異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

2017年1月に読んだ本

『ストップ・プレス』マイクル・イネス 殊能将之氏のホームページでの秀逸な紹介から13年余り、翻訳刊行されてから11年余り、ふと思い立って読み始めたらミステリ慣れしていない当ブログ主にも(年末年始の休みを使うことによって)意外にすんなり読めた。癖の強い人物たちによるひねくれたエピソードやちりばめられたペダントリーに英国らしい味わいがある。そもそもなかかな殺人が起こらないとか(笑)。

『てなもんやSUN RA伝』湯浅学 前記したlivewireの吉田隆一VS丸屋九兵衛イベントの下準備に読了。実はイベントではあまりSun Raの話は出なかったのだが(笑)。ネットなどで曲を聴きしながら読んだ。作品が膨大でジャズに明るくないのでどこから手をつけていいか迷っていたが、本書で手がかりを得られた気がする。大変強い信念の持ち主で困窮していても迷わず突き進む真摯な姿が印象的で大変面白かった。晩年救急病院で問診に手こずる救急医に専門医が「この人は土星人だよ」と教える下りが最高。ついでにSun Raの映画「Space is the Place」入手困難のようだが、youtubeにあったので本書を参照しながら観てみた(ちなみにアップされているのはSun Raが削除を要求したと思われるシーンの残るバージョンっぽく、本書に書かれているがそちらが発売されたこともあるそうだ)

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フィクション仕立てでブラックスプロイテーションと彼の宇宙的センスが融合した興味深いものだった。当然P-funkに近いが、1972年頃だとするとParliamentの宇宙路線より早いことになる(George Clintonは観たのだろうか)。

デヴィッド・ボウイ: 変幻するカルト・スター』野中モモ 熱心に聴いてきたわけではないボウイだが(アルバムの一部は発表された時代より後になったものの愛聴してきたし世代的にもある程度流れは把握しているので)、ポピュラー音楽の分析が近年は大分進んできているなあと感じた。翻訳家でもある著書のため歌詞などでの言葉遊びや引用についての言及も説得力があるし、他にもいろいろ発見があって面白かった。デヴィッド・ボウイはポピュラーミュージックのアーティストというより、ポピュラーミュージック(ロック)を使ってポップ・アートを表現したポップ・アーティストだったんだなあと思う。これからもいろんな角度から見直すことことができる人だろう。

SFマガジン 2016年4月号』 デヴィッド・ボウイ追悼特集号。随分遅れてしまったがこれも上記イベントのために読んだ。読み切りのみ感想を。
overdrive円城塔 思考のスピードが加速したらという着想。やっぱりこの人は凄いね。
「烏蘇里羆(ウスリーひぐま)」ケン・リュウ 満州を舞台にしたスチームパンクといったところか。日本作家が書くべきだが書ききれないところを書ききって傑作にしているように思える。作品の質がいつも高くて驚かされる。
「電波の武者」牧野修 久々に読むが、言語実験的なところがこういった方向性にいってるのか。「月世界小説」も読まないとなあ。
「熱帯夜」パオロ・バチガルピ 「神の水」スピンオフということでいかんせん短い。
「スティクニー備蓄基地」谷甲州 一篇では完結してなかった。<新・航空宇宙軍史>の短篇をSFマガジンで時々読むがクールな筆致がなかなかいいよね。
「七色覚」グレッグ・イーガン 視覚機能を拡充するインプラントが人間をいかに変えるかという実にイーガンらしい作品。もちろん面白いのだが、必ずしもスケールのデカい話になるわけではなく人生への諦念みたいなものがみられるところにイーガンの変化が感じられる(悪くない)。
「二本の足で」倉田タカシ NOVA2の「夕陽にゆうくりなき声満ちて風」しか読んだことがなかったので、思ったよりも普通の話で少々意外。アイディアもやや平凡に感じられたが移民をテーマにしておりアクタヴィア・バトラーやジャック・ウォマックが好きということのようて http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/150901.shtml なかなか気になるセンスの持ち主なのでまたほかの作品も読んでみるか。
デヴィッド・ボウイ追悼特集。現在少し時間をおいて読んでみると少々駆け足気味な内容だが、SFマガジンがミュージシャンが表紙にするのは初めてらしく、今後こういったメディアミックス的な方向にいく分岐点となるものではないかと思われ非常にエポックメイキングな号といえそうだ。こうした方向性について個人的には良いも悪いもなく自然な事だろうと思っている。
「やせっぽちの真白き公爵(シン・ホワイト・デューク)の帰還」ニール・ゲイマン 基本的には小品だが、2004年の本作品もボウイの死後には、<帰還>の場面の永遠性が感慨深く感じられる。端々にボウイへの敬意を感じられるところもいい。

『スペース金融道』宮内悠介 次々にいろんな作品を送り込んでその動向に目が離せない著者だが、本作はどんな相手からでも容赦なく借金を取り立てる二人組が主人公のユーモア連作SF。が、むしろアンドロイドの出現で変貌した未来社会が主要なテーマで、現代化されたロボット三原則といった感じのアイディアも含まれており、また著者の新たな面を見ることができる。

フレドリック・ブラウン傑作集』(サンリオSF文庫) 「闘技場」「星ねずみ」といった名作は今でも面白いが、時代の変化によって印刷技術の部分が分かりにくくなっている「エタオインさわぎ」やブラウンの文明に対する考えや「不死鳥への手紙」などにかえって作者のの手触りが感じられたりする。訳者の星新一が翻訳を始めたころの話で創作を加えていた話をあっけらかんと明かしているところにも時代を感じさせる。

『宇宙飛行士オモン・ラー』ペレーヴィン 再読。戯画化されたプロジェクトXみたいなノリでバカバカしい理由で面白くも悲しく登場人物たちが英雄的な犠牲を払う下りがやっぱり読みどころだと思った。

『ゴッド・ガン』バリントン・J・ベイリー

1984年』ジョージ・オーウェル(ハヤカワepi文庫)
すばらしい新世界オルダス・ハクスリー(古典新訳文庫)
 恥ずかしながらいずれも初読だがディストピアSFの古典を読んでみた。しかしこの二つ随分毛色が異なるし目指したものにも差があるように思われる。『1984年』は抑圧された社会と個人の関係が描かれ共産主義下のシリアスな文学と共通するところがある。また社会を管理する側が言語の幅を狭めることによって人間の思想をコントロールしようとする恐ろしさや逆に個人が自ら記述を行う重要性が描かれ言語学的なテーマに重きが置かれている。一方『すばらしい新世界』の方は技術の進歩によって社会や人間がどう変化するかといったところに主眼が置かれている印象がある。両作品とも古典文学の引用なども多く多重に意味の重ねられた歯応えのある作品だが、『素晴らしい新世界』の方は強いていえばSFによる思考実験と伝統的な文学趣味を融合を試みたトマス・M・ディッシュに相通じるものがあるように思われた。