以前はサンリオSF文庫で刊行されていた知る人ぞ知る名短篇集の復刊。とはいえ再刊されるまで本書のことはあまりよく知らず、19世紀中頃の早世した作家であることもこの本を通じて知った。
時代を感じさせない端正な仕上がりで視覚的イメージの鮮やかな作品が多く非常に驚かされた。
多彩な作品をものにする技巧は素晴らしく、解説にある<変幻自在の小説の魔術師>も決して誇張ではない評判通りの作品集である。
生活の全てを顕微鏡を使っての研究に捧げてしまった男が主人公でミクロ世界の描写が美しい表題作「金剛石のレンズ」。
ちょっと不気味な前半から一転して後半は心霊探偵ものの展開になりうならされる「チューリップの鉢」。
丹念な風景描写からじわじわ不安が高まる傑作で高サンリオSF文庫版のタイトルだったのも納得の傑作「失われた部屋」。
わずか6頁だが孤独な少年の姿が心にしみる逸品「墓を愛した少年」。
これまた小品ながら魔的なイメージが炸裂する「鐘つきジューバル」。
前半の南洋を舞台とする超自然的なイメージの物語がこれまた後半思わぬ展開をみせる「パールの母」。
コミカルでブラックなサスペンス小説「絶対の秘密」。
重力を克服した科学者が描かれる早過ぎたハードSF「いかにして重力を克服したか」。
手妻使いパイオウ・ルウの行う様々な奇跡を描いた中華風ファンタジイ「手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙」。
怖ろしい力を持つ木彫りの人形が残酷童話風に描かれ映像作品に合いそうな「ワンダースミス」。
奇怪な身体のイメージに満ちたホテルが夢に出てきてしまいそうな「手から口へ」などがとりわけ印象に残ったが、傑作選だけあって収録作は実に粒揃いで、言及しなかった作品含め全14篇どれも面白い。
私見だが、「チューリップの鉢」「パールの母」などにみられる意表をついた展開には独特のリズムがあって、計算ではなく作者の天性のセンスによるもののではないだろうか。
いずれにしても内容は多岐にわたりまた現代的で先駆的な要素が多く、そういった多彩な作品をものにする技巧が非常に素晴らしい。
まさしく解説にある<変幻自在の小説の魔術師>にふさわしい作家である。作品の質と多様性をみると33歳での早世が実に惜しまれる。(2016年8月21日)