異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『ヴァリス[新訳版]』 フィリップ・K・ディック

 さて『ヴァリス[新訳版]』の自分の感想も書いておくか。
 周囲の人々の死をきっかけに作家ホースラヴァー・ファットは精神に異常を来たし始め、ある日啓示を受け独自の神学を記録し始める。そんな中友人と映画「ヴァリス」観ることにより世界の真実を知ることになり、カルトサークルを形成・・・。といった様な感じかな?
 まずトークショーでも指摘があったように新訳で読みやすく明晰になった。元も神学論争が頭に入りづらい身としては、明晰な分この独自な神学の訳の分からなさついていけなさがより際立ったような気もする(笑)話の流れとしては前半はディスカッション寄りで多少キツいのだが、映画「ヴァリス」の辺りから展開があって面白かった。終盤も一筋縄ではいかず、カルトな神学本と決めつけられない揺らぎもあり、神学と小説の間を行き来するようなところに創作においてのディックの苦心の跡を見ることが出来るのもまた不思議な持ち味になっている。また、前の訳では神学論争に関するシリアスなディスカッションに感じられた仲間とのやり取りが、ディックの作品でしばしばみられる「先の見えない仲間同士でグダグダ話している」と同じであることが分かり、なるほど『ヴァリス』だけが特別な作品ということでもないのだなあと感じられた。あと個人的には1970年代後半のアメリカ西海岸のこうしたニューエイジっぽい空気感も印象的で、この作品の興味深い点だと思う。