異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 連載「放克犬のおすすめポピュラー音楽本」 第16回『ベースボール・イズ・ミュージック! 音楽からはじまるメジャーリーグ入門』オカモト“MOBY”/オカモト“MOBY”タクヤ


~最強のメジャーリーグ&ミュージックガイドが登場!~
メジャーリーグには様々な楽しみ方があるが、音楽もまた重要な要素である。まずは選手の登場曲は名刺代わりになるし、チームの代名詞となる曲もまたチームの歴史やファンの気質を伝えてくれる。
 しかし、メジャーリーグアメリカのポピュラー音楽に昔から親しんできた身でも、日本という遠方から英語文化でのニュアンスをつかむのは難しい。
 なので、野球と音楽をつなげて楽しむ、ことまではあまりしてこなかった(というより出来ていなかった)。
 そこに大変力強い援軍となってくれるのがこの本だ。
 野球の9イニングにちなみ9章からなる構成にまずはニヤリとさせられるが、まえがき(Warm Up)の冒頭は新聞記者時代のホイットマンによる野球への賛辞から始まるのだ。
 おお、そこからくるか!
 どちらかというと単純な娯楽=息抜きととられがちなスポーツと偉大な文学者を結びつける視点。
 野球文化へ深く切れ込んでいこうという著者の情熱がひしひしと感じられる。
 本文の内容も多岐にわたる。
 どの球場でも7回終了後に流れるセブンス・イニング・ストレッチの曲「私を野球に連れてって」の知られざる歴史から始まり、冒頭紹介したチーム・球場の曲や登場曲にまつわるエピソード、はたまた音楽と野球の二刀流選手、曲の歌詞に登場してきた名選手たち、大物アーティストたちがいかに野球をテーマにしてきたか、と様々な角度からスポットライトを当てている。
 そして扱われる話題の幅も広い。
メジャーリーグ創立初期から最新まで、多数の球団が登場し、音楽ジャンルもロック・ジャズ・ヒップホップなどなど。
 個人的に印象的だったのは、音楽通で知られるダスティ・ベイカー(アストロズ監督)がモンタレー・ポップ・フェスティバルのジミ・ヘンドリクスを観てその後もちょっとしたエピソードがあること(その出来事は本文をご参照)。
 あとは変わり種選手ビル・リーの話(歯に着せぬ物言いや予想せぬ行動で有名で1946年生まれでありながら今年独立リーグでプレイ)、ラッシュのゲディ・リーがニグロリーグのサインボールを対象に収集して寄付していること、と挙げれば止まらない。
 そして全体を通じて伝わってくるのは、野球と音楽が強く結びつきながらアメリカの文化を形成し、非常に多くの人々の思いを代弁してきたことである。
ジャッキー・ロビンソンレイ・チャールズの話はもちろん、ホセ・フェリシアーノの国歌斉唱にも差別や偏狭なナショナリズムの不幸な歴史を見るが、そんな諸々が漂白されずに堆積しているところが魅力なのかもしれない。
 そんないろいろなことについつい思いをはせてしまう、まさに最強の本であり、これを読めば明日から音楽を聴くこと、そしてメジャーリーグを観戦することのいずれも大いに楽しくなること間違いない。
 長年メジャーリーグアメリカのポピュラー音楽に親しんできた私が太鼓判を押そう。
 さて最後にそんな最強の本を書いたオカモト"MOBY"タクヤ氏はバンド「SCOOBIE DO」のドラマーで、Jsports「MLBミュージック」のメインMCもつとめている。
 そりゃこんな本を書ける人物が只者ではあるわけはないのだが、何より素晴らしいのは行間から溢れる野球と音楽への愛情だ。
 正直強豪チームとはいえない(失礼!)カブスファンというのが良いではないか。
 某横浜方面の弱小チームとしては共感を禁じ得ないのだが、閑話休題、いかに球場に足を運び、野球と音楽に関する知識を豊富に蓄えてきているかがしっかり伝わってくるのだ(だから日本人選手のエピソードもたっぷりあるのでそちらの方も読みどころである)。
 "MOBY"氏はスポーツライターになりたかったこともあるらしく、筆致は水を得た魚のよう。
 何よりもそれがこの本の一番の魅力かもしれない。(2022年7月15日)