諸般の事情で少なめ。
『黒魚都市』サム・J・ミラー
『2010年代海外SF傑作選』の「プログラム可能物質の時代における飢餓の未来」が面白く、NYのSF作家でゲイということで、ディレイニーの系譜と思い、こちらも読んでみたが少々予想していたものと違い、もう一つ好みではなかった。現代のポストサイバーパンク的ディストピアで、たとえば陳楸帆『荒潮』あたりと共通するところはあるのだが、多少登場人物の関係や集団の勢力関係が入り組んでいるように感じられ読みづらく思えた。家族関係に対する複雑な感情が出ているところが親しみづらいところ点、動物との共生関係を有する集団が活躍するところに関して、そもそも動物との共生関係という視点に個人的にあまり関心がない点、あたりが理由だろう。一方、SFマガジン2019年6月号「髭を生やした物体X」も読んでみた。これはBLMも関わるが、ゲイ・NYといった要素がよく出ている、物体Xもので、こちらは楽しめた。いずれにしても注目の作家であることは間違いない。
『中国・アメリカ 謎SF』
まずタイトルが楽しいよね。アメリカの未紹介作品を柴田元幸氏が、中国の未紹介作品を小島敬太氏が持ち寄ったという偶然性の強い企画だが、変わった作品が多くて、SFファンで変な小説好きには嬉しい本。
「マーおばさん」ShakeSpace(遥控)
人工生命の真実の姿とは。全体はオーソドックスなアイディアSFといってもいい内容だが、意表をつかれた。
「曖昧機械ー試験問題」ヴァンダナ・シン
不思議な機械に影響された人間の行動が、三者描かれる。淡々と描かれる奇妙な出来事の切なさと、ちょっと距離をとったようなラストがなかなかよい。
「焼肉プラネット」梁清散
タイトルそのまんまだが、相反するような宇宙飛行士の苦闘ぶりが可笑しい。
「深海巨大症」ブリジェット・チャオ・クラーキン
これまたタイトルがストレート過ぎる気もするが、潜水艦の探索のきっかけとか主人公の関係とか通常のパターンからあまり意図せず逸脱しているような味は独特。
「改良人類」王諾諾
病を持つ主人公がコールドスリープで未来へ行ったら…というある意味王道パターンの短編SFだが、ユーモア風味でオフビートに流れていくのが楽しい。
「降下物」マデリン・キアリン
集中では、終末感の強いシリアスな作品。考古学者っぽい視点や描写が面白い。
「猫が夜中に集まる理由」王諾諾
これは少々ズルいですな(笑)。猫好き必読。
年代傑作選のようにじっくり編まれたアンソロジーと違う、今の時代のレポートといった趣きがある。その分、ややバラつきもあるが、昨今、分野として継続しにくくなりつつある小説雑誌的な役割を担うタイプで、こういったものが出続けて欲しい気がした。
『70年代ロックとアメリカの風景』長澤唯史
著者の長澤唯史氏には名古屋SF読書会などで大変お世話になっているが、そういったこととは無関係に非常に面白い本だ。特に日本のロック評論の長年の課題である歌詞の分析を、英米文学者でロックファンという貴重な人材が一般読者にわかりやすく解説していることの意義は大変大きい。シミルボンに書きました。
https://shimirubon.jp/reviews/1703982
あと映画。
「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」(2017年)
CSでやっていたものを録画視聴。原作はピエール・クリスタンなのか(『着飾った捕食家たち』未読だけど)。ハービー・ハンコックが出てるのは意外。興行芳しくなかっただ。よつだが「フィフス・エレメント」と同じく、(選曲はベタながら) 定石を所々はずれながら、極彩色の美術感覚が光るSF活劇。無駄に凝ったリアーナのダンスシーンが良かった。興行的に微妙でもどうしてもこういったSFものが撮りたいリュック・ベッソン、というのも面白い人だなあと思う。いや、独特の味があって個人的にはこの路線割と好きなんだけどね。