異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2017年6月に読んだ本

『狂気の巡礼』ステファン・グラビンスキ
 科学的な比喩や考察がところどころにあるのがいい。オカルト風ミステリ「チェラヴァの問題」、時間SF風味の「サトゥルニン・セクトル」、ネイティヴ・アメリカンを題材にとった「煙の集落」など物語性の強い後半パートの「狂気の巡礼」の方が趣味に合う。

『永久戦争』P・K・ディック
 新潮文庫で出ている3冊あるディック短編集の一つ。「ジョンの世界」は名作「変種第二号」と内容が重なる部分が多いが、タイムトラベルなど後者よりバラエティに富んだアイディアが多く盛り込まれていたのが印象深い。サスペンスフルな「歴戦の勇士」も良かった。

『戦時生活』ルーシャス・シェパード
 南米を舞台にしたマジックリアリズム風ポリティカルSFといった感じか。骨組みはラヴ・ストーリーをコアにしたロードノヴェルで、必ずしもタイトルから推測されるようなヘヴィな戦争ものではなく、割とすいすい読める。当時だと気にならなかったかもしれないが、今から思うとやや男性視点が目立つかなあ。実は野球小説の要素もあるが、主人公はヤンキースファンでメッツファンとしては宗旨が合わない感じだ(笑)

『夫のちんぽが入らない』こだま
 読む前に想像していた内容とは随分異なっており。予想を超える壮絶な世界が展開され一気に読了。やるせない出来事が次々に起こる様子をそこはかとなく漂うユーモアでちょっと距離感を保って描く筆致が素晴らしい。

『あとは野となれ大和撫子』宮内悠介
 中央アジアの架空の小国を舞台に内戦状態で男たちが逃げだしたために後宮の少女たちが国を治めるというライトノベル風の設定だが硬軟取り混ぜたあらゆる要素が巧みに組み合わされ、虚構の利点が生かされた現代的な傑作だった。劇中劇が重要な場面で効いてくるところが特に好み。

『ニガー・ヘヴン』カールヴァン・ヴェクテン
 1926年の作品で、解説によると「人種の議論と黒人文化をめぐる問題意識が先鋭化されつつあったハーレム・ルネッサンス絶頂期」にあたるらしい(ググったところニューヨークのハーレムという地域自体は1600年ごろからあり、1904年の地下鉄開通から建設ラッシュで多くの人々が住むようになり価格の低下から1920年辺りには黒人のハーレムが形成されたという流れのようだ)。現在ではタイトル自体読み上げるもの憚られるが、著者が白人であったことに加えて黒人文化に詳しいものの内容的に同情的とはいえない描写がたびたび登場することから当時もかなり物議を醸したようだ。ただアウトサイダーから見た冷たい切り口が黒人の中にある意識の違いを描写することに成功している感もあり、貴重な記録である側面は否定できない。ちなみに全体としては割とシンプルなロマンス小説である。