異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2024年7月に読んだ本と参加した読書会・読書イベント(あるいはジーン・ウルフでいっぱい(いっぱい?)の月

 とにかくここのところ『デス博士の島その他の物語』に全振りして、関連読書をしたりなど。(他にももろもろ立て込んでいたので、いっぱいいっぱいでもあったり(苦笑)

 というのも、よく参加をさせていただいている怪奇幻想読書会の7月のお題が『デス博士の島その他の物語』だったのである。
kimyo.blog50.fc2.com
 余裕がなくてまとめられないけれども、ジーン・ウルフについて初めて沢山話すことが出来て最高の日だった。主宰者kazouさん、参加者の皆様ありがとうございました!!
 本当は先月の感想とまとめた方がよかったのだが、

funkenstein.hatenablog.com
そこはおいおい考えることとしてとりあえず(いつもの)備忘録で関連のもろもろを記述。
・「取り替え子」(『ジーン・ウルフの記念日の本』収録)

 『デス博士の島その他の物語』のまえがきには「島の博士の死」というなかなかいい感じの掌編が入っているのが有名だが、冒頭に本書以外にも島についての小説があって「取り替え子」もそうだという記載があり、ちょっと意表をつかれる。島が出てきたっけ!?となり再読する羽目になる(こんな風にわずか一文からジーン・ウルフをいろいろ再読することになるのがジーン・ウルフ読書)。で、たしかに島が出てくる。それは子どもたち遊ぶ川にあるちょっとしたひみつ基地の”島”である。誰にでもある子どもの身近な体験が作品の核にあるのが嬉しい。信頼できない語り手だが、信頼できる作家なのだ。
・「探偵、夢を解く」(『闇の展覧会』1982年版では<1>、新装版では<敵>に収録。いずれも入手困難だが)

 シャーロック・ホームズがベースにあるというのは当然として、今回も手がかりが得られず。しっぽをつかまえられたかなと思ったら、するりと逃げられてしまう、そんなのもジーン・ウルフ。(わからないとつい検索して、えに熊さんの<熊は勘定に入れません-あるいは、消えたスタージョンの謎->の記事を何度も何度も読んでしまう。
blog.goo.ne.jp
 さらっと「マタイの福音書」だと指摘するところがえに熊さんの教養の深さ。うーむこの境地にはいまだ足元にも及ばぬ。というわけでこの方の読みのシャープさ深さは追随を許さないものがあるのだが、近年のブログ更新は年1-2回だろうか。またウルフについても書いてくれないかなあ。
 以下3作はSFマガジン2019年10月号ジーン・ウルフ特集号から。

・「ユニコーンが愛した女」
 遺伝子工学で伝説上の生き物を誕生させることが可能となった未来のキャンバスでユニコーンが現れる。一読ではブッキッシュな青春小説といった作品だが、ウルフだからなあ。
・「浜辺のキャビン」
 仲睦まじいカップルのリゾートという穏やかな場面が静かに一転、そして見事なラストへ。素晴らしい。
・「太陽を釣り針にかけた少年」
太陽を釣り上げるというイメージが鮮やかな掌編。どこから着想を得たのだろう。
・「金色の都、遠くにありて」
 次号12月号との分載の中篇。2004年の作で、解説にもあるように普通の少年の異世界転生譚で≪ウィザード/ナイト≫を想起させる。重層的でありながらレイドバックした味は近年作らしく、これまた楽しく、また詳細な解説もありがたい。
 「アメリカの七夜」に出てくるゴア・ヴィダル原作の演劇『ある小惑星への訪問』Visit to a Small Planetのyoutubeについてbeatnikの場面だけ言及したが、もう少し感想を。地球が気に入った異星人が婚約者がいるヒロインと仲良くなってしまい、ヤキモキする婚約者と揉めたりなんだかんだと大騒動になるコメディ。旧弊なところがあってヒロインから窘められる婚約者には、ゴア・ヴィダルの諷刺精神がみられ全体の流れもスムースだが、ジェリー・ルイスの持ち味かオーソドックスなドタバタ劇の枠組みから逸脱はしていない印象。本作との関連はちょっとみえてこなかった。
www.youtube.com
オリバー・ツイスト』チャールズ・ディケンズ

 言わずと知れた不朽の名作だが、初読でこちらも「死の島の博士」解読のため本棚から引っ張り出してきた。実は主人公オリバー・ツイストが出ずっぱりでその生涯が追われていく作品、というわけではないのだね。それはともかく、このオリバーを中心とした様々な登場人物が織りなす起伏に富んだドラマ性が美点で、当然ながら後世への影響として現在のフィクションにも通じる面が多々あることが確認できる。訳者解説は批評性の高いもので、短所もしっかり指摘され、これまた読み応え十分。「死の島の博士」で引用部分は本作のダークな部分から抜き出されていて、それは直接書かれてはいないアルヴァードの行動を暗に示すものなのかどうか。
 

 そして長澤i唯史先生の指輪物語講義もいよいよ佳境。
www.asahiculture.com
 今回は『王の帰還』へ突入。多くの登場キャラクターが織り成す複雑なストーリーが綿密に練り上げられていることがよくわかる。戦争というものが実際の体験もふまえ俯瞰そして実地と多角的にとらえて表現されていること、おそらく意識的に作品内のキャラクターが対比的に描かれていることなど、作品の奥深さもわかりやすく提示。いつもあっという間である。