異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2018年8月に読んだ本、と行ったイベント

もう8月も終わり。
『機械じかけの夢』笠井潔
 長年通読できていなかった名SF評論集。初めて出会ったのは30年以上前でほとんど歯が立たないといった状態だったが、さすがにこちらも経験値が上がったせいか把握しやすくなってきて、面白かった。正直まだまだ未読の作品が多いのだが、文学史をふまえた上でのSF起源を扱った序章には総論的に知見を与えてくれるし、本論の第一章以降も著者自身の経歴を反映したキイワード「革命」を柱に豊富な資料を随所に配し明確な論旨を展開する。ル=グィン論そしてハイ・ファンタジーへの記述には違和感を抱かせるものがあるが、本格的SF評論としての歴史的意義はいまだに大きいだろう。
(※2018年9月3日 ×機械仕掛け→⚪︎機械じかけ でした。訂正しました)
『街角の書店(18の奇妙な物語)』
 「肥満翼賛クラブ」ジョン・アンソニー・ウェスト
 夫の肥満度を競い合う妙な団体の話。意表をつく発想と詳細のわからない作家自身、<異色作家短編>にぴったりのイメージの作品。
ディケンズを愛した男」イーヴリン・ウォー
 アマゾンで立ち往生となってしまった男を救ったイギリス人の血を引き現地で長年をそこで生活する人物だった。なかなかコワい話である。
「お告げ」シャーリー・ジャクスン
 二人の女性が描かれる、取りようによってはイイ話だが、作者が作者だけにその背景にあるアイロニカルな要素がなかなか怖ろしい。
「アルフレッドの方舟」ジャック・ヴァンス
ヴァンスの普通小説。掌編ながらユーモア感覚にらしさが感じられる。
「おもちゃ」ハーヴェイ・ジェイコブス
とある店にあった自分のおもちゃ。秀逸なアイディアの一編。
「赤い心臓と青い薔薇」ミルドレッド・クリンガーマン
年長の女性がハラスメントを受けるというパターンは小説としてはやや珍しい気がするが嫌なリアルさがある。
「姉の夫」ロナルド・ダンカン
偶然友人となった男を家に招きいれる。よくあるタイプの筋ではあるが背景にある登場人物の関係には独特のものがある。
「遭遇」ケイト・ウィルヘルム
雪の中で閉じ込められた男女を描いた作品だが、さすがウィルヘルムで多重な構造を持つ高度に技巧的な作品。十分には理解できていないが。
「ナックルズ」カート・クラーク
嫌系クリスマスストーリーの系譜にある傑作。
「試金石」テリー・カー
アンソロジストとして有名な著者の作品を読むのは初めてだったかも。まずまずかな。
「お隣の男の子」チャド・オリヴァー
テレビのバラエティショーでマイクを向けられた少年が不気味な話をしはじめる。もやもやした後味がなかなかいい。
「古屋敷」フレドリック・ブラウン
イメージの連鎖に面白さがあるが背景にロジックはないのかなんとなく気になる。
「M街七番地の出来事」ジョン・スタインベックのバカ小説。
「ボルジアの手」ロジャー・ゼラズニイ
完成度の高いショートショートだが、訳者の中村氏ゼラズニイを「未完の大器のまま没した感がある」とはなかなか手厳しい。
「アダムズ氏の邪悪の園」フリッツ・ライバー
ライバーらしいエロティックなホラー。芸能趣味もらしい。
「大瀑布」ハリイ・ハリスン
大きな滝の近くに住む人物へのインタビュー。SF作家らしいアイディアの作品。
「旅の途中で」ブリット・シュヴァイツァー
これまた輪をかけた類を見ないバカ小説。オチもいい。
「街角の書店」ネルスン,ボンド
最後は作家についての小説で締める。これも傑作。
≪ナイトランド・クォータリー≫vol.1
 大分積んでしまっているナイトランド・クォータリー、これを機に読み進められればいいのだが・・・・。
 吸血鬼特集。<吸血鬼変奏曲>とあるようにストレートな吸血鬼ものではなく、切り口や題材をひねったものや現代化された作品が並ぶ。
「血の約束ードラキュラ紀元キム・ニューマン ドラキュラ紀元シリーズの掌編。
「塔の中の部屋」E・F・ベンスン 正統派の屋敷ものだがやはりベンスンは巧い。
「復讐の赤い斧」エドワード・M・アーデック ホラー+西部のウィアード・ウェストはもうちょっと読んでみたい(作品解説に「マンボ・ジャンボ」があるが西部ものっぽいところあったっけ・・・?)
「ホイットビー漂着事件」レイフ・マクレガー 解説でようやく仕掛けがわかった。マニア心ある作品。
「太陽なんかクソくらえ」ルーシー・A・スナイダー 現代社会で変わりゆく闇の住人たちを描いたユーモアショートショート
「長い冬の来訪者」ウィリアム・ミークル 荒廃した未来社会で集落に訪れた余所者。この作家は安定感がある。
「エイミーとジーナ」セシル・カステルッチ 著者はロック・シンガーらしい。ヤングアダルト的なストーリーと吸血鬼は相性が良いが古典的怪奇小説とは異なったものとなる。これについての是非については様々な意見があるだろう。
「家族の肖像」スティーブ・ラスニック・テム 現代の吸血鬼家族もの。食料供給に悩む姿はわびしさすら感じられる。
「闖入者」井上雅彦 著者らしいショートショートで安心して読めるか、現代化された作品を読むとクラシカルな味わいが貴重なものとすら思える。
「かはほり検校」朝松健 老境に入った一休和尚を主人公にした<一休どくろ庵>シリーズの一作目で耳なし芳一がモチーフだろう。怪異に動じない飄々とした一休がよい。
「In the gathering dusk」石神茉莉 妹を病で失った人形作家の出会った不思議な出来事。ちょっと意外な展開だった。
『堆塵館』『穢れの町』『肺都』<アイアマンガー三部作> エドワード・ケアリー
 ようやく読了したので感想(一気読みではない)。汚いけど多くの人々を惹きつけて止まないヴィクトリア時代を巧みに舞台に据えて良質なファンタジーに仕上がっている。自身のイラストも作品世界を魅力的なものにしている。何より生まれると「誕生の品」授けられ一生それを肌身離さず持っていなければいけないというアイアマンガー家の設定が秀逸。名前が持つ意味に焦点が当てられている点はアースシーにも共通するものがあり、ファンタジーの一つの側面を示しているように思われる。
『電子的迷宮』志賀隆生
 1980年代の高度に進化したテクノロジー現代社会を踏まえた本格SF評論集。時代的にサイバーパンクを背景にしているところがポイントで同時代の優れたギブスン評がおさめられているのが本書の重要なところだろう。他ディック、レム、ラヴクラフトについてのパートも面白かった。個人的にも当時の空気が思い出される。
AKIRA』1~6 大友克洋
 恥ずかしながら全部は読んでいなかったのですよ(苦笑)。現在からみると、長期に渡って幻魔大戦やマッドマックスなどのような黙示録的な世界からサイバーパンク的な人体変容あるいは攻殻機動隊を連想させるレトロ日本趣味などまで網羅され時代のモニュメントとして佇立している存在感がすごい。もちろんそうした要素はどちらが先かとか影響関係とかそういうことではなく時代の位相をそれぞれのクリエイターが切り取った結果ということだろう。

8月26日は例によって丸屋九兵衛さんのイベント、Soul Food Assasins Vol.7およびQ-B-Continued Vol.24に参加。
Soul Food Assasins Vol.7は文法編が続くのだが、非常に参考になる。細かな時制違いの表現とかあるんだなあ。まだまだ続きが楽しみでもある。Ain't No Mountain High Enoughも二重否定だったことに今更気づいた。
Q-B-Continued Vol.24は<歴史改変SF>特集。いや待ってましたーこれ。さすが丸屋さんでいろんなタイプの作品が紹介され、ものすごく楽しかった。やはり未訳の作品が気になる。沢山登場したハリイ・タートルダヴ(Hurry Turtledove)ではネアンデルタール人ホモ・サピエンスとが争うDown in the Bottomlands、S.M.スターリング(S.M.Stirling)の人種差別ディストピアものThe Draka Trilogy、キム・スタンリー・ロビンソン(Kim Stanley Robinson)の西洋文明支配が起こらなかった世界を描いたThe Years of Rice and Saltが面白そう。ムアコック(Michael Moorcock)のA Nomad of the Time Streamsも気になる。ピーター・トライアス(Peter Tieryas)とその作品の東アジア文化融合具合も実に近未来的な感じがする(ごめんなさい未読です・・・)。

山野浩一さんを偲ぶ会

去る7月30日に昨年7月に亡くなられた山野浩一さんのお別れの会が行われ、いちSFファンとして参加させていただいた。

単なるファンではあるが、山野さんと関わりの深い方々によって刊行された半商業誌「SFの本」によって10代に初めてプロの方々と知り合うことができそこからなんだかんだ読み続けている身としては感慨深いものがあった。
(その頃の話については以前のブログに書いたことがある
発起人のお一人で代表として挨拶もされていた岡和田晃さん(いろいろご準備に奔走されていたようでこの場を借りてあらためて御礼申し上げます)をはじめ、ブログを書くようになってからお話させていただくようになった方々、そして10代の頃に出会い現在の自分にSFや本のことだけではなく様々な物事についての考え方を教えてくださった方々にお会いすることができて自分にとっても30年余のもろもろが一本の線でつながったような気がした。
さらに実は一番の驚きの再会があったのだ。
それについて説明するにはもう40年以上前に遡らなくてはいけない。全く記憶にないのだが短い期間アフリカにいたことがある(当時2歳)。父の仕事があり家族で行っていたのだ。なにしろそれだけ昔のことだ、日本人の家族などその国全体でも数家族しかいなかったらしい。そこに家族でやはりきていた日本人の10代の少年がいて、詳細は確認したことがないのだが日本人というだけですぐに知り合いになったのだろう、面倒見の良かった父は家に呼んで一緒に食事をしたり随分いろんなところへ連れて行ったりしたそうだ。その少年は当時将来の目標を考えることができずにいたが、父や母との交流を通じ次第に前向きに物事に取り組めるようになったという。やがて少年は長じて、競馬の世界で名のある人物として成功をおさめた。数年前に父が亡くなったとき、彼は母の前で泣き崩れたという。そのアフリカでの日々を彼はいつでも大切にし、父に感謝をしていたのである。
この会に参加するにあたり競馬関係の人々のことは頭に全くなく、まさかその人が参加しているとは思わなかった。こちらから声をかけさせていただくと大変に驚きそして喜んでくれた。多くの競馬関係の方にもご紹介していただく形になったのも驚きだったが、まさかSFや小説関係の方ではなく憧れの作家亀和田武さんにその彼から紹介していただくことになるとは思わなかった(笑)。
こうして30年余どころではなく人生まるまる一本の線でつながってしまったのだ。自分は山野浩一さんのまわりをぐるぐる回っていただけなのかもしれない(笑)。
なにはともあれ人間というのは出会いだなあとつくづく感じた。
というわけでほぼ個人的な話だったが、読んでくださった方々にもいい出会いがありますように。

2018年7月に読んだ本、読書会

7月はなんだか読了本が少ないな・・・。
まずは参加した読書会の話でも(笑)。
第15回怪奇幻想読書会に参加。
第1部は課題図書フィニイ『ゲイルスバーグの春を愛す』。フィニイは数年前に初めて読んだくらいで、ここのところ入手困難な状態の本が多く同書と『レベル3』とアンソロジーに入っている短編のみであまり詳しくない。ただ読み直すとオーソドックスで派手とはいえないモチーフを扱う一方で世代的には割と後の世代(なので保守的とされやすい)であることもありテクニック的にかなり洗練されているなあと思った。たとえば語り手の設定など。また小道具の使い方が非常に上手い作家だなと思った。「独房ファンタジア」甘いけど「愛の手紙」は傑作だと思う。「大胆不敵な気球乗り」も結構評判が良かった。またまた本をいただいてしまった(いただくだけでなく読まないとなー)。
第2部は自分だけのベスト10.
リンク先にあるが皆さんのチョイスが面白かった。もうちょっとそれぞれの方の解説を聞いてみたかったなー。
いろいろ予定が重なるなどあり残念ながら8月は不参加。
さて読了本。
魔法使いの弟子ロード・ダンセイニ
 ブログ主かれこれイイ年になっているわけだが、ようやく慣れてきた正統派ファンタジーもの。影や闇の恐ろしいイメージ、魔法技術の伝承(徒弟制度)、真の言葉が持つ力などあたりが重要なポイントのような気がしている。本作に関してはスペインが舞台なのも印象的(騎士道物語の系譜と関係があるのだろうかと考えたり)。
『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス
 3編からなる。「黄色い雨」絶対的な孤独の中に置かれた人間の見る世界が幻想風味を加え描かれる。印象深い作品。
「遮断機のない踏切」怪奇小説ではないもののニューロティックな鉄道小説としてグラビンスキを思わせるものがある。
「不滅の小説」宗教的な味のあるメタ小説。
『天界の眼: 切れ者キューゲルの冒険』ジャック・ヴァンスシミルボンに投稿
『絶望』ナボコフ
 久しぶりにナボコフ。犯罪告白小説の形から、意外な方向へと流れていく。親切な解説で作者の狙いがよく分かるが、初期の作品なので全体にナボコフ の特徴が割とはっきり出ている印象もあり、そこも興味深い。以前にも書いた気がするが古典新訳文庫は解説が丁寧でありがたい。

2018年7月に観た映画

まだ7月終わってないけどね(笑)
「宇宙からの脱出(原題:Marooned)」(1969)(TV視聴)
 随分前に録画したもの。事故で宇宙船に取り残されたクルーたちの帰還を描くリアリスティックな宇宙もので「ゼロ・グラビティ(Gravity)」の先行作品といえる。こちら技術系に明るくないのだが当時の設備が丁寧に表現されている感じで、見応えがあった。さすがに50年近く前の作品なので古めかしい人物配置のストーリーではあるが。本作では生き残りの条件などをめぐり3人のクルー間の感情の動きが重要な要素となるのが「ゼロ・グラビティ」との違いで、ちょっと冷たい方程式めいたドラマが展開される。実際の宇宙からの危機一髪の帰還というとアポロ13の事故が思い浮かぶのだが、なんとこの映画の方が少し先で予見したことになったのもなかなかすごい。関係ないが、クルーの一人の妻Celiaを演じていたのはLee Grant、刑事コロンボ「死者の身代金」の人だった。

「ソイレント・グリーン」(1973)(TV視聴)
 超有名作品だが録画して初めて観た。実はブレードランナーが結構参考にしているのではないかと思った。基本ミステリ(ハードボイルド)っぽい筋立てで、警察の上司の部屋とかアングルそっくりだし、過密都市で狭い住宅に荒廃した地上の描写、最後のアクションシーンの一部、刺客の人の顔つきもRutger Hauerっぽく見えてくる(笑)。まあそもそもディストピアものというフォーマットが同じで似てくるのは当然かもしれず、詳しい方の意見を聞かないとわからないが。お金持ちのところにある最新のTVゲームがでっかいのに画面が超初期のレベルだったり調査の資料が紙ベースだったりするのは否が応もなく時代を感じさせるが、シンプルで完成度も高く名作とされるのも納得。

「女と男の観覧車(原題:Wonder Wheel)」(2017)(劇場)
 いろいろとよろしくない話題となっているWoody Allen監督ではあるが。最近Coney Islandになんとなく興味があつて、舞台になっていると聞いたので観てみた。作品そのものは良かった。こちらの期待通りほとんどConey Island周辺で進行する。落ち目の観光地という背景が、やるせない日常でちょっとした期待や大きな失望に揺れる人々の姿とが、よくマッチしていた。

渋谷シネマヴェーラで7/21-8/17の間Fritz Lang特集をやっているので出かけてきた。出来れば沢山観たいのだがなかなか日程が合わないやつもあるな・・・。Fritz Langは旧ブログを参照すると今はもう無い新橋文化劇場で2013年に観た辺りから劇場で観るようになったのかな。初めて観たのはやっぱり「メトロポリス」だけどいつだったかは忘れてしまった。
とりあえず、旧ブログの感想はこちら。今のブログのはこれ
思っていたよりお客さん入っていたねえ(ほとんどは高年齢層の男性、まあ自分もその類なんだが)。2本観た。
「西部魂(原題:Western Union)」(1941)(劇場)
 西部劇は基本のフォーマット自体が現代の視点から観ると差別的な要素を含んでしまうので、さすがにFritz Langでもこんなものかーとがっかりするところが各所に見られる。先住民は未開の民族で素朴で騙されやすい人々という描き方になっているところなど。ただ電信事業の話で主人公の一人が技師だったりコメディリリーフ役が気の弱いコックだったり、視点があくまでもインドア派のものなのはヨーロッパの都会育ち(詳しくはないのだがウィーン生まれらしい)でアメリカ人の感覚とは少々違うのではないか。まあマカロニ・ウェスタンとかもあるから細かくいえばいろいろ難しそうだが・・・。アウトローの苦悩をにじませたRandolph Scottは渋い二枚目でカッコよく、全体として話はよく出来ている。

「死滅の谷(原題:Destiny)」(1921)(劇場)
 こちらはまた随分古い作品でサイレント。死神から恋人を返してもらおうとする娘の話が時代や地域を超えてオムニバス形式で綴られるユニークな作品。舞台がアラブ、イタリア、中国と移り変わるが、こちらの作品でもアラブや中国への理解がさすがに大雑把で誤解に満ちている感じ。まあ90年以上前なのでやむを得ないかな。死神のベルンハルト・ゲッケ(Bernhard Goetzke)の顔がすごく死神ですごい(<語彙w)のだが、一方で無邪気なバカップルがえらい目にあってさあ大変というコメディのようにも見えたり(笑)。作品の見どころは特殊効果で、時代を考えるとかなり斬新で驚かされる。

2018年6月に読んだ本、とイベント

6/23には丸屋九兵衛さんのトークイベントダブルヘッダー
Soul Food Assassins vol.6 は黒人英語の歴史的な背景からくる文法の話など面白かった。スラング、とステレオタイプに軽んじられる問題についてはしつこく訂正をしないといけないことがよくわかる。まだまだ聞きたい感じ。とりあえずBRER RABBIT retold をポチってしまった。

Q-B-CONTINUED vol.23はアーシュラ・K・ル・グイン祭には丸屋さんが多方面でル・グインから受けた影響がいろいろわかり興味深かった。SF話も沢山聞けてよかった。キム・スタンリー・ロビンスンの高評価を聞き、積んでる火星三部作をなんとかしなきゃいかんと思った。(前々から聞いていたtattooが結局こうなったのかという発見もあった)。
お茶会も参加、こちらではタイガー・ジェット・シンやいろんな国の食事の話題なども出た。

というわけで6月はこれまで未読だったゲド戦記読破月間、にしたかったが『影との戦い』『こわれた腕環』『さいはての島へ』『帰還』『ドラゴンフライ』まで(『アースシーの風』を5番目に読むべきだったかなーとも思った)。ヤングアダルト向けのフォーマットだが全体を覆う仄暗さと痛みが印象的なシリーズだ。大いなる力をどう使うかというファンタジーの王道的なテーマに加え、名前や呪文など言葉が大きな意味を持つ世界像が実にル・グインらしい。真の言葉こそが世界を解き救いになるという思いが感じられる。このシリーズについてはいつかもう少し書きたいと思う。

6/24には第14回怪奇幻想読書会に参加。
第1部「新入生に勧めたい海外幻想文学」の方は、SF寄りなものをはずすとまだまだこちらが読めていないからなあ・・・。それに入手しやすいものとなるとまた難しい。とりあえず『影が行く』『闇の展覧会 霧』『虚ろなる十月の夜に』『レ・コスミコミケ『柔らかい月』などを挙げてみた。『闇の展覧会』のシリーズは怪奇幻想入門としていいと思うから他のもまた読めるようにして欲しい。自分のホラー系の入り口はこれ。
第2部は課題図書『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』 で(怪奇幻想読書会初の課題図書!)。以前『金剛石のレンズ』で既に感想は書いている。再読して改めてその現代性とストーリーテリングの巧さに驚かされた。『金剛石のレンズ』には未収録だった「ハンフリー公の晩餐」は貧乏な若い夫婦を描いた完成度の高い普通小説だが妄想で逃避をしようとする描写が秀逸で作者の資質が幻想指向であることを示している。時代的に差別的な視点ものぞくが、一方でエキゾチズム指向の面も持っている感じがある。

あとだらだら読んでいた『東欧怪談集』も読み終わった。様々な作家が収められているが全体にアクの強い(それだけ印象の強い)短編集である。よかったのは、呪われた剣をめぐる騎士物ポトツキ 「「サラゴサ手稿」第五十三日」、小話のようなムロージェック 「笑うでぶ」、多原語文学者家系であることに驚かされる米川ファミリーの一人ヨネカワ・カズミの鮮やかな怪異譚「蠅」、アンチ・ミステリ的なチャペック「足あと」、ユダヤの二編ペレツ「ゴーレム伝説」シンガー「バビロンの男」、心が底冷えするようなフォークロアのキシュ「見知らぬ人の鏡」あたりか。