異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 『第六ポンプ』パオロ・バチガルピ

~閉塞した未来社会でもがく人々を描いた俊英のパンクな短篇集~

 1972年生まれ、日本では2011年に「ねじまき少女」で紹介がはじまったばかりのバチガルピ。
 現在のところ唯一の短篇集。
 成長する結晶構造による建築物のイメージは鮮やかなデビュー作「ポケットの中の法(ダルマ)」、肉体改変されフルートになった体を見世物にさせられる少女の姿にゾクッとさせられる「フルーテッド・ガールズ」、妻を殺した男の奇妙な物語「やわらかく」などバラエティに富んでいるが、特に印象的なのは「第六ポンプ」。化学物質による知能低下の中でもがく下水処理係の青年がなんとも健気なのだ。どうしようもない世界の状況を理解しつつも抑えきれずほとばしる熱さがいい。
 同じように閉塞感漂う未来社会が描かれた「砂と灰の人々」「タマリスク・ハンター」あるいは「ねじまき少女」と設定の重なる「カロリーマン」や「イエローカードマン」といった作品にも、あらかじめ希望を奪われた世界で諦念と焦燥感にとらわれながら生き続けなければいけない人々の息づかいが感じられる。
 その視点はあくまでも個それも通常のSFで主役となる社会のリーダー的な立場の人物や優れた科学技術者とは正反対の普通の人々からの<下から>のもので、語り口の熱っぽさはこの作家ならではのものがある。
また文明の衰えた未来で部族間の争いを調整する立場になった青年と頑迷な先行世代の軋轢を描いた「パショ」には現代社会へのダイレクトな問題意識が感じられる。
 ちなみにタイトル作の原題Pump Sixも破裂音が目立ちパッションを感じさせるもので、「ポップ隊」の原題Pop Squadも似た音感があったり、そういった語調の強さにはどこかパンク・ロックと似たところがあるように思われる。
ところどころ粗削りな部分もあるが、どの作品のアイディアも新鮮でユニークなものばかりだ。
 早くも人気SF作家となった1976年ケン・リュウよりは少し年上で同じように注目を集めているが、それぞれ全く異なる個性の持ち主である。
 まだまだ若くこれからの作家で、さらにどんな作品を書いてくれるか楽しみである。(2016年9月22日)