- 作者: ジュリアン・グラック,安藤元雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/01/17
- メディア: 文庫
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「20世紀フランス文学において特異な存在感を誇るジュリアン・グラック(1910‐2007)のデビュー作。舞台は海と広大な森を控えてそびえ立つ古城。登場人物は男2人と女1人。何かが起こりそうな予感と暗示―。練りに練った文章で、比喩に比喩を積み重ね、重層的なイメージを精妙な和音や不意打ちの不協和音のように響かせる。」
再刊のようだが全く内容は知らず本屋で見かけ購入。いやこういうのがあるから本屋に寄っちゃうんだよな。1938年の作品で著者はシュルレアリストの一人とみなされていて、ワーグナーの『パルジファル』が元になっているということだけど、よく知らない者としては古城で怪異幻想の世界が繰り広げられるゴシックっぽさというのが初読の印象(解説にポーへの言及もある)。数少ない登場人物におきる様々な出来事が息の長い比喩の多い観念的かつ終末感漂う文章で描かれる。かなり独特な文章なので何が起こったか分かり辛いのだが、色彩豊かで鮮やかなイメージが次から次へと重ねられその連鎖が非常に魅力的。少ない登場人物の関係なのに世界の終末のイメージにつながっていくということではアンナ・カヴァン「氷」を思わせるところもあった(むしろ「氷」がゴシック的な破滅的な世界観を城の様な閉鎖空間から、破滅する世界へと開き一方で内宇宙に安住の地をつくるような試みだったのかもしれない)。
ヘーゲルへの言及など、著者の意図を理解しているとは全く言えない読者であるが、いい本と出会った気がする。