異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

<シミルボン>再投稿 連載「放克犬のおすすめポピュラー音楽本」 第6回 くめどもつきないP-Funkの魅力を紹介その2

 
 さて、前回はP-Funkを外部から紹介する本を紹介したが、今回はP-Funk創始者でアイディアやセンスのコアであり続ける中心人物ジョージ・クリントン自身による内部からみたP-Funkの歩みを記した本を紹介しよう。
 本国では2014年に出版されたこの本、日本では2016年に出たが幼少期からのキャリアを辿る本書は本文だけでも440頁を超える大部でP-Funkファンには出版そのものが大事件ともいうべきものだ。
 まずは翻訳にあたった方々に感謝したい。
 いきなり個人的な話になってしまうが、10代にロックを始めいろんなポピュラー音楽を聴いた中で高校の頃に知ったP-funkほど自分の志向に合うものはなかった(もちろんプリンスという導入があってのことだが)。
 煎じ詰めると「頭と腰の両方にくる音楽」ということだ。
強固なリズム隊で躍らせ強烈なギターでエモーションを掻き立て肉体に働きかけ、それと同時にユニークなSF趣味と語呂合わせの聖俗一体となった歌詞世界で脳を刺激する、こんな音楽は他にない。
 しかしあまりにメンバーが多く、自分が聴き始めたころには既にコアのメンバーが離散状態にあり、低迷期ながら個々の活動は途切れず楽しませてくれさらにその後は人気も回復したものの、結局のところ全体像は後追い世代としては非常につかみづらいものがあった。本書はその穴埋めを十二分に果たしてくれるものだ。
 本書で印象的だったのはかなり早い段階からジョージは音楽のプロフェッショナルだったこと。
ぼんやりと床屋さんが店に集まってた若者を率いてデビューしたみたいな図を想像していたのだが、床屋もやっていた音楽のプロだったようだ。楽譜も読めず歌もけっして上手いとはいえない(というのは前回も書いた)が、曲を作るクリエイターなのだという自負がそこかしこに感じられる。
 振り返ってみるとどんなに状況の悪い時でも彼の活動の中心は音楽でありあまり音楽以外のジャンルへ手を出すイメージはなく、相当な年齢だが(1941年生まれで今年76歳!)ステージに立ち続けている。
メンバーへの金払いの悪さからブーツィー・コリンズや故バーニー・ウォーレルといった古株の主要メンバーが離れたため、どうにも守銭奴のイメージがついて回るが、音楽のことばかり考えていた騙されたというような発言もあながち嘘ではないのかもしれない。
 音楽への自信からかそれぞれのミュージシャンへの発言も率直だ。
 新しい音楽を作ってきたという自負があるためJBを古い音楽と位置づける部分もあるし、ザップのロジャーも小さい成功で満足してしまった人物と評している。
 特に印象深いのはボブ・マーリーの政治への傾倒に強い疑念を抱いている部分で、政治と常に距離を置きながら諷刺をする姿勢を自覚的に取っていたことがよくわかる。
 またロックへ影響が大きいことも認めており、当ブログ主も自分の音楽体験をとらえ直す非常に良い機会となった。
 そう、音楽ファンとして自分が帰っていく場所は常にここなんだ!
 非日常的なエピソードがところどころに登場するのも彼ならではだ。売れていない若い頃に出会い音楽のヒントを得たという謎のマジシャン(呉明益『歩道橋の魔術師』を思わせる)、レコーディングで苦労をしていた際にふらったやってきてたったの50ドルで名曲Get Off Your Ass and Jamのギターを演奏したクレジットされていない謎の男、ツアー移動中道に迷ったらゾンビが出てきて驚いたら『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の撮影中だったとか、コンサートを見守る宇宙人(?)などなど。 もちろん監修にあたった丸屋九兵衛氏の解説にあるように「信頼できない語り手」であるジョージのこと、全てをそのまま受け取っていいのかわからない(余談だがこの「監修」とは、本書に青・黄・ピンク・緑の栞をつけたことらしい)。
 ただこういった虚実のあやしい部分については、本書刊行当時に丸屋氏がラジオ<宇多丸のウィークエンドシャッフル>に出た時に宇多丸氏が「(自分を良く見せようというのではなく)面白くなる方向に話を盛る」といった話をしていたようにあくまでも楽しませようという心性からなのだ。
 解説にもあるように「ファンタジーこそがリアリティ」なのだ(まさにパーラメントに"Fantasy Is Reality"という曲があり、ストレートに架空の世界が現代には必要不可欠であることが歌われている)。
 そう、ジョージは全て「わかって」やっているのだ。
 そして巧みな言葉遊びに乗ってところどころ虚実が入り混じって語られるこの一代記、まさしくこの人ならではと感じさせる一方で、そのルーツであるアフリカの口承伝承の物語を思わせたりもする。
 本書冒頭の幼少期に聞いた原爆についての話題に対する記憶の話も興味深い。
 原爆(や原子力)はSF的想像力の重要な要素であることをあらためて感じさせる。
 つまり伝統的な部分と現代性が見事に融合しているのがジョージのセンスが優れている点なのだ。
 ドラッグについての言及にも大きくスペースが割かれているのも本書の特徴だろう。
 具体的に(あからさまに)記され、公的行事の裏でやっていて見つからないように慌てて隠したなんていうエピソードまで披露している。悪びれないところも実に彼らしい。
 いずれにしても音楽業界につきまとうドラッグ関連状況の貴重な記録になっている。
 契約問題はかなり複雑怪奇。ポピュラー音楽の成功と挫折でマネージャーとの金銭問題がしばしば挙げられ、『ストレイト・アウタ・コンプトン』もまさにそんな話だったが、いつの時代もどんなジャンルでもなかなか上手くいくのは難しいのかもしれない。
 読み終えると山あり谷ありいろんなことがあったんだなあということがわかる。
そしてどんな状況でもクールにそしてユーモアを忘れず、戦い生き抜いたサバイバルの書でもある。
自らのバイブルとしたい(ドラッグはともかくね)。(2017年9月3日)