なかなか読書の調子が出ない(諸般の事情もあり)。
『ピカルディの薔薇 幽明志怪』津原泰水
伯爵・猿渡コンビのオカルト探偵ものの傑作といえる『蘆屋家の崩壊』の続編だが、後書きに「似たようなものを書き続けることほど小説家を疲弊させる行為はない」にあるように、視点とか時代背景だとかひとひねるあるものが多くバラエティにより富んでいる印象。ただ各編はもちろん面白く、創作のあれこれを紹介している後書きも楽しい。
『死者の饗宴』ジョン・メトカーフ
1891年生まれの作家でこの時代らしい怪異が表現されていて、(解説でなるほどと思わされた構造を持つ「ふたりの提督」や舞台背景に雰囲気のある「悪夢のジャック」「ブレナーの土地」など悪くないが、印象が強いのは異色作家短篇集(2007年『棄ててきた女』)に収録された「煙をあげる脚」と国を越えて逃れられない恐怖が忍び寄る表題作の2作かなあ。
『パヴァーヌ』キース・ロバーツ
実は通しできちんと読んだことがなかったのです(笑)。想像していたより精緻なつくるになっているのとヘヴィなストーリーが並んでいるというのが正直なところ。世評が高いのには納得。細かな原語の言葉遣いとかを思うと読み返してもいろいろ発見ができそうな作品だ。
第24回怪奇幻想読書会に参加、課題図書『特別料理』スタンリイ・エリン『さあ、気ちがいになりなさい』フレドリック・ブラウンを再読。ついでにサンリオSF文庫『フレドリック・ブラウン傑作集』も再読。どちらも技巧派といえる作家で高品質な作品が並ぶが、方向性は大分違う。2次会も久しぶりに参加できて楽しかった。主催者kazuouさん、参加者の皆さんありがとうございました。
『特別料理』スタンリイ・エリン
表題作がデビュー作っていうのはホントにすごいなあと思う。というわけで早くから完成された作家で、非常に洗練されたテクニックを持っている。再読してみて、映像的にインパクトのある作品を書くというより、テキストの中でしか表現できないオチや肉づけの部分などに上手さの光る作家だという気がした。
『さあ、気ちがいになりなさい』『フレドリック・ブラウン傑作集』フレドリック・ブラウン
ブラウンはあまりにも日本SF第一世代に模倣されていて、ブログ主のように中学の頃にそういった短編を読み漁った人間には特にショートショートは素朴な宇宙人・異星描写などをはじめなかなかキツいところがあるのだが、かえって中編ぐらいのものの方が良かった。ちょっとスチームパンクっぽい「電獣ヴァヴェリ」奇想でありながら見事に話が収束しミステリとSF双方で活躍した資質が確認できる「さあ、気ちがいになりなさい」、『アルジャーノンに花束を』の元ネタだとよくわかる「星ねずみ」(こちらは上記では傑作集のみに収録)あたりは今回も面白かった。発想についてはこうした洗練された(ちょっと洗練され過ぎだけど)アイディアSFの形をつくり上げた元祖のような人だけあって、感心させられるものがあるが、「ノックの音が」や「沈黙と叫び」とかはもしかしたらパラドックスのお題から懸命に考えたのかなあという気もしたりする。もしそうならなかなか煮詰まり易い創作法ではないかと思うが、それを形にしていく「アイディアの人」でそこは天才的なものがあったのだろう。
名古屋SFシンポジウムに初参加。
パネル1「100年前の幻想小説を読む」
ゲスト中野善夫(幻想小説研究翻訳家) 司会舞狂小鬼(文芸評論家)
ふだんからお二人にはいろいろ教えていただいているのだが、今回の内容は中野さんの歩みを紹介し、どのように幻想小説に触れてきたかというお話を伺うことができた。近い世代としてファンダムの話とか含め非常に興味深かった。話題の「ジャーゲン」がどんな話かというのも面白かった。いわゆる願望充足的な異世界ものをずらしたところにポイントがあるようで、ウルフ「ウィザード/ナイト』にもチラっと言及があり腑に落ちる気がした。
パネル2「アメコミ(再)入門~映像と翻訳から~」
ゲスト吉川悠(海外コミック関連ライター・翻訳家) 司会片桐翔造(レビュアー)
あまりアメコミを読めていないのだが、本当はこの年齢ぐらいになったら肩の凝らないヒーローものやシリーズものに耽溺してブログなどやめるつもりでいたぐらいなので(いやどうしてこうなった笑)、興味のある世界なのである。映画やビジネスの最先端の状況がわかりありがたかった。
パネル3「SFが生んだミステリ作家・殊能将之」
ゲスト中村融(翻訳家) ゲスト孔田多紀(ミステリ評論家) 司会渡辺英樹(レビュアー)
殊能将之はその登場によってそれまであまり興味を持っていなかったミステリを読むことができるようになった作家であるのだが、個人的にも特別な作家で(いちおうこことかに書いてます、まあ個人的な感慨なので興味のない方はスルーが吉です笑)、このパネルを特に楽しみにしていた。ご本人の人となりを示すエピソードも良かったが、(あの膨大で多様な!)参考文献に目を通してきた、若い世代の殊能マニア孔田さんの分析は刺激があり再読しなくてはなあと思わされた。
懇親会も楽しかったです。出演者・スタッフの皆さん、お話させていただいた参加者の方々、ありがとうございました。