異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2022年11月に読んだ本

 諸般の事情で積読本の消化を目指すも、相変わらず低調だなー。
◆『ジョナサンと宇宙くじら』ロバート・F・ヤング
 昔の版は「くじら」がひらがななのよね(2006年のはカタカナ)。
「九月は三十日あった」
 未来で時代遅れとなってしまったアンドロイド教師を家族のために購入した男の話。1962年の短編集で、全体の倫理観のずれがあるのはやむを得ないが、経済論理優先で教育問題が生じるという図式はあながちアナクロとも笑えないところがある。
「魔法の窓」
 婚約者のいる男が画廊にあった少女の絵が頭から残って離れなくなる。冒頭の「九月は…」もそうだが、パートナーのいる男性に訪れる心の影みたいなものを描く話がしばしばある印象。なかなか味のある奇想短篇。
「ジョナサンと宇宙くじら」
 宇宙を駆ける巨大な存在、という魅力的なイメージを喚起する<宇宙くじら>だが、割と安直な擬人化がなされているのが古く感じられあまり好みではない。
「サンタ条項」
 悪魔との契約もの。目新しさはないがドタバタも上手い。ただちょっと女性に対する考え方はアウトオブデイトな感じは否めないな。
「ピネロペへの贈りもの」
これは猫SFアンソロジー『猫は宇宙で丸くなる』にも収録されたユーモア小品。
「雪つぶて」
 ファーストコンタクト失敗ものだが、ユーモアより痛みが目立ち、その辺りにヤングの作家としての特徴がありそうだ、
「リトル・ドッグ・ゴーン」
 未来の人気役者が煮詰まって辺境へと逃げる話。で、再起として宇宙でドサ回りのメディシン・ショウをはじめ、それがまたスクリューボール・コメディだったりする未来とノスタルジーの取り合わせが効果的な傑作。これも三角関係が扱われている。
「空飛ぶフライパン」
 フライパン工場で働く娘に起こった出来事が描かれる。一見…と見せかけてというひねりの効いた一篇。
「ジャングル・ドクター」
地球に不時着した宇宙人と、遭遇した男の話。宇宙人が少女に見えるということで、たびたび少女をモチーフに取りがちな印象があるヤング。一方で「少女に見えるが実は」というパターンもよくあり、純粋性と少女性を安直に重ねているわけでもなさそうとも思える。ラストには希望もみえるが、この男の背景にあるものは重く、筆致にも影が差している。
「いかなる海の洞に」
遺産相続で裕福になった男が婚約者のいる女性と恋に落ちる。比較的ゆったりと描写から始まるのでミステリっぽい話なのかなとぼんやり思っていたら、予想外のエスカレーションで進行して面白かった。これまた三角関係が出てくる(男1人女2人のパターンが多い印象)。
 代表作である「たんぽぽ娘」が全く良いと思えないヤング、一冊の本としては『ピーナツバター作戦』以来。正直もうあまり記憶に残っていないけど、良くない先入観を変えるようななにかは感じられなかった。しかし(こちらの年齢の変化もあってか)、本書は全体的に苦い話が多く、ヤングの人気の一端をようやく理解することができた。他にも短篇集があり、チェックしたくなった。
◆『第三の魔弾』レオ・ペルッツ
 アステカ王国のスペインによる征服の時代、ドイツの伯爵がからむ幻想歴史小説。緻密な構成による語り手の視点移動が正直まだ咀嚼できていない(どうも読書の調子が最近芳しくないのだよな)状況だが、悪魔の呪いがかけられた三発の銃弾という読者牽引力の強いフォーマットで癖のある登場人物達が跋扈する残酷な歴史絵巻が繰り広げられる。おどろおどろしいというより民話的な悪魔などの非日常的世界の導入はユダヤ的なセンスなのかなと思う。それにしても時代が時代だけに、全体はテンポよく進むものの、なかなか陰惨かつ利己的人物ばかりのヘヴィな作品である。
◆『アンチクリストの誕生』レオ・ペルッツ
 読書会のために再読。
 これまで好きな短篇集10選とか

funkenstein.hatenablog.com
 2017年のTwitter文学賞に投票したりとか、大大大好きな本なのだが、実はまとまった感想を書いたことがなかったので、今回書くことにした。
 「主よ、われを憐れみたまえ」(タイトルにも「」がついている)
 ロシア革命時代の秘密警察を舞台にした暗号解読サスペンス。キリスト教的な要素を大きく含み、こちらの知識不足もあり、暗号ミステリの側面がどの程度あるのかは図りかねる。しかし、読者を惹きつけていく意匠は明らかに現代に通ずるもので、先駆的なセンスが感じられる。
「一九一六年十月十二日火曜日」
ある時間の一点が無限の広がりを持つという美しさ表現した小品。
「アンチクリストの誕生」
過去のある貧しい夫婦の日々が一転、息もつかせぬ展開に。これまた発表されたばかりといわれても違和感のないスピード感と結末である。傑作。
「月は笑う」
 月恐怖症の男爵の話。集中では怪奇趣味が強い一作。
「霰弾亭」
 第一次大戦前のプラハで兵士たちに起きた人間模様が描かれ、普通小説といってよい作品だろう。語り手に動きが少なく傍観者的な立ち位置である点が少々物足りなく感じられるが、巻末の解説を見ると読みどころは別なのかもしれない。
「ボタンを押すだけで」
 降霊術をテーマにした数十年後のアイディアストーリーを予見したかのような意匠に目を引かれるが、一方で解釈を固定しない結末にもなっているところがまた面白い。
「夜のない日」
 一瞬の輝きのような一人の生涯を切り取っていく趣向の小品だろうか。作者は運命の分岐点や人生の一場面を描くことに意識か向くことが多い印象だ。
「ある兵士との会話」
 これも「霰弾亭」と同じく、ある視点人物から主人公にあたる人物を描き出す形式になっている。これも小品だが、道具立てなどが生きて強い余韻を残す。
 ということで、ペルッツ2冊は「怪奇幻想読書倶楽部 第37回読書会」の課題本。いやー約3年ぶりかな。直接やり取りをする読書会自体も久しぶりで、たっぷり本の話をすることができて大満足。ペルッツボルヘスの類似点、人間が運命をどう生きるかについての強い関心、同時代の音楽などなど興味深いお話を沢山伺うことができた。ありがとうございました!

 
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 さて前回のブログのように、すっかり<うる星やつら>ブームがわが身に復活(はまったのは原作初期だから40年を超えている!)。
 ということで、今月は
◆『うる星やつら』1-11、33巻
◆『うる星やつら パーフェクトカラーエディション 』(上) (下)
 と読んだ。とにかく高橋留美子はすごかったなーというのがまずは感想。他にもいろいろ思ったことがあるのだが、これは別に書く予定。