異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

12月に読んだ本、怪奇幻想ベストと映画ベスト

『奪われた家/天国の扉』コルタサル
 コルタサルの「真の処女作」といわれる初期短編集。
「奪われた家」内面的には充足している兄妹で暮らす家に忍び寄る影。不安の描出が巧みで多様な解釈ができるわずか数頁の傑作。
「パリへ発った婦人宛ての手紙」『悪魔の涎・追い求める男』にも収録されているが、こちらの訳ではですます調で静かな狂気が演出されている印象。最後にはまた別の恐ろしい意味が隠されていることに今回気がついた。
「遥かな女 ―アリーナ・レエスの日記」言葉遊びが多く含まれ訳す苦労がしのばれる作品で一種のドッペルゲンガーもの。
「バス」バスに乗った女性が不条理な目にあうという「奪われた家」と共通する題材が扱われている。
「偏頭痛」ホメオパシーがテーマになっているというなかなか評価の難しい作品だが、解説を読むと本人の身体的な苦痛への悩みがうかがえ、フィクション化することで解消した歩みの貴重な記録になっている。
「キルケ」婚約者が二人続けて亡くなった女の新しい恋人。これも「遥かな女」と同じくモチーフ自体はいかにも怪奇幻想といったものを流用しているところが面白い。
「天国の扉」友人の妻が亡くなって思い出の場所に行ったが・・・。これも怪奇幻想趣味を感じさせるが、肌の色の表現とかアルゼンチンの人種構成などがそこはかとなく現れている印象もある。
「動物寓話集」ベースとしては知人の家に預けられ居心地の悪い思いをする少女の話でそれだけでもなかなか面白いのだが、「パリへ・・・」のウサギと同じく時折挿入されるトラが不協和音的な効果を出している。
 解説を読むと平坦ではなかった作者の苦悩や体験が作品の背景にあることがよくわかるが、南米の地域性よりは普遍的な人間存在について描く作家という気がしている。
『見えない違い 私はアスペルガー』ジュリー・ダシェ
 アスペルガー症候群についてシンプルなメッセージを投げかけるコミックだが、社会の理解不足に苦しむ主人公を等身大で平易に表現していて伝わる部分が大きい。
『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はお化けがこわい』
『奇奇奇譚編集部 幽霊取材は命がけ』木犀あこ
 ホラー小説や恐怖についてのメタ的なつくりになっていて、本人の内的衝動がはっきりしない現代的なところなど新鮮なシリーズ。どちらも面白いが、『幽霊取材は命がけ』の「不在の家」が<ないもの>を描くという高いハードルに挑み見事な一つの答えを提示していて素晴らしい。
チェコSF短編集』
 チェコSFの歴史をおさえられるという貴重な作品集。ディストピアもの(抄録が惜しい)「再教育された人々」、同じくディストピアもの「わがアゴニーにて」、タイトルから驚く「クレー射撃にみたてた月飛行」(もちろんバラードの作品を援用)あたりが印象に残った。
南十字星共和国』ワレリイ・ブリューソフ
 20世紀初頭の作品集で、幻想と現実が交錯し強迫観念に支配された人物が残酷な運命をたどるような短編が多いなかで、タイトル作はなんと南極の国家が疫病で崩壊していく様を描くというサスペンスフルな破滅SFでびっくりした。ちょっと早過ぎたゾンビっぽさすらある。

 さてtwitterで怪奇幻想読書会主催でブログ「奇妙な世界の片隅で」のkazuouさん(いつもお世話になってます!)がハッシュタグ#日本怪奇幻想読者クラブ#怪奇幻想ベストブック2018をやっておられたので参加(あんまし読んでいないのですがー)。
1.『奪われた家/天国の扉」コルタサル(不安感の描出が巧み) 
2.『竜のグリオールに絵を描いた男』ルーシャス・シェパード(SFだが怪奇幻想色強め。ただかなり暗い) 
3.『奇奇奇譚編集部 幽霊取材は命がけ』木犀あこ(「不在の家」超オススメ!)

 映画もいちおう選んどくか。あんまり観てないんだけど。
1.「バーフバリ 伝説誕生」「バーフバリ 王の凱旋」
 まあちょっと時期外れかもしれないが今年観た中では圧倒的。物語性という点では一つのエポックメイキング、時代が変わるポイントとなりそうな作品。
2.<アラン=ロブ・グリエ>レトロスペクティヴ
 映像に1970-80年代の質感があってそれと前衛が結びついてる感じが面白かった。当然いずれも古い映画なんですけどね。
3.「女と男の観覧車」
 あら意外なものが残ってしまった。コニーアイランドに惹かれるところがあって。場の力で観る楽しみというのを覚える種類の映画がある。
4.「私はあなたのニグロではない」(I AM NOT YOUR NEGRO)「ブラック・パンサー」
 シリアスなドキュメントとよくできたエンターテインメントで黒人視点映画の画期的な成果ではあるもののもう一歩踏み込みが足りない「ブラック・パンサー」とセットで観るのがバランスがいいかなあと勝手にセットにして。
5.「ボヘミアン・ラプソディ
 やはり終盤までの流れはたるいと思う。でも年末に観てからクイーンばかり聴いているので刺さってんだなきっと(苦笑)。