異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 連載「放克犬のおすすめポピュラー音楽本」 第4回『プリンス論』西寺郷太


『プリンス論』西寺郷太
~気まぐれな天才の軌跡を深くユニークな視点から切り取った個性的なプリンス本~
 2016年4月21日(日本時間4月22日)個人的に最も衝撃的だった音楽家の死が伝えられた。
 プリンス、享年57歳。
 孤高の天才ゆえの誤解、スキャンダル、神格化のはざまにありながら常に現役音楽家としての存在感を見せつけ続ける中での急逝であった。
 思春期に1980年代のいわゆる洋楽(米英のロックを中心としたポピュラー音楽)で育ち、中でもハードなギターサウンドとダンスミュージックを合わせ持った音楽に指向性を決定され自らの音楽ファンの幹となるP-Funkへの導入となったプリンスは最初に出会った先生のような存在である。
 しかもその先生はあからさまにセクシュアルかつ両性具有的、とってもアブナイ先生だったのである(ありがたいことに)。
 正直そのキャリアの後半は(本人の音楽へのこだわりの強さもあって)音楽配信方法の制約などで音楽以外のわかりにくさが加わり十分に追えていなかったが、動向にはそれなりに注目していただけにまだ50代での急な訃報はあまりにも衝撃的だった。
 そしてそのキャリアを振り返りたくなり、情報を集める中で出会ったのが西寺郷太『プリンス論』である。
 西寺郷太さんはミュージシャンでありラジオやニコニコ生放送などで音楽紹介をするパーソナリティとしても活躍、深いブラックミュージック愛を肩肘張らないスタイルで軽妙にご紹介する方という印象があった。
しかし著作の方には一味違った顔が現れている。
楽家らしい楽曲の構造やレコーディング技術・配信などをふまえた詳細な解析を一般読者にもわかりやすく伝えられる文章力もさることながら、黒人でありながら白人が圧倒的多数派であるミネアポリスに生まれ複雑な家庭環境の中で育った経歴やデビュー時のまだまだ人種差別的だった音楽業界を背景に時に戦略的に時に独裁的にふるまう姿を詳細な情報から大胆に持論を交えて紹介してくれるとのころが本書の読みどころだ。
何しろ西寺氏は<ウィ・アー・ザ・ワールド>のマイケルとの共作者で中心的な存在の一人であったライオネル・リッチーをして「君は僕より詳しいよ」と言われた人物である(本書P106)。
本人の言葉というより出来事や周囲の人々の関係から読み解く手法は音楽探偵の様で実にユニーク。
1973年生まれで同時代には小学生であった著者の詳細に情報を追いつめる研究熱心さが本書の説得力を生んでいるのは間違いない。
 <ウィ・アー・ザ・ワールド>プリンス「ドタキャン」事件の顛末は間違いなく本書のハイライトの一つだろう(第3章ペイズリーパーク王朝P101から)。
 強いカリスマ性を有するミュージシャンだけにその経歴を振り返ろうとするとややもすると書き手がプリンスの言葉に引きずられ迷走してしまうパターンが見られがちだが、本書ではその音楽への敬意を払いつつ適度な距離感を持って紹介されていてこれからプリンスを聴こうという人やある程度プリンスに違和感を感じる人にも入りやすい内容になっている。
実はこの本2015年9月20日に出ているのだが、本書が出てから1年も経たずにプリンスが亡くなったので結局キャリアをほぼ網羅した形になってしまった。
 それ自体は悲しいことではあるが、これからも沢山の人達にプリンスの音楽を知って欲しいファンとして少しでも興味を覚えた方には是非とも本書をおすすめしたい。(2017年8月13日)