異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2023年1月に読んだ本


 一見それなりに読んでいる風にみえますが、小説誌とかは以前に読んだ感想も多いし、読み切り短篇の少ない雑誌も結構あるし、1月の読書時間の大部分は漫画です(笑)。
◆『わが母なる暗黒』ジェイムズ・エルロイ
 久しぶりにシミルボンに投稿しました。

https://shimirubon.jp/reviews/1709715
◆『戦場のコックたち』深緑野分
 第二次大戦のヨーロッパ戦線、主人公はアメリカ出身の新兵ティム。料理に自信のある彼はコック兵となる。過酷な状況下に一話毎の本格ミステリの連作長篇という形式が意表を突く。一般に注目度の低いコック兵を主人公に据えたのが慧眼で、兵站に関するあれこれの情報も面白い。パラシュートの謎、失われた食糧などなど、戦時という背景を生かした謎解きミステリか展開されるが、いずれも完成度が高い。さらには連作ならではの大きな仕掛けや伏線も周到にはりめぐらされている。しかも最終的に現れるのは戦争に翻弄される登場人物達の苦い人生の味なのだ。傑作である。
◆『中国女性SF作家アンソロジー-走る赤』
 中国女性作家SFアンソロジーという、なかなかユニークな企画。テーマ別に作品が集められている。
「独り旅」 夏笳
「珞珈」靚霊
 どちらも大きなスケールの世界と個人の哀感が対比されている。馴染み深いモチーフだが、後者の個人の感慨的な部分が共有できず、強い印象は残らない。ただこれは趣味の問題かもしれない。
「木魅」非淆
「夢喰い貘少年の夏」程婧波
 以上2作は意外にも和風ファンタジー。「木魅」は徳川時代の宇宙侵略もの、「夢喰い獏~」は数十年前(?
?)くらいを想起させる地方を舞台にした奇譚で、どちらも面白かった。
「走る赤」 蘇莞雯
メビウス時空」顧適
「遙か彼方 」noc
 VRなどテクノロジーテーマ寄りの3作。「走る赤」はストレートなVRアクション、「メビウス時空」は事故にあった主人公が<副体>という人工的な身体を使う作品。「遙か彼方」はSF的アイディアで奇妙なイメージを現出させる掌篇の連作。どれもアイディアやイメージに魅力はあるものの、作品トータルとしての印象は弱いのが残念。
「祖母の家の夏」郝景芳
「完璧な破れ」昼温
 どちらも研究者を主人公としたSF。「祖母の家の夏」はこれまで他作品と同様、科学者の理想と苦悩、また家族関係が描かれていてる。らしい作品である。「完璧な破れ」ははっきりとは書かれていないものの、明らかに「あなたの人生の物語」(チャン)へのオマージュである。ちょっときれいすぎるきらいもあるが、なかなか良いアンサー短篇だと思う。
「無定西行記」糖匪
「ヤマネコ学派」双翅目
 異色・秘密結社・探求のキイワードがつけられた2作。正直共通性は微妙かな。前者はディック『逆回りの世界』のような、あるいはヴァンス『無因果世界』のような。通常と異なるルールで形成された世界ということで、ユニークで大いに興味のそそられるアイディアなのだが。2回ほど読んだが、どうもこの世界の像が頭の中で出来上がらずギブアップ。後者はガリレオ・ガリレイ時代の学術グループ<ヤマネコ学派>を題材に取ったネコSFで楽しい。
「語膜」王侃瑜  
「ポスト意識時代」蘇民
「世界に彩りを」慕明
 最後は人間の認識に影響を与える技術が進化したというテーマか。つまりSFらしいSFの一つのパターンとも言えそう。「語膜」は、とある架空言語にこだわりのある母親と息子のギクシャクした関係が描かれ、やや重いトーンながら読み応えのある作品。「ポスト意識時代」は、言語と意識をめぐるテーマとしては日本SFの伝統とも通じる作品。「世界に彩りを」は、視覚を拡張する技術の進化で変容する人間や社会が描かれる作品。
 全体の感想だが、正直一番面白く読めたのが、日本風ファンタジーの「木魅」「夢喰い貘少年の夏」。次いで、他のSFアイディアをメインとした王道タイプの作品である「祖母の家の夏」「完璧な破れ」「語膜」あたりとなるが、そちらはやや生真面目な作品が目立ち、もう少し馬鹿馬鹿しいようなものもあった方が良かったと思う。
◆『時ありて』イアン・マクドナルド
 作品の深いところへの理解にはまだいたっていないが、ブッキッシュで詩情あふれる傑作だと思う。終盤某懐かしアーティストが登場して腰を抜かした。ALL REVIEWSの牧真司×豊崎由美トークショーも聞いた(ディレイ視聴可能だがもう購入はできません)。

www.excite.co.jp
 影響受けまくりのお二人のトークなので当然面白かった。ちなみにどうやらALL REVIEWSのトークはネタバレに気を配っているようなので、未読でも安心して聞けそう。トークの中で何度となくディッシュの『SFの気恥ずかしさ』の話題が登場して(ちょうど読んでいるので)ちょっと笑ったが、文学かアイディアかというSFジャンルの古典的な問いに対して、本作は恰好な素材でもあるともいえる。イアン・マクドナルドクリストファー・プリーストの共通点の話も出たが、『時ありて』は道具立てをはじめ特にプリーストっぽい印象がある。それから、ネットでの感想への言及も興味深い内容だった(ちなみにそれは『旋舞の千年都市』の低評価について。いやーこれイスタンブールが舞台だとは不覚にも把握していなかったわ。トーク聞き終えて即購入(笑)。で、SFファン(の一部)は構成が複雑になると作品の評価が下がる傾向があることがやんわりと指摘されていて、それはそうだろうなと思った。安易な印象評価をネットで書くのが躊躇われるのはそのため。単に自分が理解できていないだけかもしれないしね。その現象を、辛口のディッシュだったらどんな皮肉で評したろうかとも思った。
◆『アフロフューチャリズム』
 アフロフューチャリズムとは何か、どういった表現やムーヴメントがあるかが歴史もふまえ幅広く紹介されている。基本的には総論的な内容の本だが、類書は少ないので、初めて知る内容や発見が多い。特にSFや音楽の話が面白いが、重要なのは学者・芸術家・活動家含め多くの関係者が記されている点。索引もしっかりしていて大変ありがたい。
SFマガジン1998年11月号
 世界幻想文学賞&ブラム・ストーカー賞特集(特集解説は中村融)。例によって読み切りのみ。
「最後のクラス写真」ダン・シモンズ
 再読だったかな?いわゆるゾンビもので、シンプルな筋立てだが、主人公の教師の行動が素直な共感を呼ぶ好篇。星雲賞を取ったのもわかる(まあイーガンやスターリングに勝ってるのかというとそこは微妙かもしれないが)。その時の他の候補作→
https://prizesworld.com/prizes/sp/sf/siun.htm
「月を愛した女」エリザベス・A・リン
 イスホに伝わる三姉妹の女戦士。色彩豊かで息をのむほど美しい愛と死の物語。かなり古い号ではあるが、ネットでも言及がないのはちょっと不思議。
「ベルゼン急行」フリッツ・ライバー
 中村融氏のサイトでも言及されている作品。11頁と短い、表面上はシンプルなナチス関連ものだが、上記サイトを読むとどうも単純ではなさそうで、たしかに例えば主人公の背景とかがはっきりしなかったりする。たぶんベルゼン、本、収容所やガス室といったあたりがポイントなのかな。またチャレンジしなくては。
「十三の幻影」ジェイムズ・P・ブレイロック
 作者が日本で知られるスチームパンク作家としてより、この世界とは少し違うカリフォルニアを舞台にした作品群を本領としていることを訳者である中村融氏はたびたび指摘している記憶がある。本作もその系列で、日常的な描写の中に、古書をめぐるほんの小さなタイム・ファンタシーを描いている佳品だ。ちょっと気の利いた構成もいい。
「イトノコ大隊」佐藤哲也
 同じ加藤という隊員が複数いるような戯画化された(おそらく太平洋戦争の)中隊で、会話劇で進む小品。物資の不足でイトノコを兵器としてあてがわれる展開は昨今の世情をみると笑い事とは思えない。
「ファントムの左手」藤田雅矢
 幼なじみとの思いがけない再会。懐かしい思い出に付随する感覚が怪談に落とし込められている。
 全体にいい短篇が並んでいる"当たり"の号。
SFマガジン2015年2月号
 読み切りプラスアルファ。
○フィクション
「青い海の宇宙港」川端裕人
 科学エッセイなど読んだことがある作家だが(内容や堅実な問題提起など信頼度の高い書き手と思う)、フィクションは初めて。連載ものは追えないのでなかなか読めないのだが、第一回ということもあり、ちょっと読んでみた。ブラッドベリの夢というか、ベーシックなSFの魅力を描き切ることのできる作家なのだなあという印象(それは美点)。ひねたオヤジSFファンには少々眩しすぎるが。
「マルドゥック・アノニマス冲方丁
 このシリーズも未読で、新連載ということで読んでみた。さすがにこれだけだととっかかりが少な過ぎたかなあ。背景世界の認識がさすがに必要だったかも。
「影が来る」三津田信三
 円谷プロSFマガジンのコラボ企画《TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE》。ウルトラQを最近観ていたので、楽しめた。著者のコメントのように、ウルトラQ自体のテイストとは多少ズレがあるが、登場人物を生かして、怪奇譚と上手く融合させている。
「製造人間は頭が固い」上遠野浩平
 上遠野浩平も少ししか読んでないな。なんとなくアメコミヒーローものを思わせる話で、敢えて書き割りのようや世界設定を持ち込み、現代を切り取るような視点かわどことなく感じられる。
「とこかまた別の場所でトナカイが」ケン・リュウ
 既読。
「長城」(中篇)小田雅久仁は後篇のところにまとめて感想。
○ノンフィクション
「乱視読者の小説千一夜」第45回 果てしなき饗宴
 アダム・サールウェルによる伝言ゲーム的翻訳企画の話。それも錚々たる作家を集めてのものについてで、若島先生のは大抵読んでるけどこれは未読だった。毎回面白いなあ。
SFマガジン2015年4月号
 こちらは読み切りのみ。
「長城」(後篇)小田雅久仁
 3号連載の作品。<長城>によって戦いが行われている世界が背景にあり、選ばれた<戦士>はもう一つの日常で突然覚醒して敵を惨殺しなくてはならない。日常から不気味な"向こう側"へ移行する生々しさの描写力が傑出している作家で、本作にも遺憾なく発揮されている。
「ガニメデ守備隊」谷甲州
 <新・航空宇宙軍史>シリーズ、断片的にほんのちよっとしか読んだことがなく、またミリタリー物に疎いこともあり、感想は保留。ただSFミステリ形式になっているのはわかって、機会があればシリーズの代表作は読もうかな。
「怪獣ルクスピグラの足型を取った男」田中啓文
 円谷プロSFマガジンのコラボ企画《TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE》。怪獣足型採取のプロ<足型屋>の奮闘が描かれる。主人公の足型採取の師匠なのが70歳"田中啓文"で笑える。もちろん全体の基調はコミカルでひねったオチなのだが、怪獣災害の裏にある世知辛い政治事情など、時代の変化で失われた昭和中期への哀感あるオマージュといったムードも漂う。
「良い狩りを」ケン・リュウ
 既読。
SFマガジン2015年6月号
 少ない読み切り短篇のみ。
「痕の祀り」(あとのまつり)酉島伝法
 ≪TSUBURAYA✖️HAYAKAWA UNIVERSE≫の短篇、つまりまさかの酉島伝法ミーツウルトラマンという作品である。怪獣と思しき存在の死体解体業者に焦点があてられ、ユニークな漢字表現でグチョグチョの気色悪い世界になっていくのが作者らしい。謎の部分も多く、また同じ設定の作品を読んでみたい。
神待ち」松永天馬
 作者はバンドをやっている人のようだが、主人公が"カントク"で、映画を撮っていくシーンなどに映画製作をテーマしているメタフィクション 的な側面が出ている印象。(実際にこの号から後に映画も撮っているようだ)
「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」
(<パシフィック・マンスリー>誌二〇〇九年五月号掲載)」ケン・リュウ
 既読。
SFマガジン2016年2月号
 読み切りは2作のみ。
「契約義務」ジェイムズ・L・キャンビアス
 戦闘を含め機械が宇宙で役割を大きく果たす未来。とある業務を担った士官が遭遇する出来事。小品だがよくまとまっている。
有機素子板の中」早瀬耕
 VRものといえそうかな。冒頭のイメージが結末と対応するところは技巧的だが、題材として興味があまりもてないところがあって。時代のズレも出てきているかもしれない。
 あとこの号はスターウォーズと火星SF特集でJ・J・エイブラムズやアンディ・ウィアーのインタビューが収録されたりしている。が、目を引かれたのは添野知生<「スター・ウォーズ」と現代のスペースオペラ映画>。ライトセーバーの元ネタがエドモンド・ハミルトン「アンタレスの星のもとに」ではないかという『スター・ウォーズはいかにして宇宙を征服したのか』(クリス・テイラー)での指摘。この号はこのコラムの前半で、その記載自体は次号なんだけどね。不勉強ながら、ハミルトンってアメコミとの関わりが深いんだね。あと最初のスター・ウォーズで脚本のリイ・ブラケットエドモンド・ハミルトンの妻だし、結構近い関係だな。
 さてコミック。
◆『うる星やつら高橋留美子 30-32、34巻
 ようやく全体をちゃんと読了したが、病いは治っていないので、いろんな版をまた買ってしまうだろう(諦念)。
◆『らんま1/2高橋留美子 1-22巻
 というわけで、らんまに順調に移行(苦笑)。八宝菜とか時代的に合わないキャラクターやネーム・展開が多々見受けられ頭が痛くなるが、次々と馬鹿馬鹿しいアイディア(格闘チアリーディングとかどうやったら思いつくんだ)を生み出す手腕は天才としかいいようがない。マンガの特性がフルに生かされた絵のタッチもポップで、時代を超えた魅力にあふれている。
◆『大奥』よしながふみ 8巻
 昨日長男が、録画したNHK「大奥」を観ていたので、改変歴史ものというジャンルがあること、いかに凄い作品かを早口でしゃべるオタクと化してしまった。ということでNHKでやっているのに気づいて、7巻までで中断してしまっていたことを思い出し、慌てて再開。史実とのすり合わせの妙(アクロバティックでいながら史実と呼応している)があまりに見事で毎回感心してしまう(いつも同じような感想になってしまうのだが)。ドラマもなかなか面白そう。