異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。

2021年6月に読んだ本

まあなんとかかんとかやっていて、本も読んでいます。
                                                            『博物館の裏庭で』ケイト・アトキンソン
 ケイト・アトキンソンの処女長編。『ライフ・アフター・ライフ』と共通する、イングランドの平凡な家族の日々を戦争の影を映しながら苦いユーモアを交えて描いていく。全体やや冗長ながら、その鮮やかなテクニックは既に確立していることがわかる。浮気現場の下りとか爆笑した。
                                                             『族長の秋』ガルシア・マルケス
 独裁者による歪んだ支配が人々に信じ難い災厄をもたらすが、非日常な設定(人間とは思えない長寿など)、多様な語りで表現をしている。散りばめられたエピソードは時にナンセンスなほどで笑いを誘うが、実は恐ろしい現実を写しとったものでもあるのだ。
                                                            『ナイトランド・クォータリーvol.02 邪神魔境』<クトゥルー神話>特集。
○フィクション
「神の石塚」ロバート・E・ハワード 画 藤原ヨウコウ
 ハワードのケルト 趣味的な側面が強く感じられる作品。主人公と対立する人物オータリの、北方と南方の対比表現も印象的。訳者中村融による本誌刊行時(2015年8月)のハワード作品紹介状況と歩みも掲載されている。
「狂気の氷原へ」ブライアン・M.・サモンズ
タイトルで推してしるべしだが、極地と怪物の相性は元々良いのかもしれないね。
「熱砂の妖虫」デイヴィッド・コニアース
 スパイもので邪神もの。いろんなヴァリエーションがつくれるのが邪神ものの定着なんだろうな。
「悪夢の卵」ジョシュ・リノールズ
 第一次大戦の負傷兵を題材にしたカーナッキ関連もの。カーナッキの助手を主人公にしてるところが現代的なひねりか。
「呪われしパンペロ号」ウィリアム・ホープ・ホジスン
 ホジスンの船ものは経験のなせる技か、描写に説得力がある気がする。これもモンスターものっぽい趣向がうまくはまっていて面白い。作品解説にはホジスンに関する充実したサイトに、お知り合いのshigeyukiさんの名前を発見!さすがである。また、作品後のホジスンら船員経験のある作家と『白鯨』の関係を考察した評論「幽霊船とクジラ」(植草昌実)も短めながら示唆に富んだ内容。
「ルルイエの黄昏」コンスタンティン・パラディアス
 クトゥルー神話にスケールの大きな戦争の設定を持ち込んだ、ジャンル的にはSFだろう。クトゥルーは本来的にSF要素を包含しているせいか、SF領域にも相当影響を与えてるね。またギリシアからこうしたムーブメントに参画しているだろう作者の活動をみると、世界的クトゥルー秘密結社っぽい感じがなんかいいよね。
北極星間瀬純子
 ロシアを連想させる架空の国、流死(ルシ)国を舞台にした邪神もの。漢字・カタカナ・ルビを巧みに操ってのエギゾチズム演出が楽しい。
「魔経海」<一休どくろ譚> 朝松健
 今回は海もので、摂津国兵庫湊が舞台。いつもコンパクトな長さに見せ場と謎解きがあって楽しい。
○ノンフィクション
・「魔の図像学2 C・D・フリードリヒ《雲海の上の旅人」樋口ヒロユキ この連載は面白い。ドイツのナポレオンによる圧政が絵の背景にあるという。
・「ケルトの原象と、破滅的ヒロイズム」岡和田晃
 ケルトやピクトを切り口にしたハワードとフィオナ・マクラウドの比較。さすがの分析でフィオナ・マクラウドを読みたくなる。
                                                            『われら』ザミャーチン
 100年前に書かれたディストピアものの古典。数学用語が多用される文体は独特で魅力的。また先駆的な視点も多くみられるが、一読では世界像、プロットがつかみづらかった。評価は保留。
                                                            『黒の碑』ロバート・E・ハワード
ハワードのクトゥルー神話集。クトゥルー神話もの、一冊の本として読むのは初めてかもしれない。
「死都アーカム」短い詩。この世にあらざるものと化した視点に入ろうとするところに目を引かれる。
「黒の碑」 異教趣味が印象に残る。しかし、トルコ語の文献をなんとか読みこもうとするといったあたり、当時の人々の知的好奇心に感心してしまう。英語がグローバル言語化し、学会によるシステムの浸透で、重要なものは英語で入手できるというスタンスの現代とは異なった知のあり方が存在していたことを感じさせる。
「アッシュールバニパル王の火の石」アメリカ人とアフガン人のコンビが砂漠を冒険するという設定がいろんな意味で考えさせる。キリスト教文化圏外の事物への意識や作者が指向していた西部劇的な要素が含まれている。(ナイトランド・クォータリーNo.2に本書と本作の紹介あり)
「屋上の怪物」短くストレートな怪奇譚。
「われ埋葬にあたわず」とある老人の死にまつわる秘密。王道の展開だな。
「聖都の壁に静寂降り(メッカのかべにしじまふり)」
詩。聖と俗の混在した都が宇宙的視野から描かれる。
「妖蛆の谷」恐ろしいピクト人と戦いを通じ交流し、怪物に立ち向かうという異文化趣味と血腥さと冒険の作者らしい作品。
「獣の影」タイトルそのままといったストレートな作品だが、幽霊屋敷もののフォーマットも組み込まれている印象。
「老ガーフィールドの心臓」状態の悪い老人が告白する自らの奇妙な身体のこと。ネイティヴアメリカン 文化への関心が現れている。シンプルだがキイイメージが鮮やか。
「闇の種族」コナン初出の歴史的作品らしい。当初はジョン・オブライエンという(当時の)現代人にコナンの記憶が呼び覚まされるというものだったのだな。さらにクトゥルーものであり、女性に振り向いてもらえないというコンプレックスもみえたりする。差別的な視点もみられることも含め、様々な意味でハワードの特徴がうかがえる歴史的重要作品だろう。
「大地の妖蛆」ブラック・マク・モーンもので世評高い一編。ピクト人の王が主人公というシリーズ、まずはその異文化趣味的なセンスに目を引かれる。中村融氏のSFスキャナー・ダークリーでも言及されている傑作で、登場人物たちの緊張感のある関係や起伏に富んだストーリーと奥行きのある背景の設定に迫力ある描写とたしかに凄い。http://sfscannerdarkly.blog.fc2.com/blog-entry-344.html?sp 惜しむらくは、内容が長編くらいの濃密さなので、中編というサイズでは少々詰め込み過剰気味なところ。
「鳩は地獄から来る」幽霊屋敷ものの怪奇小説、といえるだろう。舞台設定とシンプルな筋立てが、随所に身の毛のよだつ描写と謎解きの流れとはまり、(解説にもあるように)集中最高作だろう。
「顕ける窓」これも短い詩。新たな恐怖の扉を開けたのは作者自身(とラヴクラフト)なのだろう。
ハワードは、ラヴクラフトと同時代、交流もあったいわば後輩にあたる作家。なので、クトゥルーものといってもまだ未分化な区分けといえる。その分、逆に作品に幅があり、そこがむしろ面白い。詩がおさめられているのもポイントだろう。倉阪鬼一郎の解説も、作家らしく、豊かな比喩表現で作品・作者が紹介されていて素晴らしい。入手困難本だがハワードに興味がある読者には強くおすすめしたい。
                                                               『あなたをつくります』フィリップ・K・ディック
 ディックも久しぶりに読む。1972年だから、ディックとしてはキャリア後半の方の作品。歴史上の人物のシミュラクラ作成に成功した会社が、一儲けを企むというところから始まる。しかし、シミュラクラで社会がどう変わるかという話にはさほどならず、その会社関係で主人公が共同経営者の娘に惹かれて右往左往する話が主となる。その意味ではスケール感は大きくないが、妄想といじましさのお馴染みディックワールドが展開され、ストーリーもよくできている。精神医学の記述には偏りはあるのは気になるが、全体にまとまりはよい。SF要素に必ずしも大きく比重が置かれているわけではなく、主人公の心理が中心となるなど、現在だとスリップストリーム系作品に位置づけられる内容ともいえる。主流文学を志し(たが、成功しなかっ)たディックの目指したものを知ることができるユニークな作品だろう。作品背景を些細に解き明かしてくれる牧真司氏の解説も読み応えがあり、ディックの人となりをよく知ることができる。