異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2022年4月に読んだ本と参加した読書イベント

◆『九(ここの)』岩田宏
 ブラッドベリなどの翻訳で名高い小笠原豊樹(の方が本名らしい)、小説家・詩人として名である岩田宏によるオムニバス型の長編。プロローグから推測するに、終戦から20年ほど、1960年代半ばくらいが舞台。鎌倉の空き家に一人暮らしをすることになった独身の文学青年の日々、主に男女関係のあれこれが描かれる。1998年刊行。昔の鎌倉の様子がわかるかなと思ったがそういった要素はそれほど仔細に描かれているわけはなく、また翻訳家的な面が表に出ていることもなく、つまりはまあ期待をしていたような作品ではなかった。いわゆるオールドスクールな日本文学。当時の文学サークルのカルチャーみたいなものや、鎌倉の生活の雰囲気がわかるし、そういった日本文学作品も嫌いではないのでつまらなくはなかったが、もっとローカルな事物や地域史要素を期待していたことなどもあり、正直物足りなかった。
◆『魔女誕生 新訂版コナン全集2』ロバート・E・ハワード
 随分1巻から空いてしまったが、他の本を読んでいて中断していた。1巻は前のブログで9年以上前だから、続けてすぐ読み始めていたとして9年くらい中断していたのかも…(苦笑) 

『黒い海岸の女王』 新訂版コナン全集1 ロバート・E・ハワード - 旧ブログ:異色な物語その他の物語(2006年5月から2013年11月までのブログ)
まあそれは読書人間あるあるということで軽快にスルーしていただいて、『魔女誕生』の方の感想。
「黒い怪獣」苦境に立たされた姫、不気味な力の魔道士、異教の神によるお告げで、協力するコナンとわかりやすい展開。国の指導者にコナンが紹介されるところのちょっとしたユーモアとかがツボ。
「月下の影」売られてしまった王女を救うコナン。正攻法のヒロイックファンタジーといえるが、彫像の不気味な彫像のシーンとかもいい。
「魔女誕生」魔女と化した女王の双子の妹が、王国を混乱に陥れる。囚われの美女、狂信的で残虐な悪役、装飾品類の過剰ともいえる描写などなどこれぞヒロイック・ファンタジーという気がする。
「ザモボウラの影」これも美女を助ける話で「魔女誕生」と共通点は多いが、こちらは妖術の描写が目を引く。今でも映像作品で使われそうなシーンもあるのは先進的なセンスを感じさせる。
「鋼鉄の悪魔」これは少しだけヒロインの設定にひねりがあるがまあ大体同じといっていいだろう。本作の山場は肉弾戦のところかな。格闘への強い関心をうかがわせる。そういう意味では夢枕獏はハワードの正統的な後継者なのかもしれない。
巻末の、ハワード没後四年でのラヴクラフトの泣かせる追想文も、それからコナン誕生の軌跡を精緻に分析し大変示唆に富んだ中村融解説もまた素晴らしい。
◆『魔の都の二剣士』 <ファファード&グレイ・マウザー1> フリッツ・ライバー
 ナイトランド・クォータリーのエルリック小祭りで、ヒロイック・ファンタジーにまた興味が出ている(大昔から気になっていたんだけど、長らくムアコックぐらいしか読んでいなかったんだよね)。で、名高いこのシリーズを読んでみた。
「雪の女」あにはからんや若い頃のことから始まるんかいっ、というのが正直な感想。そして、ファファードおまえ妻と子があるんかいっ(苦笑)。しかしまあ英雄コナンとは40年弱時間が違い(本作は1970年発表)、人間関係や社会の在り様など、ヒロイックファンタジーも随分複雑化している。ファファードは旧弊な地方から都会に出ていこうとする感覚の鋭敏な若者という位置づけになっている。
「灰色の魔術」こちらはグレイ・マウザーの若い頃を描いているもののようだ。ただ1962年発表で、これもシリーズが定着してから書かれたものなのではないか。公爵の娘がヒロインで、「雪の女」と変えてあるところがさすがである。
「凶運の都ランクマー」いよいよ二人が揃ってコンビ結成!(さらに個性豊かなパートナーたちも加わりって)となるのだが、意外とダークなストーリーだった。ユーモア・ファンタジーと思っていたが、"ユーモアもある"ファンタジーという感じかな。
 全体に現代性が感じられるが、本書の収録作の発表年がいずれも60年代以降(シリーズの最初の作品は1939年と意外なことにコナンとあまり差がない)なので初期作の方とも比較しなくては。
◆『折れた魔剣』ポール・アンダースン
 丸屋九兵衛さん激おすすめの作品。ファンタジーづいているのでこれも読んでみた。そもそもハヤカワ文庫SFで出ているが、これはファンタジーだよな。取り替え子でエルフに育てられた人間の子が成長し、恋と闘いに運命を翻弄されいていく。コアのストーリーに数多くのエピソードが加わって面白かった。ただ本格的ファンタジー長編は読み事が少なく、よくわからないところもところどころにあり、ファンタジー(や神話)を読む経験が乏しかったのだなあとも感じた。その上でざっくり「ファンタジーはいろいろな話がテンコ盛りされているジャンル」という印象を受けた。雑感としては、長尺のファンタジーシリーズをコンパクトにまとめるとこの作品になるのかもしれない(その辺が丸屋さんがおすすめしている理由かも。つまりファンタジー入門作品として)。また、巻末の井辻朱美解説はポール・アンダーソン論・ファンタジー論である上に、ファンタジー側から見たSF論になっていて非常に読み応えがあった。興味のある方は是非ご一読を。
□『みんな水の中-「発達障害自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』横道誠
 twitterで橋本輝幸さんがご紹介されていたので読んでみた。詩、論文、小説とユニークな形式で書かれているのだが、発達障害当事者として自分の言葉を紡ぎ出すために編み出されたものということが読んでいてわかり納得。多くの発見をさせてくれる本で、文学作品の引用が多くてその意味でも楽しい本。実は身内に発達障害者がいる。本人の行動の様式を理解する上で、本書には様々なヒントを与えてくれた。

あと以前からいろいろ怪奇幻想小説のお話を伺う機会のあった中野善夫さんがゲストで登場した4月のSFファン交流会も参加した。
www.din.or.jp
 ファンタジーのパロディ的な側面、様々なキャラクターをちりばめた現代エンターテインメントの先駆としての側面で、評価を高めているJ・B・キャベルの<マニュエル伝>がテーマ。実は未読なので、読んでみるきっかけとして参加。笑いの要素がありそうで楽しそうだ。それにしても、現在海外で大ヒットしているというわけでもなく、中野さんや安野玲さん、垂野創一郎さんら個人のつながりから訳書出版に至り人口に膾炙する流れがなんとも書物というものの不思議な面白さを強く感じる。