異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『フランク・オコナー短篇集』

フランク・オコナー短篇集 (岩波文庫)

1903年生まれのアイルランド作家(本名Michael O'Donovan、ペンネームの本名もいかにもアイルランド系だ。O'が入っているし、Donovanもアイルランド系に多かった記憶がある)。村上春樹が<フランク・オコナー国際短篇賞>を受賞しているように、優れた短篇作家として知られている。

「ぼくのエディプス・コンプレックス」 主人公の少年は戦争帰りの父と反りが合わない。苦みとユーモアがほどよく混ざり合っている。
国賓」 アイルランドの英国への反乱を背景にした捕虜と兵士の話。時間を持て余しゲームに興ずるようになった彼らが待ち受ける残酷な運命が切ない名品。映画化や舞台化もされているようだ(原題 Guests of the Nation)。
「ある独身男のお話」 モテない男の悲喜劇のようにも読める。話の女性に興味を抱いてしまう語り手もまたおかしい。
「あるところに寂しげな家がありまして」 ちょっとしたきっかけで出会った男女の心の機微がよく描かれている。
「はじめての懺悔」 祖父の死で同居するようになった祖母と折り合いが悪い少年。一篇目と同じようなテイストでこれもいい。
「花輪」 とある神父が亡くなり、友人だった二人の神父がその葬儀に向かう。葬儀の習慣とかがなかなか興味深くそうした要素から登場人物たちの立場の違いが浮かび上がってちょっと意外な結末を迎える。ほんの30頁弱なんだよねえ、巧い作家だ。
「ジャンボの妻」 飲んだくれの夫に手を焼く妻・・・といった人情物かと思ったら割とミステリ。こんなのも書いているのね。
ルーシー家の人々」 長年の兄弟の確執に巻き込まれる家族たち。なんともリアルだなあ。
「法は何にも勝る」 日常会話の中からはじまって出来事がさりげなく明かされる、これも巧い。
「汽車の中で」 これも会話から何らかの事件が浮き彫りにされるパターン。おそらく噂がすぐに筒抜けになるような小さい町で汽車も本数が少ないから皆乗ってるんだろうなあ(笑)
「マイケルの妻」 田舎町にやってきた「マイケルの妻」。じんわりとくる作品。

 「国賓」が胃の底にずんとくるような名品で素晴らしいが、どちらかというと何気ない庶民の日常や心模様を描く短篇が心に残る。解説では技巧というより「素材型」の作家と評している。まだ初読で本書だけだと当ブログ主にはそこは十分につかめないが、基本的には非常に巧くてまた温かみも感じられる作家という印象がある。