
 こちらも当ブログよりしっかりとしたフモさんの「メモリの藻屑、記憶領域」の記事をどうぞ。

globalhead.hatenadiary.com

丸屋九兵衛イベント2024年GW(以降)のテーマは昭和!

~祝・昭和99年! 日本現代史回顧録(とにかく昭和を振り返る会)【丸屋九兵衛オンライン5イベント in 1パック】昭和を彩った流行・ブーム・熱狂/激動の政治&経済/来日アーティスト名鑑/驚愕の事件簿/アニメ大国3000里~
 というわけで、来年は昭和100年(®クレイジーケンバンド)であちらこちらで特集が行われそうなのでその前にやろうということだそう。なるほど~。
① 4/29(月・昭和の日)【Q-B-CONTINUED vol.95】
スーパーカーエリマキトカゲ! 昭和を彩ったブーム&熱狂の数々。祝・昭和99年①流行編
 軽文化というか、昭和文化として注目が当たりにくいあるいは当たっても表面的に流されそうなネタを(ユーモア混じりに)文化史として扱えるのは丸屋さんだけだろうなあ。流石である。
② 5/6(月)政治&経済編【Q-B-CONTINUED vol.96】
オイルショック金大中! 昭和政界&エコノミック野獣王国の激動。祝・昭和99年
 政治経済的にも様々な動きがあった昭和。個人のユニークな視点から切る丸屋さんの政治経済トークはいつも参考にさせてもらっている。
③ 5/12(日)音楽編【Soul Food Assassins vol.38】
武道館からMZA有明まで! 洋楽全盛期・昭和の来日アーティスト名鑑。祝・昭和99年
 ブラック・ミュージックを中心に来日アーティストを振り返る回。いやーそれにしてレジェンドばっかりだなあ。アイクア&ティナの来日は伝説としてすぐ思い浮かぶんだけど、よく考えたらマーヴィン・ゲイやボブ・マーレイも来てるんだよね。しかしまあ細部の話になるが、特定のジャンルしか興味を持てない人たちの視野の狭さ(どうやら一部はライターすらしているようだね)にはがっかりするね。
④ 5/18(土)事件編【Q-B-CONTINUED vol.97】
あさま山荘と不凍液! 昭和を騒がせた事件・珍事・不祥事。祝・昭和99年
 事件や怪人などなど。事件は結構陰惨だったり不幸な結末だったりする。が、いろいろ忘れているものや知らない珍事件もあり、まだまだ昭和も堀り甲斐があるなあと教えてくれるか回。
⑤ 5/26(日)TV編【Q-B-CONTINUED vol.98】
当然まんがまつり! アニメ大国3000里 feat. いんちき番長。祝・昭和99年
 和洋折衷、語呂合わせの言語感覚とタツノコプロの偉大さを思い知る。米国において21歳までクラブやディスコに入れない若者たちがローラースケート場に向かうというローラー・ディスコ文化(「ムテキング」)の話も勉強になるなあ。それにしても特撮やロボットもの以外でのいんちき番長の話というのも新鮮でよろしい。