異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2022年10月に読んだ本や観た映画に行った美術展

 本や映画の消化が低調なのでまとめて(体調が悪いとかではないのですが、この状況はしばらく続きそう。
 まずは本から。
◆『ドラゴンになった青年』ゴードン・R・ディクスン
  実験の失敗からドラゴンの住む世界に飛ばされてしまった恋人を追ったら、そこでドラゴンになってしまった青年。恋人を救うため冒険に出るというユーモアファンタジイ。とはいえコメディというわけではなく、仲間をつくって旅をして苦難を乗り越える割と王道なファンタジイ。なので、ユーモアがメインというより作品発表時(1976年)での現代化のための味つけといえそう。そうした手法はSF作家でもある著者らしい手法だろう。ドラゴンの扱いなど著者の優しい視点も感じられる。ただその現代化が多少鬱陶ところもあり、実は読み進むのに苦労をしてしまった。これがファンタジィそのものと相性がよくないのか王道のやつをもうちょっと読んでみなくてはと思ったりしている。ちなみに終わり方でなんとなく想像できたように、続編があるんだね。<ドラゴン・ウォーズ>というシリーズ名で『ドラゴンの騎士』が翻訳されているようだ。未訳はもっと続いてるみたいだけど
 https://en.m.wikipedia.org/wiki/Gordon_R._Dickson 
◇ミステリマガジン2012年12月号
 ゴシック特集。
「幻のモデルーイースト・エンドのロマンス」ヒューム・ニスベット
 19世紀中盤生まれの作家による1894年の短編集収録作。若い画家が貧民窟で理想のモデルに出会う。画家でもあるらしい経歴の生きた、王道の怪奇幻想作品。退廃の裏に漂う女性恐怖的なものもゴシックの背景なのかもしれない。
「謎のメイジー」ワード・ゲラー
 お屋敷に雇われた少女が出会った怪異とは。訳者解説によるとゴシックの定番がパロディ化された『ノーサンガー・アビー』よりさらに時代を下った作品。というが、ユーモア的な要素をかんじなくはないものの読んだ印象としては王道っぽい。
「風切り羽の安息」中里友香
 英国の学校に教師として入った主人公が遭遇した出来事。『カンパニュラの銀翼』のスピンオフとの事だが、なかなか雰囲気があって良い。
「人魚の肉」中里友香
 過去の日本を舞台に、周囲に病や死の影がつきまとう男女が描かれる。華麗な文体で和風ゴシックの世界を構築している傑作。
以下特集外作品。
「鍵」マイクル・イネス
 自殺と思われる女性の死体現場にあった一つの鍵。王道謎解きの小品。
「警部レオポルド 被害者は誰だ?」スティーヴン・デンティンジャー
 小鷹信光の連載<短篇ミステリがメインディッシュだった頃>についているボーナス短篇。作品が掲載された雑誌<セイント>や当時の雑誌に関する話題がエッセイで紹介されている。この作家、実はエドワード・D・ホックなんだな(ホックは名前のみ知ってて未読なんだけど)。本作は死刑廃止をめぐっての立場と、強盗を射殺した店主の事件が結びつくテンポのよい展開の良作。

 次は映画(とはいえ例によって自宅録画鑑賞)。
『T/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(It: Chapter Two)(2019)
 前作は映画館で観た。やや長尺だったのでなかなか観られなかったが、各キャラクターを描く形式で長くなったのも仕方ないかな。年齢による落差、現代の(特に米国的な)悪夢がテーマになるのがポイントだと思う。前作同様、お化け屋敷っぽい賑やかな見せ場が多く楽しめた。
シド・アンド・ナンシー』(Sid And Nancy)(1986)
 Punk Rockの代名詞ともいえるSex Pistolsの(意外にも)唯一の物故者、典型的な破滅型ロッカーSid Viciousとその恋人Nancy Spungenの悲劇を描いた劇映画。昔劇場で観ているが、CSで前半部の途中くらいをやっているのに遭遇して、結局最後まで。いやGary Oldmanのなりきりぶりはやっぱりすごいな。1986年の作品で時代背景をあらわした台詞やかかる曲の当時らしさとか世代的に面白いしね。また音楽の方は、実際に起こった70年代末と映画製作の10年弱の微妙な落差もまた(結果的に)不思議な非日常感や浮遊感を感じさせる。あくまでもこれは虚構の<シドとナンシー>なのだ。その一方でやはりもう一点だけ、追記したい。最後にデカいラジカセを片手に踊る黒人少年たちが出てくるのはhiphopに時代が移行していくのをあらわしてるんだと気づく(観た当時には全く意識していなかった)。実は流れている曲自体はあまりhiphopを感じさせない(ディスコファンクめいた曲調)。が、シドが亡くなる時期とすれば、まだ前夜的なサウンドで正しいのかもしれず、その辺意識してのことなのかちょっと詳しい人に聞いてみたいね。

 
 そうそう美術展にも久々に。
 TwitterのTLで面白そうだなと思った「日本の中のマネ」展に。
 美術鑑賞はホントに単なる好奇心だけで、ランダムに足を運んでいるだけなんだけど、あるムーブメントがあるとして、その周辺みたいな人物が気になる性質で(あるいは前段階みたいな人物もかな)。
 印象派関連ではセザンヌやマネなんかがそんなちょっと違う系となんとなく思っていて、興味があって。
 で、練馬美術館へ。

www.neribun.or.jp
 大きな美術館とはいえないけど、(噂通り)解説に力がこもっていて良かった。
 ベラスケスが好きなので、マネが大きな影響を受けたということを知ることができてよかった。
 またゾラとの関係も強いということも(いつもながら不勉強なので)初めて知った。ゾラも読まないとなあ。
 あと、当時の本が展示してあって鹿島茂コレクションと表記されていてちょっと笑った(そりゃ鹿島茂しか持っていない本は沢山あろう(笑)。
 森鴎外の名が出たり、タイトルにある日本との関係についてもいろいろ知ることができた(マネの位置づけや受容の難しさが、ストレートに紹介文に出ているのも、苦悶する専門家という感じで好感が持てる)。
 最後は森村泰昌福田美蘭のマネに関連した批評的な作品が並び、そうした受容について立体的に体感できるのも展示として優れた選択だったと思う。
 行けて良かった。