kazuouさん主催の第22回怪奇幻想読書会に参加、kazuouさんも書いておられる通り怪奇幻想色が特に強い会でいろいろ知ることができ楽しかった。
ということでまずは課題図書から。
『イギリス怪談集』
正攻法の怪奇幻想集だったので、個人的には異色作家短篇集などに比べると少々胃にもたれる感じがあったが、個々の作品は粒揃い。あとで再読だったことに気づいたが(笑)音楽をテーマに幻想的な描写が素晴らしい「悪魔の歌声」がベスト。他に善意ながら人を惑わす亡霊「霧の中での遭遇」、ウェルズらしい理屈の「赤の間」、ストレートな幽霊屋敷もの「判事の家」、見えない恐怖を鮮やかに切った「目隠し遊び」、子どもテーマでダントツに怖かった「ハリー」、妙にリアルな解決にいたって奇妙な味に寄る「ハマースミス「スペイン館」事件」、海洋怪奇ものが複数にあるなかに不気味さが心に残る「上段寝台」などもよかったかな。
『いにしえの魔術』アルジャーノン・ブラックウッド
いろんなモチーフを使い、幅広いタイプの恐怖を描こうとしてきた作家なのかなという印象。そうした意味では怪奇にこだわった怪奇作家の代表的な存在といえるのかもしれない(まだまだ一部しか読んでいないが)。コスミックなセンスも特徴といえそう。集中では、表題作が異邦人の不安を背景にストーリーの起伏もあってやはり一番かな。故郷へ出戻った人間の孤独を反映した「獣の谷」、終盤の強迫ともいえるほどの観念的な描写に評価は分かれるもののエジプトへの憧憬が伝わる「「エジプトの奥底へ」も面白かった。「秘宝伝授」や下記『ウェンディゴ』の「アーニィ卿の再生」にボンクラな二代目をどう教育するかといったテーマが出てきて当時の社会を偲ばせる。
『ウェンディゴ』 こちらも読んでみた。森、砂、風と火、それぞれをテーマにしたような3作。一番怖いのは表題作かな。「アーニィ卿の再生」のコスミックな感じも印象に残った。
『奇奇奇譚編集部 怪鳥の丘』木犀あこ
シリーズ最終巻で連作らしいつながりを持つ流れがより明確に打ち出され、大団円を迎える。登場人物たちにもう会えないのは少々残念だが、全体に著者の怪奇小説論としての側面があるメタフィクショナルな構造を持つシリーズで、新鮮だった。
『アーダ』ウラジミール・ナボコフ
ナボコフ晩年の、自身の遊び心が炸裂したという作品らしく、言語遊戯・自伝的要素・改変歴史ものの枠組みなどなどかなりはっちゃけた内容になっていて普段にもまして全体像がとらえづらい印象。後年の作品ということもあり、書かれた年代的に細部の面白さがわかりやすいところもあるが。
『方形の円』『ギャルゲ・ササルマン
SFマガジン掲載時に名前のインパクトで忘れがたい印象を残した作者だがなんとカルヴィーノ『見えない都市』と重なる奇想都市カタログといった趣向(書かれたのは同時代でカルヴィーノに追随したわけではないようだ)。各編につけられたマークも内容を反映していて洒落ている。著者の日本文化への関心、ル=グインが本書を高く評価していたこと(そのあたりの経緯を書いた分も載っている)、なかなか意外な話があり、日本文化への巻末の酉島伝法氏の解説もまた内容と呼応した体裁になっているなど遊楽しい一冊となっている。
『エコープラクシア』ピーター・ワッツ
『ブラインドサイト』の続編。ワッツについては意識に対する高い関心が特徴となっているが、個人的には最先端の宇宙SFにヴァンパイアが登場する怪奇趣味のミスマッチがユニークだと思っている。渡邊利道氏の解説が大変素晴らしく、作者の描こうとしているものをわかりやすく伝えてくれてありがたい。