異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2021年11月に読んだ本と聴いたイベント

イベントの方から。ヨーロッパ文芸フェスティバルというのが11/17~11/26オンラインで開かれていることを知り、またレムの企画もあったのでちょっと聴いてみた。いろんな大使館が協力している企画のようだ。
eulitfest.jp
◎日常の亀裂~恐怖を描くこと – ヨン・アイヴィデ=リンドクヴィストとの対話
 『MORSEーモールス』『ボーダー 二つの世界』が邦訳され映画化もある作家、ヨン・アイヴィデ=リンドクヴィスト。実は作品未読で映画の方も未見という状態で、申し訳ない感じだが、マジシャン、スタンダップ・コメディアンとしての活動もあり、トークは流麗、まさしく当意即妙で楽しめた。異質なものを日常に投入する、という点でコメディと恐怖には共通点があると、この辺りはグローバルに共有されうる感覚なのだなあと思った。
◎SF&ファンタジースタニスワフ・レム作品を日本語訳で読む/スロヴァキアのリヴィア・フラヴァチコヴァー
 前半は芝田文乃さんによるレムの翻訳の歴史紹介。時間が限られたのが残念だったが、意外と早くから訳されていたこと、『地球の平和』の訳は出来ているとの嬉しい情報も!後半はスロバキアの作家リヴィア・フラヴァチコヴァーさんにファンタジー文学の魅力と歴史について。医師でもあり科学的な思考との共存がなかなか面白かった。作品も読んでみたい。
 無料だし、同時通訳もあるし、時間があれば他のも聴きたくなるイベント。作品の公開もあり、そちらは2022年1/31まで。ちょっと読んでみなくては。

さて読んだ数としては、相変わらずの低調ぶり(苦笑)。
◇ミステリマガジン2015年3月号
 P・D・ジェイムズ追悼号で、未読の作家なのでいろいろ参考になった。また各国ミステリフェス紹介も良い企画だった。ただ実は一番発見があったのは小笠原豊樹追悼小特集。岩田宏名義の詩や小説のことなど、より興味深く感じられた(早速古書で小説を購入)。
「夜」レイ・ブラッドベリ
 連載を除くと創作は小笠原豊樹小特集のこれのみ。二人称小説という難易度の高い形式もブラッドベリ=小笠原の手にかかれば魔術のよう。<夜>世界への不安がじわじわと迫っていく筆致が素晴らしい。 
文學界2019年10月号
 読み切りと興味のあるもののみ。
〇フィクション
・「堆肥男」吉村萬壱
 以前から興味があった作家だが、たしか初読のはず。平凡なサラリーマンの日常に奇妙な世界が入り込む作品。連作の一つで、全体との関係はわからないが、途中で自分の感覚が揺らいでいく場面が印象に残った。
・「仮の林」牧田真有子
 1年契約で仕事を転々とする主人公と、ある夫婦との交流が描かれる。オーソドックスな分、多少地味てもあるが、盆栽が詳しく扱われストーリーとよく噛み合っている。
・「少女とニコレット小谷野敦
 少女ヌード写真、という問題のある表現形式について、時代の落差が登場人物間で語られるような作品。しっかりとした根拠があるとも思えない風説が会話にでてくるが、正確さ以前に小説の中であまり効果を上げているとも思えない点が気になった。
〇ノンフィクション
阿部和重『Orga(ni)sm』特集
 インタビューや評論が載っている。阿部和重についてはほとんど読んでいないのでざっと目を通したのみ。内容や手法など興味深い点は多く、時間ができれば是非チャレンジしたいのだが。
・「さかのぼり日本のアート」落合陽一
 画家への転向と、アートの終着点ーウォーホル、三島、万博 ゲスト=横尾忠則
 落合陽一についてはその活動に今ひとつピンとこないところがあるのだが、新しい世代が横尾忠則に惹かれてるのはちょっと興味深い。横尾自身の話はいつもながら独特の感覚と思考が現れていて面白い。クリシェ的な文明論・人間論に陥らず、しかも陽性なので横尾に関わるものに触れて失望することがあまりないのだよね。あまり前向きになれない心境でも気が重くならずに見たり読んだりできる。
・首の行方、あるいは(6)金井美恵子
 三島自害に関連してのこのエッセイは以前読んだ記憶があるが、その後も続いていて当時の事物あれこれに話題が広がっていた。相変わらず切れ味の良い文章と鋭い視点で面白い。倉橋由美子の著作について触れていて、『城の中の城』が読み途中だったので、その辛辣な言及にも笑いを誘われた。
・「歴史」の秩序が終わったときー三島事件と歴史家たち 與那覇
 三島事件については本人の行動とか社会の受容のずれが大きい気がして、悲哀を感じてしまうのだが、江藤淳との意識の違いか松本清張とか司馬遼太郎とか様々な人物からの言及内容とかは参考になった。あと全く関係ないが、(石原慎太郎の手記だろうか)三島の発言で「マイコンの中での戦争ゲームのソフトのような」という表現があったようで、「マイコン」という言葉が1969年くらいに使われているらしいことがわかる。「マイコン」はいつごろ使用されていた用語なのかなあ。
天皇と歌ー永田和宏『象徴のうた』 内田樹
 論点の違いはあれ、天皇の果たす役割について全く論じられていない、といった指摘の含まれたこの評論と與那覇潤の論考が一緒に掲載されているのがちょっと面白い。この辺り日本人が天皇制を考える難しさを表しているような気がしないでもない。
それから、新海誠『天気の子』論もあったが観ていないこともありパス。

さて、創元の復刊フェアで長年気になってた2作が出ていたので、購入して読んだ。
◆『夜の声』ウィリアム・ホープ・ホジスン
 主に海洋もので構成された短編集で楽しめた。モンスター描写、イメージ喚起力に秀でているなあという感じ。
「夜の声」
 映画「マタンゴ」の原作だが、20頁ほどの作品で、かなりシンプル。だが、キノコそして空腹のイメージが相まってインパクトがある。
「熱帯の恐怖」
 ストレートな怪物もの。海洋と怪物は相性が良い。
「グレイケン号の発見」
 こちらは冒険小説の趣き。主人公が閉じこめられたり、意外性のある展開で読者を惹きつける。
「石の船」
 これも怪物、海洋冒険ものといった趣向だが、石の船の鮮やかなイメージと謎解きの要素、また危険と宝物の取り合わせがあったりする。それもまだ洗練されていないプロトタイプ的な興味深さがある。
「カビの船」
 タイトル出オチ的な作品かなと思ったが、これまたなかなかインパクトの強い悪夢的映像の浮かぶ作品で、これも面白かった。
◆『夢の丘』アーサー・マッケン
 さてこちらは(個人的には)なかなかの難物だった。不気味な幻にとりつかれた作家を描き、自伝的要素の強い青春の魂の彷徨と怪奇幻想が融合した野心的な作品。内へ内へとむかう幻想の質がどうも肌に合わず、読み通すのが少し骨だった。ただ様々な作家に対する言及もある点なども含め、貴重かつ歴史的意義の大きな作品ではあると思う。『白魔』は面白かった記憶があるのだが。