もう9月ですか・・・。とりあえず備忘録。
『解放されたフランケンシュタイン』ブライアン・オールディス
長年の読もうと思っていたが、ようやく読了。ストーリー的に軽いかな?と思ったところも荒俣宏解説ではきちんと解き明かされていてさすが。ただ個人的に『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』とか多少書きとばし気味の作品の方が割と好みかもしれない。オールディス流文学論も割合直接的に登場するのも興味深い。(そうそう、これ8月の初めくらいに読んだんだが、その後19日にオールディスが亡くなった。ニューウェーブSFを代表する作家・評論家で、実作の方はまだまだ未読が多いがその奇想や理論家としての視座には随分影響を受けた。R.I.P.)
『書架の探偵』ジーン・ウルフ
書架にいる探偵、擬人化された(リクローン)本が探偵として活躍するという笑ってしまう設定がぬけぬけとそのまま本格ミステリとして進行する遊び心が楽しい一冊。近年のウルフは余裕綽々と楽しんで書いている印象がある。細部はいろいろ気になるのはいつもながらだが。
『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』西寺郷太
『プリンス論』も良かったが、こちらも素晴らしかった。とかく軽んじられがちな80年代メジャーポピュラー音楽シーンをブラックミュージックの視点から精緻に検証し再評価をしていく姿勢には、80年代音楽育ちとして頭が下がる思いだ。ミュージシャンでトークもいける多方面にポテンシャルの高い著者だが、一方本職の音楽評論家たちはいったい何をしているのだろうという感想も出てしまう。
「SFマガジン2012年5月号」
読み切りのみ。
「錬金術師(後篇)」パオロ・バチガルピ
(前篇は前月号) トバイアス・S・バッケルのThe Excutionessと同設定のシェアード・ワールドもの。魔術師や錬金術師の登場する異世界ファンタジーもの。しかし絶望的な状況と追い込まれた人物が見せる情念はいつもながら。面白かった。
この号はイアン・マクドナルド特集。
「ソロモン・ガースキーの創世記」不死を手に入れたナノ=エンジニアを主人公とするスケールの大きいSF。まあまあかな。
「掘る」火星を舞台にしたYA向けアンソロジー収録作。テラフォーミングではなく掘削で都市をつくるというアイディアがユニーク。
『サイバラバード・デイズ』刊行記念特集だが、いずれもインドものではないのね。北アイルランド居住で英国周縁からの視点を大事にしているとわかるインタビューは良かった。
『ある日どこかで』リチャード・マシスン
鮮烈なホラーの印象が強いマシスンだが、本編はタイムトラベルもののファンタジー。オーソドックスなラヴストーリーで基本的な骨格は実にシンプルだが、フィニイを踏襲した19世紀末の風物のディテールと抜群のストーリーテリングで飽きさせない。作品背景が詳細に紹介されている瀬名秀明氏の解説も素晴らしい。
『縮みゆく男』リチャード・マシスン
これまたシンプルなアイディアをサスペンスフルに描くことができるマシスンの手腕が発揮された一編。なにしろタイトルで既に出オチみたいな話をカットバックの手法で(発表後60年経っても現代のスピード感覚で読んでいくことができるのだから。町山氏の解説のように豊かだったはずの50年代アメリカ家庭の父親が実存的不安にさらされているというのは納得だが、現代の眼でみると主人公は悲劇的な運命をたどるもののむしろつまらないプライドにこだわる自己中心的な人物だという印象で皮肉なコメディとしても読める。終盤の展開にはまた異なる面があるもののそこはバランスをとったということなのではないかと思われる(3つの解説にあるような文学的考察には正直違和感を覚える。基本的にマシスンは高い技量を持つエンターテインメント作家で理屈抜きに楽しめるところに最大の魅力があり、シリアスにも受け取れる面があるとしてもそれは結果的なものではないかと思う)。発表時期は異なるが「ある日どこかで」での真摯な主人公との描きわけにも作家としての幅の広さを感じさせる。
『トリフィドの日』ジョン・ウィンダム
放射能の影響といういかにも時代を感じさせる内容たが、淡々と終末を迎える世界の状況を描くあたり英国SFらしい伝統が見られる。ただ破滅する世界の描写、主人公の心象風景などバラード的な終末感とは明らかに違いがあり、危機的な世界を特権的な立場の主人公が傍観者としてシミュレーションしているようなSFジャンルの長年の構造上の欠陥が本作にも現れている。