異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 品揃えを見ているだけで飽きない現役の<町の本屋さん>たらば書房

※これは #I LOVE BOOK STORES! という本屋さんについてのコラムやレビューを募集した際に書いたもの。幸いにも「たらば書房」は現役で今も利用しています(元投稿にあった写真等は削除し、その分少し文章を修正しました。以下本文です)。
 本屋さん、好きですか?
 シミルボンを読む方は皆さん本屋さんが好きでしょうね、きっと。
 いいですよね、本屋さん。
 お気に入りの本屋さんでどんな新刊が入ってるのかを見るのも楽しいし、知らない町でたまたま入った本屋さんに並んでいる本が自分の好みに合っていたりすると妙に嬉しくなったり。
 本屋さんで偶然見かけた本で、普段は知ることのなかった世界がパッと広がることもあったり。
 そういうことはネット書店では期待できないかもしれません。
 ネット上でのおすすめ本は購入記録などから決まり、どうしても読み手がカテゴリー別にくくられ、予想の範囲内におさまる本ばかりが紹介されてしまいます。
 新しい出会い、は難しいのではないでしょうか。
 そういったいろんな出会いがあった本屋さんめぐりの楽しみは、今やすっかり得難いものになりました。ネット書店隆盛の現在、旧来の店舗型いわゆるリアル書店は大都市の大型書店あるいは駅など便利なところにある新刊が入れ替わる(売れ筋の本ばかりが並ぶ特徴のない)小型店舗な以外は存続が難しく、個性的な<町の本屋さん>が減ってしまったので(まあどんな本屋さんでも入るのが本好きの悲しい習性ですけども(笑)。地域によっては全滅に近いところもあるのではないかと思います。時代の流れとはいえ、昔ながらの楽しみがだんだん失われていくのはやはり寂しいものです。
 幸いにも住んでいる鎌倉には土地柄のせいかそんな<町の本屋さん>が元気に残っています。
なかでもとりわけユニークなのが今回ご紹介する、たらば書房さんです。
 まず言及しておきたいのが海外文学の棚があること!
 小さいビルの1階にあり、敷地面積は当然広いわけありません。
 しかし一角に海外文学の棚があるんです。
 海外文学ファンには悲しい話ですが、海外文学の置かれるスペースは一般に縮小あるいは撤廃される傾向にあります(そもそも本屋そのものがなくなったりしますが)。
 しかもその品揃えが実にシブい。
 不勉強ながらはたまた失礼ながらあまり馴染みのない出版社が並ぶ・・・。
今日並んでいた出版社は例えば現代企画室、パピルス南船北馬舎、土曜社(マヤコフスキー叢書)、バベルプレス、大月書店、共和国(こちらはeditorialrepublica、『ソビエト・ファンタスチカの歴史』が出ていたな)など。(常識だよ!という方がいたらごめんなさい・・・)
 あくまでもこちらはヌルい海外文学ファンなのでいろんな出版社があるんだなあとか、限られたスペースでのセレクションに店主のいい意味でのこだわりが感じられるなあなど、ぼんやりとした感想しか出ないのがお恥ずかしいが、ひとまずいえることはかなり幅広い地域の文学が集まっているということ。
 とにかく文学が本屋好きや海外文学好きには一見の価値あり、です(ディープな海外文学ファンの感想をぜひ知りたい)。
 もちろん河出書房、白水社、新潮社などなどの大手のももちろんありますし、さらにそこにレム・コレクションやJ・G・バラード短編全集といったSF系も加わっていたりするのがまたニクい感じです。
 これは単行本の棚の一角で、文庫本の方でも海外文学のエリアがちゃんとある。
 そういえばパスカルキニャールの『約束のない絆』はここで買ったんだっけ。

 個人的に眺めることの少ないノンフィクション系の棚も充実しているのではないかと思います。あまり普通の本屋では並んでいないようなものが多い気がするからです。例えば『ロジ・コミックス:ラッセルとめぐる論理哲学入門』を見つけ即購入したのはその棚でした。
 これは1939年9月イギリスがドイツに宣戦布告し世界が第二次大戦に突入しようとする時、反ナチスの立場をとるバートランド・ラッセルアメリカの大学で行う講義が舞台背景になり、ラッセルの個人史や思想の基盤が語られていく、という大変読み応えのあるコミックで、ここで出会わなかったら存在すら知らなかったに違いありません。
 もう一つこの本屋さんの面白いところを紹介しましょう。文庫の棚は右から左に作家の名前毎に並んでいるのです。多くの書店は左から右、なのではないでしょうか。これまたこだわりを感じさせます。
 お客さんがぼんやりとしかタイトルを覚えていない本を探すといったことも積極的にやっているようです。
 常連らしき方がお店の人にいろいろ聞いているのをたびたび見かけます。
 また書店から小冊子も出しています。
 たとえば特集のテーマが絵画だったり、フィクション・ノンフィクション問わず幅広い本が紹介されています。
 ちょっと堅い話になりますが、<町の本屋さん>が沢山あったその昔、たとえば品揃えひとつとっても、それによってなんらかの文化を発信していたのではないでしょうか(もちろんすべての本屋さんがそうだったとはいえませんが)。<町の本屋さん>でふと目をやったところに印象的な装丁だったり気になるタイトルや名前だったりする本があって、その偶然の出会いによって新しい世界が開けていく。
 それを導いていくのが<町の本屋さん>だったといえるのではないでしょうか。
 今やそういったものの代わりをブログや読書サイトが担うようになったのかもしれませんが、鎌倉駅西口すぐにある(駅の改札からも見えるぐらいに近い)たらば書房は昔ながらの<町の本屋さん>が元気に現役で活躍している、そんな存在なのです。
(2017年10月14日)