異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 『せどり男爵数奇譚』 梶山季之

~ちょっと気になる古本の世界を垣間見せてくれる連作短篇集~

 ある本に出会うきっかけは様々である。
 紀伊国屋書店新宿本店スタッフが文学フェアのために創ったPickwick clubによるワールド文学カップが2010年5月にあって世界文学がずらりと並ぶなかなか壮観なフェアだったのだが、そこで奇妙なことに手にしたのが日本のこの本だったのだから面白いものだ。
 皆さんは「せどり」という言葉をご存じだろうか。
 もちろん本好きの方々には常識だろうが、いちおう本書の背表紙から引用しておこう。
 「“せどり”(背取、競取)とは、古書業界の用語で、掘り出し物を探しては、安く買ったその本を他の古書店に高く転充することを業とするう人を言う。」
 古本好きには手の届きそうな一方で、ともするとお金を吸い取られてしまいそうな両面が感じられる言葉だ。
 本書に登場するのは実にディープな古本の世界である。
シミルボンに投稿するぐらいだからこちらも本好きなのは間違いないし、古本屋や古書市もよく覗きに行くがさほど深く立ち入ってはいない。
何しろ所詮は一般人、先立つもろもろに限りがあるしまたその道に全てを捧げる勇気も知恵もない。
おそらくは広大な世界(底なし沼、なのかもしれない)があることは知りつつ、近寄らないのが吉と思っているのが実情だ。

しかしもしも思う存分に本を探したり手に入れたりする生活をすることができたらどうだろう。
そんな本好きの夢を実現しているのが主人公である華族出身の古本コレクター‘せどり男爵’こと笠井菊哉だ。
友人の文筆業を営む‘私’が語り手となり、せどり男爵が出会った古本をめぐる奇妙な6つの事件が描かれるミステリタッチの短篇集である。
 とにかく古本についての様々な蘊蓄が楽しい。国際色も豊かで、韓国に古書買い付けツアーにいったり、一冊の本をめぐってアメリカ人古書マニアと虚々実々の駆け引きをしたり(第四話「桜満開十三不塔」。このやり取りが実に面白い!)、イギリス・イタリアのカトリック関係者の動きを追ったり、香港の九竜城へ乗り込んだりといった具合だ。
 話としてはどちらかというと古本で金が動くといったものが中心なのだが、その分最後の第六話「水無月十三么九」には意表を突かれた(少々ショッキングなので心臓の弱い方はご注意を)。
 いずれもどこか本当にあった出来事が元になっていそうなところが好奇心をそそられる。また昭和49年に連載されたもので、現代とはまた時代背景が違うが、ところどころに昭和を感じさせるところが味わい深くもある。
ちなみに各話のタイトルは(これまた詳しい人には蛇足だろうか)麻雀の役タイトルにちなんでつけられている。
 著者は週刊誌のライターとして活躍(いわゆるトップ屋)、40代半ばで亡くなっているが、多くの著作を残しており本書を含めkindle化されたものも複数あるようだ。
(2010年6月7日ブログ記事を加筆修正して投稿しました)(2017年10月29日)