異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 『猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選』中村融編

~読めば読むほど謎が深まる不可思議な存在~

 空前の猫ブームだそうである。
 ま、結構なんだが、猫だけ別格に人気がある感じだよね。どうしてそんなに人気があるのか。いやこっちは犬派とかじゃなくて、“犬”だからね(笑)。人気の秘密が気になる。
 SFでもずっと人気だよねー、猫。ハインラインコードウェイナー・スミス、ニーヴン、神林長平などいくらでも挙げられる。猫好きなSF作家も多い。
 そんな猫SF集が数々の名アンソロジーを送り出してきた安心ブランド中村融編で登場だ。どれどれ猫人気の理由を探ってみようではないか。
 前半<地球編>と後半<宇宙編>の2部からなる。
 通して読んでみると他にも2種類にわけられるのではないだろうか。
 ひとつは身近なのは友達や相棒として猫。
 ロバート・F・ヤング「ピネロピへの贈りもの」やデニス・ダンヴァース「ベンジャミンの治癒」では人と猫の結びつきを見つめる作者の眼差しが温かく猫好きの涙を誘うことだろう。特に後者は不思議な力を持った男と年を取らない猫の奇妙でちょっぴり切ない猫好き男性の琴線に触れる物語だ。ジュディ・リン・ナイ「宇宙に猫パンチ」やアンドレノートン「猫の世界は灰色」は宇宙を舞台に相棒としての猫が大活躍する。巻末のフリッツ・ライバー「影の船」は集中No.1の傑作。怪奇幻想と宇宙SFの要素が巧みに重ね合わされているが、実は酒場を舞台にした酔いどれの日常が背景にあるという多層的な構造は技巧派ライバーの面目躍如といったところだ。そして主人公のやるせない日々を支えるのが相棒猫キムだ。スタージョン作品と共に<しゃべる猫>が楽しさを増している。
 もうひとつは謎めいた存在としての猫。
 可愛いいルックスと相反する何か人間を超えた世界を感じさせる猫たち。その力で人間のいろんな騒動に巻き込む。
巻頭ジェフリー・D・コイストラ「パフ」では遺伝子操作を受けた猫、ナンシー・スプリンガー「化身」の妖しいカーニヴァルの世界と異界を結ぶ艶めかしい猫、平凡な未来の日常からスケールの大きな危機への転調が見事なジェイムズ・H・シュミッツ「チックタックとわたし」のエイリアン猫。ジェイムズ・ホワイト「共謀者たち」では動物としての猫というテーマが扱われる。意外と見過ごされてきた視点ではないだろうか。シオドア・スタージョン「ヘリックス・ザ・キャット」の猫はなんというか一種の犠牲者(猫)なんだが、しゃべったりするしイメージとしては特別な力を持つ猫といってもいいだろう。作品自体なんともいいようのない妙なドタバタ劇の傑作なのだが、猫の分類をしようとしてもはみ出してしてしまうところがスタージョンらしい。
 <宇宙編>の目玉が「影の船」だとすれば、<地球編>の目玉はこの「ヘリックス・ザ・キャット」だろう。
 さて読んで猫に詳しくなれただろうか。いやいやまずますイメージがまとまらなくなったぞ。
 身近でいて遠い謎めいた存在、愛らしいかと思うと時に怖い存在だったりもする。なんとも不可思議。
 そこが魅力なんだろう。
(えー、次は犬SF傑作選も是非!)(2017年12月17日)