『記憶よ、語れ』ウラジミール・ナボコフ
ナボコフの自伝。激しく社会変動し戦争の世紀でもあった20世紀、個人としても貴族の家系で祖国を追われるなど歴史の波にのまれてきた傑出した作家がなにを見つめたか。そうした様々な歴史的な出来事との関わり、ある意味当然ながら多くの著名な人物が端々に登場し驚きの連続といった内容だ。しかしさすがはナボコフ 、美しく甘美な文章の中にメタフィクショナルな仕掛けが潜んでいる。
『IQ』ジョー・イデ
LAサンスセントラル出身に日系アメリカ人による黒人版シャーロック・ホームズもの、という様々な文化が入り混じった(同地作家らしい)作品。大型犬が登場するのはニヤリとさせられるが、実際LAで違法ながらヤミ闘犬が行われているらしい。全体にエモーショナルな感じが良かった。本作がデビューらしい作者は1958年と意外にかなりのおっさん(失礼)、苦労人っぽいキャリアも応援したくなる。
『竜のグリオールに絵を描いた男』ルーシャス・シェパード
評判通り面白かったがかなりヘヴィだ。ここに登場する竜は直接人間に対峙したり直接襲撃したりといった存在ではなく、不明確で理解不能な影響を及ぼし人間たちを混乱に陥れる存在だ。各作品の主人公たちは苦悩を抱え歪んだ関係から生ずる物語は重く引きずるような読後感が後を引く。
『レッド・マーズ』(上・下)キム・スタンリー・ロビンスン
火星三部作、読み始めた。2026年火星移民ロケットが「最初の百人」を乗せて旅立つ。優秀かつ我の強いメンバーによる主導権争いは任務遂行で選抜されたメンバーだからこそ安易に暴力的に走らずむしろ精神的かつ永続的になる分なかなかエグ味が感じられるが、従来注目されてきた物理化学的なハードサイエンスのみ社会科学的なソフトサイエンスまでシミュレーションを行った結果のストーリーといえ、しっかりとアップデートしていこうとする著者の視点のたしかさが感じられ好感が持てる。
『反ヘイト・反新自由主義の批評精神』岡和田晃
現在の差別的な言論の根底にある問題が多くの資料により様々な角度から分析され大変示唆に富む内容だった。リアルタイムの出来事についての注釈によるアップデートもされ、より問題が明確にされていた。