異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 『文字渦』円城 塔

~見たこともない難読漢字や異体字にあふれた誰にも真似のできない奇想小説~

 デビューから類まれな発想と論理で独自の世界を築き上げたてきた円城塔が漢字を中心とした文字による言語表現の可能性に徹底して挑んだ実験的作品。
 たとえば作品で登場する漢字は通常読むものが認識するテキストであったり、実際に印刷される活字であったり、はたまた生き物のようであったりする。そうした<文字>の持つ性質が混然一体となり、古代から未来までのなんとも奇妙な歴史が綴られる。見たこともないような画数の多い難読漢字や異体字が山ほど出てくるなど独特なタイポグラフィックの本書は一読では全貌が掴みがたいところはあるが、ユーモアのあるアイディアで処理されており、ディテールなどに可笑しさがあって楽しく読み進むことができる。
 表題作での文字の生物群、「緑字」のテキストで形成された島、「誤字」もよる誤字の自走、「金字」の文字による転生(アミダ・ドライブ!)などなど誰にも真似のできない作者らしい発想が神話・宗教・言語(ヘブライ語サンスクリット語、かななど)・歴史・数学いろんな要素をはらみながら縦横無尽にもっともらしく語られるが、「真顔で語られる冗談話」の趣向が本書の大きな魅力だ(なにしろ文字が地球を飛び出していく話まであるのだ)。なかでも<殺字事件>の扱われる前代未聞のミステリ「幻字」には腹を抱えた。
 新しい表現の世界を切り開いていることで既に高い評価を得ている著者であるが、そのポテンシャルは本書でも遺憾なく発揮されており、動向は今後も注目であることは間違いない。(2018年9月9日)