異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 『洋梨形の男』ジョージ・R・R・マーティン

~人気作家による抜群のリーダビリティを誇る傑作集~

 
 今や≪ゲーム・オブ・スローンズ≫の原作者といった方が通りやすいのではないかと思われるジョージ・R・マーティンだが、初期には「サンドキングス」などの中短篇SFで注目を集め日本でも同じように人気に火がついた作家で、その頃を覚えているオールドファンには嬉しい中短篇傑作選である。
 登場する料理がいちいち (カロリーはめちゃ高そうだけど)美味そうなダイエットホラーで解説にあるようにどことなくカーシュを思わせる「モンキー療法」。
 奔放だった青春時代もすっかり過去のものとなった仲間うちで唯一人大人になり切れず過去を蒸し返すメロディーが実にイタくも切なく中年の悪夢といった趣の「思い出のメロディー」。
 周囲をかえりみることなく創作を行いたい作家の欲望が赤裸々に語られ (るかのように思われ)ついつい自身の本音かと読者に邪推させるエグい傑作「子供たちの肖像」。
 意外な展開に呆然となる「終業時間」。
 引っ越した部屋の真下に住む不気味な男の食べる甘くしつこい食べ物が何だか胸やけをおこしそうな「洋梨形の男」(料理をめぐるイマジネーションではいかにもアメリカ作家らしいものが「モンキー療法」と共に感じられ、同じアイディアでも日本料理をベースにするとまた違ったものとなるのではないかとふと思った)。
 大学時代にチェス大会で逆転負けした男が10年後に開く同窓会が舞台の見事なチェス小説「成立しないヴァリエーション」(ちなみに本書と同じ年の少し前に刊行されたチェス小説アンソロジー『モーフィー時計の午前零時』に収録されてもおかしくない作品だが、本書に収められることが分かって入れなかったのか元々リストになかったなかちょっと気になる)。

 どの作品もリーダビリティが高くて面白く、特に中篇ぐらいの長さのものが素晴らしい。
 また「思い出のメロディー」「成立しないヴァリエーション」など忘れた過去が呼び戻す苦さとその余韻にこの作家らしさを感じるものがあった (こちらが年を取ったせいかもしれない)。
 いずれにしてもどんな読者にも「買い」だといっても間違いない一冊だろう。(2016年8月22日)