異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2016年(11月までに)観たTVドラマなど

落穂拾い的備忘録の続きで、TVドラマ。

リメイク版『ルーツ』 全米で今年放送されたばかりのもの。オリジナルは一度しか観ていないので差について詳しくはいえないが、描写だけではなく、ストーリーの方もよりハードになっていたかな?大変素晴らしかった。個人的には以前観たときに認識できなかった白人との混血児の問題の複雑さが強く印象づけられた。北軍に追い払われそうになったピンチをチキン・ジョージが話芸で回避するところがアフロアメリカンの芸能文化を象徴している気がしてなかなか良かった。

『罪悪』 フェルディナント・フォン・シーラッハの短篇集のドラマ化(たぶん2013年ZDFのドラマではないかと思う、ドイツ語わからんけど)。原作未読。『犯罪』は読んでいてドラマ化の方も面白かったので期待していたが今回も期待通り。全6話中、第一話「遺伝子」第二話「ふるさと祭り」が特に印象に残ったかな。まあ後者はかなーりのイヤミスだが。ある程度読書に余裕が出たらシーラッハは是非読みたいのだが・・・。

TVで観た映画(備忘録)2016年4~10月

CSなどで観た映画の備忘録

ワルキューレ」(2008年) 数多くヒトラー暗殺計画が実際あったようだが、これも実在の事件で結構きわどい(クーデター成功寸前)までいったといえるやつかな?監督はブライアン・シンガーなんだな(後から気づいた)。最後はどうしても重くなる内容だが、サスペンス映画としてなかなか面白かった。「ブラック・ブック」のカリス・ファン・ハウテンに加えワルデマー・コブスも出ていたのは意図してのことか?

リディック:ギャラクシー・バトル」(2013年) リディックと間違って録画しちゃった(笑)。それはともかくリディックのキャラクターと雰囲気は悪くなかったが、少々展開がもっさりしていてもひとつだった。

ディファイアンス」(2008年) ナチスに支配されたポーランドでユダヤ人救出を行った実在のビエルスキ兄弟を描いた小説の映画化。生き抜くために同胞からの略奪もしていたため実際の彼らの評価については意見が分かれているようだが、その点もちゃんと触れられている点など真面目な作品。ただ真面目過ぎる印象も。

TV映画リメイク版「ルーツ」(4話構成)(2016年) 全体にヴァージョンアップというか迫力が増してて凄かった。描写だけではなく、ストーリーの方もよりハードになっていたかな?素晴らしかった。北軍に追い払われそうになったピンチをチキン・ジョージが話芸で回避するところがアフロアメリカンの芸能文化を象徴している気がした。また2話ではジョン・ハンターの本が登場してちょっと驚いた。

ガメラ対深海怪獣ジグラ」(1971年) ユルい感じだが、いちおう伏線も回収されたりもしていたし楽しめた(まあ強引っぽいけどw)。ジグラの形はなかなかいいんじゃないか。

スーパーマン・リターンズ」(2006年) スーパーマン映画ほとんど観てないがなんとなくもっさりスピード感に欠けてるかな。10年経って映像の古さも気になるし(これは製作者のせいともいえないか(笑)。それから今のアメコミ映画のキャラクターが沢山出てくるにぎやかな感じも乏しく、人物関係がシンプル過ぎるようにも。この頃とアメコミ映画の潮流が変わったのかもしれない。

「イーグル・アイ」(2008年) 初見かと思ったが、後半はどこかで観たことがあったかも。序盤に訳もわからずめちゃくちゃな状況におかれるパターンはディックっぽい感じ。まあネタもそれだし。休む暇のない展開は細部は甘く似たようなパターンが繰り返されるし映像もB級っぽさが目立つもののそれなりに楽しめるが、黒幕の見栄えがもひとつ21世紀っぽくなくのはどうにも残念な感じ。

「怪獣ゴルゴ」(1961年) ロンドンを襲うというのがちょっと新鮮で映像も割と気合いが入ってる。造形も愛嬌があっていい感じだが、親子のサイズバランスが場面場面で違ってるのが気になった。

2016年 10月読了本

日本沈没小松左京 恥ずかしながら初読。意外と破滅物が苦手なので・・・(バラードの破滅物は別)。海底探査ものの要素が強いのかなあ。メカの描写が緻密で、よくこういうものがベストセラーになったなあという気もする。地質学的というか地形を俯瞰的にとらえた流れるような描写も実に巧みで、いまだに追随をゆるさないものがあるなあとうならされた。一方で女性の登場人物は当時のステレオタイプの域を出ず、全く魅力がない。そこが大きく古びた部分である。

『消しゴム』ロブ=グリエ ロブ=グリエ初挑戦『快楽の館』はピンとこなかったが、本書は面白かった。死体が見つからない殺人事件、というアンチ・ミステリ的な設定が可笑しいし最終的に理知的に謎が収束するところにもニヤリとさせられる。もっといろいろ読んでみようかな。

『短篇小説日和』西崎憲選 『英国短篇小説の愉しみ』3巻分を編集したもの。ジャンルレスの傑作ぞろいだが、選者らしくどれも幻想風味があるのが特徴。1では切れ味の良い文体スパーク「後に残してきた少女」、なんともいえないオチのハーヴィー「羊歯」、不思議な神話的世界が描かれるカーシュ「豚の島の女王」、2では美しいファンタジーのリー「聖エウダイモンとオレンジの樹」、短い中に起伏に富んだユーモアファンタジーが展開されるアンスティー「小さな吹雪の国の冒険」、執拗な男による怖ろしい心理劇ハートリー「コティヨン」、3では民話風の語り口がよいディケンズ「殺人大将」、夫婦の断絶が見事に切り取られているエイクマン「花よりもはかなく」巻末の短篇小説論考も大変素晴らしく、今後の読書の手がかりをあたえてくれる。個人的にはマン島出身のナイジェル・ニール、カリブ海と縁の深いM・P・シールやジーン・リースといった作家も気になった。

怪奇小説傑作集3』 定番にちょう遅ればせながら手をつけることにしました(笑)。当たり前だけど傑作ぞろいだった。マッド・サイエンティストものの傑作ホーソーン「ラパチーニの娘」、名高いディケンズ「信号手」、大英帝国時代の空気が感じられる「イムレイの帰還」、怪奇というより美しいファンタジーのコッパード「アダムとイヴ」などが楽しめたが、なんといっても(月並みながら)ラヴクラフトダンウィッチの怪」。正体不明の怪物たちにより世界が変わってしまうという恐怖には独特のものがあってこれは一つのジャンルなんだなあと今更ながら気づかされた(いや遅いね我ながらね)。

『この世の王国』カルペンティエール 『魔術的リアリズム』(寺尾隆吉)でも指摘されていたように、非西洋的な視点を有するというには不徹底でそのせいかドライヴ感を欠いて高揚感に乏しい。非日常的な世界も断片的に登場するのみでやや平板で惜しい感じである。

2016年7~9月読了本

諸般の事情でなかなか長い読書感想が書けない。ただ備忘録の役割も果たせなくなってきているので、しばらくはメモ書き程度でブログ記事以降の読了本の整理。

『カント・アンジェリコ高野史緒 サイバー・バロックの煽り文句も踊る、カストラートとハッキングの融合した著者らしい大胆不敵な大風呂敷が楽しい。

『ハイ・ライズ』J・G・バラード 映画公開に合わせ復刊。未読だった。裕福な人々によるゲーテッド・コミュニティで人間が変容していくという80年代後半以降の『殺す』『コカイン・ナイト』『スーパー・カンヌ』などに直結する作品で、非常に重要な位置づけの作品だと感じた。渡邊利道氏による的確な時代感覚によるパースペクティヴな社会論・文学論をベースにした作品解説も大変ありがたい。映画も抑制的な美術センスが光っていた。

『テレビの黄金時代』小林信彦 テレビが熱狂的な人気を誇っていた時期の偉人とされている永六輔大橋巨泉が亡くなったが、世代的に70年代後半くらいからのテレビしかしらないので、いったいどういう人達だったのか今一つわからなかった。芸能に関するノンフィクションでもクールな筆さばきを見せていた小林信彦がその時代について書いている本書のことを知り購入し読んでみた。60年代あたりの有名タレントや番組とその裏側を一歩引いた視点で時系列を注意深く確かめながら記述している点がよく、アメリカの映画やTV番組を下敷きに何をやろうとしたのかなど興味深かった。もちろん著者流の切り口ではあって、人の好き嫌いははっきりしているし、またテレビに漫才ブームが根深い悪影響を及ぼしたと考えているようでもある。終盤には少しだが80年代以降のバラエティへの言及もあり、SMAP×SMAPも載っていたしりして、今再刊するとちょうど良いのではないだろうか。

『死の鳥』ハーラン・エリスン "Deathbird Stories"の全訳(あるいは抄訳)ではなくベスト短篇集であった(正直失望した。長年の洋書初心者にも関わらず"Deathbird Stories"を果敢にも全部目を通したことがあり歯が立たなかったので翻訳で読みたいと常々思っていたからである)。エリスンについては激しいパッションが特徴で、現代の作家ではバチガルピと相通ずるものがある気がする。個人的には波長の合う作品と合わないものがあるのも事実で、文体のカッコいい「竜討つものにまぼろしを」、冴えない男の思いがストレートに描かれる「プリティ・マギー・マネーアイズ」、アーブーに涙「死の鳥」、ニューヨークの孤独が背景に感じられる暴力的な「鞭うたれる犬たちのうめき」、少々ラファティを連想させる「ジェフティは五つ」といった辺りが印象に残ったが、ところどころついていけない部分もあった。ただ文章の切れ味は圧倒的で、鏡明氏がlivewireのイベントで「古びていなくて安心した」とおっしゃっていたようにいまなお読者の心を揺さぶる力を持っている。

七色いんこ手塚治虫 コンビニ本。こういう演劇ネタの話だったのか。

『青い鳥』メーテルリンク 火や水や光が主要キャラクターだったりする抽象度の高い内容で途中にはスペイシーな展開もあるなどかなり想像していたのと違っていてかなり驚かされた。なんでも読んでみるもんだなあ。
(偶然鳥の本が続いたぞ(笑)

トーマの心臓萩尾望都 これも恥ずかしながら初読。おっさんが読むとなかなか眩しすぎるものがあるなあ(笑)。でも面白かった。こういう男子寮ものってどれくらいの系譜まで遡れるのかなあ。

『エターナル・フレイム』グレッグ・イーガン 物理の数式のところはさっぱりな読者だが、架空の科学史として非常に面白い。また過酷な運命を背負う種族たちの苦闘ぶりとそれにも関わらず社会が協力しきれないところあたり人類の諸問題を連想させる。続きもまた楽しみだ。

『パパラギ』 本を整理してる途中で見つけたので読んでみた。西サモア酋長の演説という設定で白人が書いた一種の偽本だった。今は許されないだろうねえ。1920年に何らかの義憤に駆られて西洋文明批判本を書いた著者の気持ちは時代も随分昔だし理解をしてもよいが、それから60年近くたっての1977年に(内容を知りつつ)再刊した人々の意図には不純なものを感じざるを得ない。推薦文を書いた遠藤周作谷川俊太郎浅井慎平らも罪を免れるとは思えない。

劇場で観た映画2016年5月~10月

 これまでTVで観た映画も書いていたのが嘘のようにものぐさになり、気づいたら既に5月から観た映画についての記事を書いていないぞ。このままでは備忘録の機能も果たせないので慌てて箇条書き。

「プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムス」 Prince急逝に伴う上映で初見。一番好きな時代なんだけどなんとなく観ていなかった。人気絶頂向かうところ敵なしだったThe Revolutionを突然解散、個人名義でアルバム"Sign of the Times"を発表しその時の少しだけドラマ仕立てになっているライヴ映画。急造に近いと思うバンドだということを微塵も感じさせないクォリティの高さに圧倒される。特に素晴らしいのがShiela Eで、ドラムにダンス躍動感あふれるパフォーマンスに目を奪われる。数多いる殿下配下の女性ミュージシャンのなかでも別格の存在であることがわかる。死のショックが癒えない時期の上映で、殿下へのファンの思いが劇場に一体感を生み素晴らしい雰囲気だった。終了後は涙があふれた。

「Bad Brains/Band in DC」 上記の「プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムス」と同じく渋谷HUMAXシネマだったかな。グループの影響力の大きさと平坦ではなかった道のり、奇行は目立つが替えのきかないフロントマンHRと周囲のあつれきなどが印象に残った。生で観たい気もするがその時のHRの状態で楽しみるかどうかは賭けに近い感じかもなあ。

「ハイ・ライズ」 原作を読んでから観た。原作自体は1990年代の「楽園への疾走」「コカイン・ナイト」「スーパー・カンヌ」などに通じる閉鎖したコミュニティで人間の行動が変容していく作品群に直結する内容で、映画も原作に基本的に忠実。わかりやすくするためにトビー少年の視点が生かされるのも「太陽の帝国」を思わせ、非常に原作のエッセンスを上手く抽出している印象。特に感心したのはヴィジュアルで、原作が書かれた時代らしい建築や小道具のデザインに寄せていることで、これはなかなか大変だった思われるが(ただ単に当時の再現をすると現代から見ると変なものに映る可能性があり、現代的にアレンジされた1970年代中盤という難しい線)、原作の雰囲気を損なわないことに成功している。

そして黒沢清2本。去年「岸辺の旅」があって、さらに今年も2本。ファンとしては嬉しい限りである。
「クリーピー 偽りの隣人」 サイコパスに詳しい元警部が対処にあやまり重傷を負って、転居し大学教授になっている。ある日過去の未解決事件の謎を解明するように部下に持ちかけられる。一方転居先の隣には奇妙な親子が住んでいた。いわゆるミステリなんだけどところどころに現れる黒沢清らしい空間描写がたまらないんだよなあ。特に何気ない日常の中におぞましい空間がいきなり顔の覗かせるところの恐ろしさといったら!香川照之の演技も凄い。

「ダゲレオタイプの女」 全編フランス語、スタッフもフランスで選抜ということでフランス映画。不勉強ながらダゲレオタイプというのが古典的な写真技法だということを知らなかったのだが、それを使った写真芸術家のところにアルバイトで採用された若い男が次第に芸術家の過去を知っていくという話。結局どこを切っても黒沢清という作品だった。芸術家の娘を演じるConstance Rouseauがミステリアスな美貌で非常に役にマッチしていた。同じ姿勢を長時間保ち、美しい写真に永遠を封じ込めるという技法へこだわりを見せる芸術家の偏執には映画を撮ることに対する視点がオーヴァーラップしている感もある。またミイラ取りがミイラになるといった構図はく「クリーピー」とも重なる。これまた面白かった。

※三つも忘れてたんで追記
ズートピア」 難しいテーマをハイレベルの映像とストーリーで自然にまとめられていることに驚かされた。評判通りというより評判以上、特に後半の展開は良い意味で予想を裏切られ、素晴らしかった。(本当に人種差別的なところの深い問題まで踏み込めているのか、という意見も見たがそこは商業ベースとして成功させているところがOKと考えてしまう。根が俗物なのかもしれない)

「MR.DYNAMITE」 パンフレットにもあるように重要な70年代までを焦点にしたJBのドキュメント。効果的にライブ曲を挟みながら歯切れのよい編集されていてよかった。今後JBを知りたい人にスタンダードなりうる内容。プロデュースに同時代のミック・ジャガーがいるのでリスペクトしながらネガティヴな面も紹介されバランスもよい。伝説化されたタミー・ショウの裏側を話すミックのチクリとやりつつ負けを認めているところにそれが現れていた。ミックは初ソロのミュージックビデオタイアップお遊び的な映画Running Out of Luckでも遭難した言葉の通じない国で自分と気づいてもらうためにレコード屋でセルフモノマネをするシーンがあったが、今回も思いきりJBと比較映像になってて、そのあたりの分かってる感がいい。

スーサイド・スクワッド」コミックの方の予備知識はなし。もう一段クレイジーな展開を期待していたところもあったが、まあ楽しめた。うーん評判は芳しくないのも似た路線の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」をTVで観た今はよくわかるけどね・・・。