異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 連載「奇妙な味を求めて」第1回異色作家短篇集ベスト

 


 さて<シミルボン>に投稿した書評の再投稿ですが、今回からもう一つ連載形式にした「奇妙な味を求めて」の方に入ります。
 第1回として異色作家短篇集の自分なりの楽しみ方を自己紹介のようなつもりで書いて、その後は異色作家短篇集好きにおすすめな短篇集を紹介しようということでやっていました。が、結局わずか8回のみで終了。プロあるいは同人で活動を続ける方々の持続力にあらためて敬服することになりました。という意味ではこれも良い経験だったともいえます。
 では第1回の分です。これは元は2008年のブログ投稿内容でもありますが、旧ブログ投稿分でまた加筆修正もしてシミルボンに投稿したのでやはり入れることにしました。シミルボンには2016年に投稿した後、2018年11/17に連載に組み込んだのでそのことが冒頭に入っています。遅れましたが、ここでの<異色作家短篇集>はは2005年に出た新版の方というかたちです。世代的に60年代、70年代のものは入手困難だったし、新版以前の時期には正直あまり興味も持っていなかったのです(今でこそ自分のルーツみたいな顔をしていますが(笑)。それでは以下が再投稿分です。↓


※「奇妙な味を求めて」という連載をはじめたので本稿はちょうど内容にマッチするので、第0回として入れてみました(2018年11月17日)。以下本稿自体は2016年11月12日に投稿したもの。
 異色作家短篇集で出ていたシャーリイ・ジャクスン『くじ』、フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』が最近文庫化された。
 1960年から刊行された全18巻の旧版ではなく、2005年に出た全20巻(アンソロジー『瓶詰の女房』が若島正編の3冊のアンソロジーに入れ替わって20巻)の方で読んだという後からのファンだが短篇好きにはたまらないシリーズである。
 大変面白かったので、ベスト選びをしてみた。
 もちろんどの短篇集も素晴らしいので気分で選んだやつである。
 短篇集ベスト5、個々の作品のベスト10でやってみた。
◎まずは短篇集ベスト5。
○次点 
・『棄ててきた女』 

 いきなり次点を選んでしまいました(苦笑)。
新装版若島正編アンソロジーが三冊ある(新装版とはいえこれらが出てから9年以上になる!いやはや)。
どれも面白いのだが、旧版とは40年以上のずれがあるため、短篇集ベストでは一応次点とした(短編ベストの方には入れてしまった)。
三冊のうち一読は最も地味なこれがじわじわきた。
「顔」「壁」「テーブル」など渋い英国らしい作品が並ぶが静かに異様な空気が漂うところが素晴らしい。

・『虹をつかむ男』  個々の作品はユーモアスケッチといった感じのいわゆる名作とは程遠い軽い作品が多いのだが、まとめて読むと独特の視点が何とも楽しい。幅広い作家のものが読めるのがこのシリーズの良いところだ。
○5位 『一角獣・多角獣』
 本書が出たときは長い間幻の名作とされていた。
そういう伝説の本は実際読んで期待通りということがあまりなかったりするが、これはまさに期待通りいやそれ以上だった。
比較的分かりやすい話が多い一方でスタージョンの異様な論理が感じられる作品集なので、スタージョン初心者におすすめ。(しかしまたまた入手困難になっていた・・・)
○4位 『夜の旅その他の旅』

本書を読むまでボーモントのことは全く知らなかった。
歯切れの良い文章、ほどよい情感、見事なオチで、その後ちょっと再評価されミステリマガジンやSFマガジンに載っていた短編も良かった。
この短編集も粒揃いで、物凄い傑作をものにするというような作家ではないが、出会った喜びを感じさせてくれる作家である。
○3位 『キス・キス』

 さすがにこのシリーズのトップ・バッターに選ばれただけあって、質が高いし、シリーズの特徴がよくあらわれている。
何気ない日常から始まり、ちょっとしたきっかけや欲から事件が展開し、皮肉なオチが待ち受けるといった具合である。
一方で、何とも表現のしにくいタイプの作品も混ざっており、これもまたシリーズの特徴の一つでもある。
○2位 『破局』 

異常心理が見事に描かれているところが一番に目を引く作家だが、異世界ファンタジー風の作品やら奇妙なユーモアの漂う作品もありなかなか多彩な短編集である。
○1位 『くじ』

 シャーリイ・ジャクスンの名を知ったのは『乱視読者の帰還』など一連の若島正評論集である。
 普通の女性が心的な歪みによって作品を生み出した、と評されるその短編は淡々としていて逆に背筋が寒くなるというものだ。
この短編集をきっかけに他の異色作家短篇集を読むことになったという自分記念的なこともあり1位である。
◎さて続いて作品ベスト10。
○10位 「パリ横断」(『壁抜け男』) 
闇市用の豚肉を運ぶという渋い作品だが、パリの風景と共に妙に印象に残る。

○9位 「決断の時」(『特別料理』) 
プライドの高い男と奇術師のスリリングなやり取りがラストにつながっていく展開が見事。

○8位 「ギャヴィン・オリアリー」(『炎の中の絵』) 
 変な主人公の話はいろいろあれど、ノミとは驚きだ。まさに異色の名にふさわしい一編。○7位 「スカット・ファーカスと魔性のマライア」(『狼の一族』) 
 あくまで個人ベストとはいえ定番選びという方向性で考えていたので(40年もタイムラグのある)新装版アンソロジーから個別の短篇を入れるか迷ったのだが一篇だけ。SFファン大喜びの面子で構成されたアメリカ篇『狼の一族』だが、白熱するコマ回しの話というユニークさでこれを挙げたくなった。全体的に疲れた中年が主人公のことが多い異色作家短篇集だが、この作品の主人公は(回想ではあるが)子供。

○6位 「ユーディの原理」(『さあ、気ちがいになりなさい』) 
フレドリック・ブラウンの奇想は時代を超えている。
ネタとしてはさんざん模倣されたようなものがほとんどなのにオリジナルの持つ輝きは失われていない。
本作もちょっとバカバカしいようなドタバタSFだが、短くてインパクトは強烈。

○5位 「牧師の楽しみ」(『キス・キス』) 
 これもある種のドタバタなのだが、のんびりした雰囲気と皮肉が同居していて、ダールっていろいろ書けるんだなあと思わせる。
○4位 「ベッツーは生きている」(『血は冷たく流れる』) 
 売れない作家の近所に若くして成功している作家が引っ越してきて自慢話を始めるという鮮やかな導入から、次第にサスペンスフルな展開となり、伏線が効いたラストまであっという間。

○3位 「美少年」(『破局』) 
 旅行先のヴェニスで美少年の給仕に入れあげる古典学者。
ヴェニスという土地と主人公の薀蓄があいまって独特の世界が作り上げられている。(土地と作品の結びつきなどどころなくディッシュの「アジアの岸辺」が連想される)

○2位 「魔性の恋人」(『くじ』) 
 平凡な列車の風景から唖然とするオチが待っている「魔女」とか痛みと痛み止めでぐじゃぐじゃになっていく「歯」とかとんでもない作品が並んでどれを選ぶか迷うのだが、孤独な女性の独白が空恐ろしい本作を挙げておく。
○1位 「ビアンカの手」(『一角獣・多角獣』) 
 ランが恋したのはとある女性の<手>であった・・・。
とにかく冒頭からは誰も想像できないような展開になるし、全体にスタージョン特有の情念が異様にあふれていて美しいとも恐ろしいともいえる話である。
衝撃力だけでいくとシャーリイ・ジャクスンとスタージョンだけでベスト5が埋まってしまいそうである。
 鮮やかな色やデザインなど美しい叢書でもあり、長期間に渡って早川書房の看板の一つとなっているといえるだろう。(2008年に書いたブログ記事に加筆修正をしたものです)(2016年11月12日)