異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

映画「ボヘミアン・ラプソディ」とクイーン(後編 80年代のクイーン)

 というわけで後編は80年代のクイーンのアルバム紹介である。基本オリジナル・アルバムのまとめ。リアルタイムで体験したものを重視して、というのと正直全部は網羅できないということもある(苦笑)。調べはじめてソロ活動もかなりさかんな時期だと気づいたが、これも追い切れず今後の課題とさせていただきたい(陳謝)。それからとにかくなるべく当時の心理を思い起こしながら書きたい。
まず当ブログ主は小学生時代にはまだロックを聴いていなかった。小学五年の夏休みに川崎から横浜に転校したのだが、転校先にはビートルズを聴いている少年二人がいて横浜はなんだか進んでるなあと思った記憶がある。ということで自分は特に関心を持って音楽を聴いておらず、とりあえず歌謡曲は知っていてもロックのことは全く知らなかった。中学に入り積極的に音楽を聴くようになったが、曲を知るきっかけはヒットチャートからで、(正確には1979年からとなるが)そうした流れで耳に入ってきた80年代の音楽が大きく自分の音楽観に影響を与えている。(ちなみにそのビートルズを聴いていた二人組の一人は本職のミュージシャンになった。敬服する)
さて同時代で体験したクイーン、どんなバンドだったかというと率直にいって「なんだかよくわからないバンド」だったのである。その辺について書いていこう。
〇The Game「ザ・ゲーム」(1980年)
 80年代の幕開けはこのアルバムだったのだなあ、としみじみ思う。シングルヒット連発だったのだが、特にカッコいいなあと思ったのがCrazy Little Thing Call Love、Another One Bites the Dustの二曲。後から振り返ると、No Synthesizerを誇りとしてアルバムにも銘打っていたクイーンがシンセサイザーを導入したという位置づけだが当然知る由もなく、とにかくロック初心者だった自分にはカッコいいバンドだなあという印象しかなかった。聴き直してみると前作Jazzまで様々なサウンドにチャレンジしアルバム8枚目で円熟期に入ったバンドが時代を反映してあくまでロックンロールをベースとしながらもダンスミュージックに接近したアルバムということがわかる(1986年のWembleyでのライヴを観るとAnother One Bites the Dustの前にフレディが「次はBoogieで行くよ」といっている)。
〇The Flash Gordon「フラッシュ・ゴードン」(1980年)
 B級大作のサウンドトラックだが、テーマソングはクイーンならではの高音コーラスが印象的でやはりカッコ良かった。ロックと同じく中学になりSFを読み始めたので、ロボットを題材にしたNews of the World(「世界に捧ぐ」)のジャケットと合わせて、SFとクイーンはイメージとして強く結びついた(SF雑誌Astoundingの表紙を元にしていたことは後で知って、SF関連が多いのはXボンバーのイメージが強い天体物理学博士でもあるブライアン・メイの趣味かと思ったが、どうやらロジャー・テイラー雑誌を持っていたらしいのでロジャーの趣味なのかもしれない)。映画ではSF趣味の話はスルー。ブライアン・シンガーはアメコミ映画撮ってるが、あえて触れなかったということだろうな(入れるとしたら相当上手くさらっと組み込まないと未消化になりそうだから、判断としては的確だろう)。
〇Greatest Hits「グレイテスト・ヒッツ」(1981年)
 一つだけ編集盤をはさむ。自分が20世紀ロックベストに入れたやつ。どこを切ってもクイーンらしくキャッチ―で高品質の曲が続く様はエンターテインメントとしてのロックのある意味一つの到達点を感じさせる。そんなことはわかっているよ!というファンの声も聞こえるが、ここでクイーンのサウンドは一区切りつくことになるので入れた。
〇Hot Space「ホット・スペース」(1982年)
 The Gameではダンスミュージックへのアプローチをしたというレベルに留まっていたが、今度は全面的にダンスミュージック戦線に本格参戦、その結果旧来のファンの失望を買い(控えめに表現しても)問題作とされてしまったのが本作。ここで当ブログ主はクイーンとすれ違うことになる。と書かざるを得ないが、実は内容に失望したのではなく、このアルバムというかBody Languageを妙に気に入ってしまったことのがむしろ原因である。今のようにオンラインで自由にアルバムを聴いたりすることができない時代、ヒットソングぐらいしか知らないクイーンの新曲が彼ららしいかどうかなどとても15歳のロックファンに判断がつくはずもない。元々洋楽の聴き始めがマイケル・ジャクソンあたりで、ディスコの影響を受けたロックがヒットを飛ばすのを当たり前に受容しながら聴き始めていた身としては、単なる「ものすごくエロい(と思われる)歌詞のカッコいい曲」でしかなかった。エロいことは当然ロックだと思っていたので(誤解)、同年1999をリリースをしてその年か翌年あたりにビデオがヘヴィローテーションになるプリンス(1枚前のアルバムの曲ながら、曲の最後に脱ぎ始めるSexualityもTVKあたりでよく流れて大層コーフンした覚えがある)と同じポジションにあるような大好きな曲だったのである。ちなみに違う話になるがクイーンの世界的な人気はストレートなメッセージのわかりやすい歌詞にもある。英語圏ではない人たちにも歌詞がわかりやすく覚えやすい。さて話をHot Spaceに戻すがクイーンのキャリアを振り返るとやはり本筋ではない流れだったことは次作のThe Worksによって判明する。ただ個人的にはこのHot Space非常に好きなアルバムだ。Dancerもファンキーでカッコいいしトシちゃんでお馴染みBack Chatや全面ファルセットのCool Catも面白く、今見るとゲイカルチャーであるディスコ文化へのフレディの憧憬ととらえることができるアルバムでもある(ただディスコ的なアプローチはAnother One Bites the Dustの作曲者であるジョン・ディ―コンの関与が大きいのかもしれない)この路線をもう少し推し進めても良かったのではないかとすら思う。むしろ問題は、B面になるとダンスミュージックへのアプローチが弱く統一性が感じられない中途半端さにあり、旧来のファンにもそれなりに満足してもらおうとした苦心が垣間見える。こうしたファンへの配慮はクイーンの特徴であり、うるさ型のロックファンには「ロックらしくない」と受け取られたのではないかと思う。ファンの期待を裏切るのが「ロック」らしさだからである(アコースティックを捨て「裏切り者」と罵られたボブ・ディランのように)。一般的にはボウイの参加によってクイーンらしからぬニューロティックな仕上りになった超名曲Under Pressureが救いになっているという評価のアルバムだろう。ちなみにこの曲を聴くと独特のスキャットもフレディの得意技であることがよくわかる。
〇The Works「ザ・ワークス」(1984年)
 リアルタイム、とはいってもこのアルバムヒット曲しか聴いたことがなかった。なので最近聴いた感想も混在している。1984年になると大分ロックファンとしての好みやこだわりも自分なりに出てきていた。とにかくメジャーなバンドだったので、ビデオやレコードでそれなりにクイーンの曲に接することは多かった。が、すごくクイーンにはまるということはなかった。既にクイーンは大御所で少し年長の人たちのものという印象で、もう少し下の世代で評価が十分に定まっていないミュージシャンに比べて感情移入しにくいところがあった。「ロック」は反抗の音楽といった側面を持つから、(上の世代にアンチをつきつけるイメージの)下の世代の方がファンを惹きつけやすい。<オレたち>のバンドをファンは探すからである。自分の場合はNWOBHMNew Wave Of British Heavy Metal)あたりだったり、ゲイリー・ムーアだったり、それこそプリンスやフィッシュボーンだったり、無節操に思えるかもしれないがトンプソン・ツインズだったりもした。年長だとローリング・ストーンズあたりはちょっと別格に感じていた。さてクイーンだが、カッコいいと思っていたHot Space(というかBody Language)がどうやら不評だったことを知り、ファンでもないのに失望のような整理のつかないモヤモヤと悲しい気分を抱えながらThe WorksのシングルカットRadio Ga Gaのお金のかかったミュージックビデオを観て、クイーンというバンドとすれ違ってしまったことに気づく(映画メトロボリスを使ったビデオは悪くなかったが)。なんだよタイトル「ラジオ・ガ・ガ」って・・・というのが第一印象だ。聴いてもう一度びっくりレディオ・ガ・ガの後にレディオ・グ・グときた。多感で尖った(つもり)の高校生にはどう受け取ったらいいのかわからない。おふざけなのかとすらちょっと思うような歌だった。今聴き直すとこれはクイーン流のテクノポップ。アプローチは手堅い。メロディは親しみやすく歌詞は「ラジオ賛歌」というヒューマンタッチのちょっと古い「ロック」らしさを背景にしたものだ。クイーンにはそうしたところがある。常に最適解を出してしまうようなところだ。テクノポップを取り入れしかもクイーンらしさを出したサウンドとして最適の答えがこの曲だろう。しかしそれが「ロック」らしさに欠ける理由でもある。アルバムとしても1曲目のRadio Ga Ga曲調は手堅いとはいえシンセサイザーどころかドラムマシーンまで使った新しいサウンドで旧来のクイーンのファンを不安にさせるが、それを取り返すように2曲目のTear It Upはブライアンのギターを前面に押し出したストレートなロックで、その安心感を与えて引き込むファンサービスは心憎いばかり(1曲目に新しいアプローチを見せてから2曲目に初期からの安定した路線を入れるというアルバムが多い)。その心配りもまた「ロック」らしくない。例えば「ロック」らしいテクノへのアプローチといえばニール・ヤングの「トランス」が思い浮かぶ。アコースティック・ギターの名盤を残してきた大御所が何を血迷ったかヴォコーダーでComputer Ageと歌いだしたのだ。ただごとではないが、これこそ予想を裏切る「ロック」らしい光景だろう。冗談や思いつきではなく本人らしい切実さがあるのがポイントだということも追記しなくてはならないが。クイーンは早過ぎるアプローチはしない。ディスコを意識したロックとしてAnother One Bites the DustはストーンズのMiss Youより後だ。慌てて飛びつくのではなく消化して完成度の高いものを提示するスタイルで、これはあまり「ロック」的なアティテュードとはいえないかもしれない。新しい試みがファンに受け入れられないのはむしろ「ロック」としては勲章のようなもの。その手堅いアプローチは、ちょっと一端のロック通になったつもりの青二才当ブログ主には当時クイーンが「おっさんのいっちょ上がった」グループだと感じさせるに十分で、結果的にその印象から(翌年来日するものの興味が持てず)フレディを生で観る機会を一生失うことになる。残念ながら縁が無かったということなのだろう。ただ前回も書いたようにこれがクイーン流のロック表現であり、それが現在伝わったというのがクイーン人気なのだろう。今から振り返ると、当時メンバーの平均年齢は35歳を超え(今ほど高年齢のロックミュージシャンが多くなかった時代としては)もう押しも押されぬベテラン、ミュージシャンとしてプロ意識の高い彼らが不評を買った前作の方向修正をしたのは無理からぬところだ。それからこのRadio Ga Ga、ロジャーの作曲で初めての大ヒットということで、時代時代で4人それぞれが牽引役を果たしており、全員が力量が高かったことが変化の大きいポピュラー音楽の世界で生き残るのに役立ったことがわかる(ただ民主的な運営の分アルバムは総花的でバランス重視になりがちなのかもしれない)。ちなみに映画では「シンセサイザーなんか入れるのか、クイーンらしくない!」といった発言するのはロジャーになっている。Hammer to Fallは新味のない曲のように以前は思っていたが、映画後にライヴなどを観直すと印象が変わる。歌詞の意味もグッと迫る名曲である。
 リアルタイムでのクイーンの印象をまとめると以下のようになる。カッコいい曲を連発しちょっといかがわしいところもあって、いいなとは思いつつ強力にプッシュするには自分たちの世代のためのバンドという風には思えず(器用すぎるせいか)どの曲が本筋か(自分としては)見定められないままいつのまにかホットな感じがを受けなくなってしまったバンドといったところだ。

 
 さてこれ以降はリアルタイムの印象からこれまで興味が持てず、ほとんど聴いたことがなかったので今回聴いてみた感想である。
〇A Kind of Magic(ア・カインド・オブ・マジック)(1986年)
 One VIsion、Friends Will be Friendsなどこれまた良曲が並ぶが全体の印象としてはThe Worksと同じ、ベテランのプロらしい安定した作品という感じだ。基本的にはThe Gameあたりでクイーンサウンドは完成、あとは時代に応じて微調整をしていくといったところではないかと思う。ジャケットやタイトル曲のミュージックビデオは子供やロック初心者に親しみやすいものとなっている。The Worksもそうだが、ベテランとなりサウンドを確立した彼らがロックを教える伝道師としての役割を果たそうとしているようにも思われる(そうなるとレディオ・ガ・ガ、レディオ・グ・グのような無意味な語呂合わせは全くの正解だ。スキャット唱法や擬音はフレディの得意技なのだから)
〇The MIracle(ザ・ミラクル)(1989年)
 ポップ路線が続いてフラストレーションがたまったのか、ハードロックI Want It All、Was It All Worth Itを代表としてブライアンのギターが大いに目立つ。ただシンセサイザーを使った前2作を踏襲した路線の曲も入りやはりバランスは配慮されている。

 クイーンの本質は高度なメンバーのテクニックを背景に歌詞のわかりやすく圧倒的なロマンティシズムをポップで親しみやすいメロディと非常に高い構成力で劇的に演出するところにあり、美しいハーモニーそしてフレディの類まれな表現力やブライアンのギターの音色などが大きな特徴となっている。結局クイーンらしさというのはやはり前半期(The Gameまで)の名曲群を指すのだと思う(だから今でも1981年のベストアルバムが入門に最適)。Hot Spaceは大好きだが、本質とはいえない。Body Languageは名曲だと思う。ただ素直に正直に音楽を聴いていても、結果としてそのグループとどうしてもうまくかみ合わないこともある。自分にとってクイーンとはそんなバンドだ。