異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2017年9月に読んだ本

今月もあんまり読めなかったなあ・・・。

『人形つくり』サーバン
 支配-被支配の関係性が根幹となる2中編からなり、教師や生徒が登場人物など共通点が多い。自然の力を有するような少年の不気味さが印象的な「リングストーンズ」、不穏さが徐々に高まりサスペンスフルな終盤を迎える「人形つくり」それぞれ面白かった。

10月の京都SFフェスティバルに向けてレム強化中。
『主の変容病院・挑発』スタニスワフ・レム
 リアリズム小説、架空書評、科学(風?)論説とバラエティに富むが全体にシリアスなトーン、随所に文明や人類に対する鋭い指摘がみられる。
『天の声』スタニスワフ・レムサンリオSF文庫
 本来は国書刊行会レム・コレクション『天の声・枯草熱』で読もうと思っていたが、持ち運びを優先して共に元々持っていたサンリオSF文庫版で読んでみた。宇宙から送られてきた謎の信号を解読する科学者をめぐる小説で、人間の認識の枠組みを問う(それを人間であるレムが追求するのだから自ずとその困難性が認識される)レムの科学的思考面での究極の作品とも言われている。煎じ詰めると<認識の限界>がテーマなので一般的なカタルシスが得られるような小説ではないが、常人非ざる思考力と幅広い知識を有するレムのこと鋭い指摘が随所にみられる。また語り手の科学者が「なぜ謎に取り組むのか」を自問したり、科学者自身が避けて通れない科学者社会の党派的な動きについても俯瞰的に描かれていることも重要だろう。ともすればこうして視点はフィクションであれば英雄的にあるいは理想化されて描かれてしまったり、看過されてしまいがちだがそこを指摘しているところにレムの凄さが感じられる。
『枯草熱』スタニスワフ・レムサンリオSF文庫
 連続怪死事件を追うミステリで、意外性のある結末を迎える。謎解きは明かせないが、なかなか楽しい作品だ。レムって割合と日常描写が上手いというか庶民的で味があるなあとも思った(序盤のところとか)。
 さて9月16日翻訳家でにレムも訳されている芝田文乃さんをゲストに迎えたSFファン交流会が開かれ、参加してきた。他に牧眞司さん(SF研究家、書評家)、橋本輝幸さん(SFレビュアー)、清水範之さん(編集者)。たっぷりレムの話が聞けて本当に楽しかった。皆さんの深いレム愛に感銘を受けたが、特に芝田さんの、実際にレムにお会いになった時のお話やグラビンスキからの影響関係の話(グラビンスキも訳されている芝田さんだがレムを通じて知ったらしい)が印象的だった。
 
『死都ブリュージュ』G.ローテンバック
 ベルギー奇想の系譜展などでベルギー絵画を観たりしていたらふとこのタイトルがなんとなく想起されたので読んでみた。1892年の作品で、愛する妻に先立たれ悲嘆にくれる男が妻にそっくりな女性と出会うというもの。筋はシンプルで長さも短いが、主人公自らが町と重ね合わされ、水のイメージが全体を覆う仄暗い幻想性が持ち味。当時のモラル意識も興味深い。

『妖樹・あやかしのき』夢枕獏
 久しぶりに夢枕貘を読んでみた。古代インドが舞台で冒険好きで何事にも動じない若き王子アーモンと従者ヴァシダが怪異に出会う物語。アーモンは九十九乱蔵に似てるなと思ったら、キマイラシリーズの原型らしい。タイトル通り異国情緒豊かな植物のイメージが核になっていてやはり安定の面白さ。