異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2019年9月に読んだ本、読書関係イベント

なかなか読書の調子が出ない(諸般の事情もあり)。
『ピカルディの薔薇 幽明志怪』津原泰水
 伯爵・猿渡コンビのオカルト探偵ものの傑作といえる『蘆屋家の崩壊』の続編だが、後書きに「似たようなものを書き続けることほど小説家を疲弊させる行為はない」にあるように、視点とか時代背景だとかひとひねるあるものが多くバラエティにより富んでいる印象。ただ各編はもちろん面白く、創作のあれこれを紹介している後書きも楽しい。
『死者の饗宴』ジョン・メトカーフ
 1891年生まれの作家でこの時代らしい怪異が表現されていて、(解説でなるほどと思わされた構造を持つ「ふたりの提督」や舞台背景に雰囲気のある「悪夢のジャック」「ブレナーの土地」など悪くないが、印象が強いのは異色作家短篇集(2007年『棄ててきた女』)に収録された「煙をあげる脚」と国を越えて逃れられない恐怖が忍び寄る表題作の2作かなあ。
パヴァーヌ』キース・ロバーツ
 実は通しできちんと読んだことがなかったのです(笑)。想像していたより精緻なつくるになっているのとヘヴィなストーリーが並んでいるというのが正直なところ。世評が高いのには納得。細かな原語の言葉遣いとかを思うと読み返してもいろいろ発見ができそうな作品だ。
 第24回怪奇幻想読書会に参加、課題図書『特別料理』スタンリイ・エリン『さあ、気ちがいになりなさい』フレドリック・ブラウンを再読。ついでにサンリオSF文庫フレドリック・ブラウン傑作集』も再読。どちらも技巧派といえる作家で高品質な作品が並ぶが、方向性は大分違う。2次会も久しぶりに参加できて楽しかった。主催者kazuouさん、参加者の皆さんありがとうございました。
『特別料理』スタンリイ・エリン
 表題作がデビュー作っていうのはホントにすごいなあと思う。というわけで早くから完成された作家で、非常に洗練されたテクニックを持っている。再読してみて、映像的にインパクトのある作品を書くというより、テキストの中でしか表現できないオチや肉づけの部分などに上手さの光る作家だという気がした。
『さあ、気ちがいになりなさい』『フレドリック・ブラウン傑作集』フレドリック・ブラウン
 ブラウンはあまりにも日本SF第一世代に模倣されていて、ブログ主のように中学の頃にそういった短編を読み漁った人間には特にショートショートは素朴な宇宙人・異星描写などをはじめなかなかキツいところがあるのだが、かえって中編ぐらいのものの方が良かった。ちょっとスチームパンクっぽい「電獣ヴァヴェリ」奇想でありながら見事に話が収束しミステリとSF双方で活躍した資質が確認できる「さあ、気ちがいになりなさい」、『アルジャーノンに花束を』の元ネタだとよくわかる「星ねずみ」(こちらは上記では傑作集のみに収録)あたりは今回も面白かった。発想についてはこうした洗練された(ちょっと洗練され過ぎだけど)アイディアSFの形をつくり上げた元祖のような人だけあって、感心させられるものがあるが、「ノックの音が」や「沈黙と叫び」とかはもしかしたらパラドックスのお題から懸命に考えたのかなあという気もしたりする。もしそうならなかなか煮詰まり易い創作法ではないかと思うが、それを形にしていく「アイディアの人」でそこは天才的なものがあったのだろう。
 名古屋SFシンポジウムに初参加。
 パネル1「100年前の幻想小説を読む」
 ゲスト中野善夫(幻想小説研究翻訳家) 司会舞狂小鬼(文芸評論家)
 ふだんからお二人にはいろいろ教えていただいているのだが、今回の内容は中野さんの歩みを紹介し、どのように幻想小説に触れてきたかというお話を伺うことができた。近い世代としてファンダムの話とか含め非常に興味深かった。話題の「ジャーゲン」がどんな話かというのも面白かった。いわゆる願望充足的な異世界ものをずらしたところにポイントがあるようで、ウルフ「ウィザード/ナイト』にもチラっと言及があり腑に落ちる気がした。
 パネル2「アメコミ(再)入門~映像と翻訳から~」
 ゲスト吉川悠(海外コミック関連ライター・翻訳家) 司会片桐翔造(レビュアー)
 あまりアメコミを読めていないのだが、本当はこの年齢ぐらいになったら肩の凝らないヒーローものやシリーズものに耽溺してブログなどやめるつもりでいたぐらいなので(いやどうしてこうなった笑)、興味のある世界なのである。映画やビジネスの最先端の状況がわかりありがたかった。
 パネル3「SFが生んだミステリ作家・殊能将之
 ゲスト中村融(翻訳家) ゲスト孔田多紀(ミステリ評論家) 司会渡辺英樹(レビュアー)
 殊能将之はその登場によってそれまであまり興味を持っていなかったミステリを読むことができるようになった作家であるのだが、個人的にも特別な作家で(いちおうこことかに書いてます、まあ個人的な感慨なので興味のない方はスルーが吉です笑)、このパネルを特に楽しみにしていた。ご本人の人となりを示すエピソードも良かったが、(あの膨大で多様な!)参考文献に目を通してきた、若い世代の殊能マニア孔田さんの分析は刺激があり再読しなくてはなあと思わされた。
 懇親会も楽しかったです。出演者・スタッフの皆さん、お話させていただいた参加者の方々、ありがとうございました。

 

2019年8月に読んだ本

相変わらず低調(あっちこっち断片的に読んでるパターンが続いてる)。
『雪降る夏空にきみと眠る』ジャスパー・フォード
 冬眠を中心にした社会というのをこれほど真正面から扱ったSFというのもなかなかないのではないか。ディストピア社会の状況、個性的な登場人物たちの造型や関係性など面白い点は多々あるが、なかなか豪快なアイディアなので多少つくりものっぽい感じと死者が多く出る割には淡々と進行する感じでもう一つ趣味に合わなかった。
『異形の愛』キャサリン・ダン
 自身の子どもをデザインして見世物小屋ファミリーを形成するという衝撃的な小説。1989年発表ということで本人のユニークなキャリアと共に作品の発表が事件となったことはよくわかる。読む者のの常識を揺さぶる作品だが、一方でアメリカらしい家族の物語なのだなあとも感じられた。

2019年8月の旅行

今月上旬に奈良旅行に行ってきたよ。

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やっぱり大仏は大きかった。

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鹿のみなさん。

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そして夢殿!厩戸王子!日出処の天子!テンション上がりまくり!気温も上がりまくり!(暑かった・・・)

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春日大社の鹿のおみくじも可愛い❤️

興福寺の阿修羅像、生まれて初めて見たんだけど素晴らしかったな・・・。あの細い腕の長さに少年の非日常性が現れているんだなー。

 

おしまい。

2019年7月に読んだ本

7月はいろんなつまみ読みが多くて、雑感としても書けるのはこの程度
『愛なんてセックスの書き間違い』ハーラン・エリスン
 SFアイディアがない分、エリスンのエモーショナルな面がわかりやすく出ていて面白い。自信満々に見えたエリスンだが、解説にある「自分がインチキではないかという疑念」につきまとわれていたというのは非常に興味深く、たしかに一部の作品には作家の不安が描かれている。
『霊応ゲーム』パトリック・レドモンド
 抑えめに不安を高めていく前半と、畳みかけてくる後半のコントラストが効果を上げていて、それなりの長さを感じさせない。ポイントとなる登場人物が、巧みに予想とずらされていてそれも良かった。ただストーリーやエピソードはかなりキツめなところが多く、未読でそういうのが苦手な方はご注意を。
『ドイツのロック音楽―またはカン、ファウストクラフトワーク』明石政紀
 最近ドイツのロックいわゆるクラウト・ロックをよく聴いている。Brian EnoがらみでDavid Bowieのベルリン三部作だとかEno & C;lusterだとかKraftwerkHiphopの関係性だとかそういえばいろいろ面白いかもと思ったのだが、一番のきっかけはHolger Czukayが早期からワールドミュージック的なアプローチをしていたのとDubにも取り組んでいたことに気づいたのである。
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Holger CzukayのCool in the PoolはParliamentのCrush Itに妙に似ていたりするのも面白いと思った(Holgerの方がより混とんとしていて少し早い)。
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さて本の方は20年前でちょっと情報としては古いのだが、名の知られたバンドにしぼられていて初心者としてはわかりやすくまとまっていた。曲が秒数表示なのはわざとかもしれないがちょっと一般的ではなくあまりいいとは思えない。
ワンダーブック 図解 奇想小説創作全書』ジェフ・ヴァンダミア
 ファンタジーやSFの創作方法をユニークに解説した本。

2019年7月に観た美術館、ライヴ、TVドラマなど

 ちょっと早いがそれなりにいろいろあったので今月まとめ。いつにもまして身辺雑記風。
学会で岡山に行ったので観光もしてきた。岡山ははじめて(実は母方の祖父祖母が岡山出身でルーツの一つなのだが、二人とも結婚してすぐ神奈川県の川崎市に引っ越したのでほとんどの親戚が東京にいて岡山に行く機会がなかった)。不勉強ながら岡山城のすぐ後ろにあるので後楽園と知った。庭園は基本的に好きなので行けただけでも満足だったが、水田や茶畑があるのが面白かった。
さらに倉敷にも行ってきた。美しい古い街並みが素晴らしかったが、驚かされたのは大原美術館。明治生まれの画家、児島虎次郎が親しかった倉敷の実業家大原孫三郎の後押しで1930年に創設された美術館で、印象派からポップアートまで国内外の有名な作品や美術家がずらりと並んでいた。彼らのセレクションが日本で紹介される芸術家の傾向に相当影響を与えていて、そのため知ってるものばかりに見えるのではないか。そういう意味で非常に日本美術史で重要なコンビのように感じられる。あと工芸館で知ったのは東京高等工業学校(東工大の前身)には図案科や窯業科があったこと(職工の育成も創設の目的だったから当然か)。
星野仙一記念館は少し迷ったが入らなかった(笑)。
Twitterのお告げで古京文庫(土地名でふるぎょうと読むようだ)にも足を運び記念の数冊を・・・(いつものことであった)。
そうそう岡山で食べたままかりは美味であった。また行きたい。
Twitterで偶然気づいたジャネール・モネイZepp Diverⅽity Tokyo)のライヴに慌ててチケットを取り行ってきた。
ジェネール・モネイこそP-funkのアフロフューチャリズムを受け継ぐまさしく後継者といえる存在だからである。とはいえ最近情報に疎いため、いろいろなことを取りこぼしているようなのだ・・・・とはいえ気づいたし行ける日(しかもどうしても行けないフェスを除けばワンデイライヴ!)という幸運の重なりに感謝しつつ参加したライヴは、濃密な隙のないパフォーマンスと徹底したファンサービスの中に差別と戦うストレートなメッセージ性があふれ最高だった。キャブ・キャロウェイ、JB、マイケルにジャネット、プリンス(一瞬見せた猫ポーズは犬文化アウトローであるプリンスの系譜からだろうか)、P-Funkなどの先達の影響や公民権運動など歴史意識といったブラックカルチャーの歩みを強く意識させるところも多くあった。一瞬見せた猫ポーズは犬文化アウトロー、プリンスの系譜からだろうか(笑)。今回のライヴについてはオジサン客が多いことに端を発したTwitterでの小騒ぎがライヴ後にあり(某音楽評論家が若い女性がもっと参加すべきだとTweetし批判が多かったためかそれを削除)、いちおうオジサンの一人として言及しておこう。ジャネールの曲はポストヒューマン的な意匠をまとっているが、近い世代の女性の視点からLGBTの様な社会的弱者へと広がっていくという要素がある(性的な内容もある)。そのため、抑圧する側の年長男性がジャネールの良さを伝えるといった図式に違和感を覚える向きもあるだろうし、自分自身が場違いな存在だと全く疑わなかったわけでもない。ただ臆せずストレートなメッセージを発し非常に高度なショウとして完成させているジャネールの姿はオジサンである自分にも勇気づけられるものがあったのは事実であり、記載しておきたい。

AXNミステリーの「犯人はこの中にいる」録画していたのを観た。原題はOne of Us、60分4話完結。スコットランドの田舎町を舞台にした、タイトル通りの本格ミステリで荒いところもなくはなかったが、スコットランド雄大な自然が謎解きとマッチしていてなかなか良かった。

おまけ。今月の録画消化スタトレ。S9シーズン4の24話 「星に死の満つる時(The Quickening)」、ある星の病の治療法を見つけようとするという点では先日観た宇宙大作戦の「400歳の少女(Miri)」と同じ話なんだけど、後者がシンプルな問題解決ストーリーなのに対し、病の苦しみへのアプローチの問題とか扱われ30年の時代の違いを感じた。

※追記 そうそうホテルのオンデマンドで映画「search/サーチ」も観た。SNSスマホやTV画面の中のみでストーリーが展開するいかにも現代らしい映像表現のサスペンス。それもそのはず監督のアニーシュ・チャガンティはまだ20代らしい。リブート・スタートレックのスールー役のジョン・チョーが失踪した娘を探す、アジア系が主人公なのも親しみやすい。非常に完成度が高かった。以前劇場で予告編を観た時から気になっていたが、劇場よりも家やPCなどの方が向いているタイプの作品だと思う。