~作者の情念が人生の真実を照らし出す、昏く重い傑作~
事件時に少年だった作者。
ほぼ迷宮入りとなってしまった事件の真犯人に、成人となった作者が警察関係者と迫るノンフィクションである。
事件そのものに加え、同時期の関連が疑われる複数の事件に関する出来事も追っていくため、登場する警察官ら捜査担当・証人・容疑者などの数は夥しい人数に及ぶ。
なにしろ事件は1958年、作者が取り組むのは1994年から。
35年余りの時が経過しており、捜査は遅々として進まない。
多くの手がかり、容疑者が現われては消え、それが関連人物・事項が多岐に及ぶ理由でもある。
オブセッションに深く囚われた作者は、捜査担当である専門家と繰り返しディスカッションを重ね、何度も足を運んで関連の裁判を傍聴し捜査にも立ち会う。
実地の犯罪調査をなぞる筆致は、タイトではあるが派手さはなく、また執拗なまでの細かく、時に読者を混乱に陥れ、闇の深い出口の見えない世界に引きずり込む。
それでも事件は深い霧に包まれ、真犯人は杳として姿を現さない。
しかしそんななかで、作者がたどり着いたのは母の実像に迫ることによっての、母との和解だったのだ。
そして読者であるわれわれも、ここで重要な事実に突き当たる。
犯罪に巻き込まれてしまった本人がいかなる人であったかという事。
被害者という名のもとにくくられてしまう、本当は一人一人が喜び悲しみ日々を送っていた多様な顔を持つそれぞれの個人であった事に。
事件の真実を明らかにすることは、なぜ事件の解明に向かうのかという自己への問いかけでもある。
本書の中で作者は、自らの過去もさらけ出す。
それによって、事件と自らの関係をひたむきに掘り下げていく。
そして、母と自らの魂の交わりを明るみに出さざるを得なかったエルロイの昏く深い情念が浮かび上がってくる。
事件の真相を追うとはどういうことなのか、それは誰のためなのか。
軽く読み飛ばせる作品ではなく、読後に爽快感が得られる事もない。
しかし、事件に向き合ったエルロイが被害者である母の真実を照らし出し、和解に至る心境に、多くの読者は心を揺さぶられ、生きる意味を考えることだろう。(2023年1月1日)
さてこれで、<シミルボン>の再投稿は終了。スローペースだったが、終了の年にも上記を投稿しているので、結構気に入っていたサービスだった。ざっくりの感想はこのブログで、まとまった文章は<シミルボン>で、みたいな使い分けもしやすかったし。再投稿してみると、我ながら割と頑張って書いていたなーという気もしてみたり。とにかくあらためてありがとうございました。