異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

映画「ボヘミアン・ラプソディ」とクイーン(前編 映画の感想を中心に)

さて当ブログ主、熱心なクイーンファンとはとてもいえない。それどころかアルバムも通して聴いていないのが結構あった。しかし同時代で過ごした身としてはちょっと言及しておきたいところがある。まあ一応クイーンとロックリスナーとしての自分の距離感を示しておこう。
20世紀ベスト・ロック・アルバムを選ぶというネット投票企画を音楽評論家の小野島大氏が21世紀に入ったところで行った。
そこに投票したことがある。
ありがたいことにまだ生きていた!(結果の詳細を忘れていたのでほんとうに助かった)
中の人の名前だけ抜いてコピペします。

(引用開始)
[83] なにもなかった1980年代 投稿者:(※中の人の名前) 投稿日:2002/02/13(Wed) 13:55:19
1.“The Reality Of My Surroundings” Fishbone
2.“Freak Out!” Frank Zappa & The Mothers Of Invention
3.“There's A Riot Goin' On” Sly & The Family Stone
4.“Remain In Light” Talking Heads
5.“Livro” Caetano Veloso
6.“Goodbye Blue Sky” Godley & Creme
7.“Revolver” The Beatles
8.“Colossal Head” Los Lobos
9.“テクノデリック” YMO
10.“Greatest Hits” Queen

 あらあらストーンズザ・バンド、プリンスまで落ちちゃった。ビートルズが7位なのも恐れ多い。パンクどころかニュー・ウェーブまで一段落したあとに音楽を聴きはじめたもののヒップ・ホップやグランジにはのりそびれた1967年生まれ80年代音楽育ち。ミュージック・マガジンに影響されワールド・ミュージックやファンクと一緒にロックを聴いた20年でした。
 1位は同時代に体験したNo.1ロック。大成功せず失速気味となったのは非常に残念。10位のQueenは1981年のもの。ヒット曲のならんだ感じはちょっと他にない感じ。
(引用終了)

 オレ偉い、クイーンを入れてるぞ(笑)。上記のリンク先をご覧になればわかるように、このベスト全体を通じてもクイーンはアルバム部門でランクインならず(それは傑作アルバムが多くてばらけたということではあるだろうが)、アーティスト部門でも49位止まりである。日本との縁が深いバンド(日本から人気が出た、とまでは言えないものの日本での人気がブーストしたバンド)にしてはもう一つ評価が低い。
ちなみに2007年レコードコレクターズ選出の1960~80年代のロック名盤100にもどうやらクイーンは入っていない。
 さて海外ではどうか。2004年と2011年に有名なアメリカのロック雑誌Rolling Stoneが選出した偉大なアーティスト100(まあImmortals of Rock & Rollということだからロックアーティストということでいいだろう)こちらはちょっと面白いことがわかる。
フレディが亡くなって新作も発表していないのに2004年ではランクインしなかったクイーンが2011年で51位に入っているのだ。
ということでオレスゲエ、といいたいところだがリンク先のRolling Stoneの下にあるVH1(アメリカの音楽チャンネルらしい)によるベストでは1998年の時点で33位に入っているので、自分の選んだのもベストアルバムだしオレそんなにスゴくない(苦笑)。ただこちらも2010年には17位と上昇しており、2010年代になってから評価が爆上げされているバンドということはいえそうだ。
さらに気になって英国のロック雑誌だとどうだろうと思って検索したがうまく引っかからず、NMEが影響力の大きい100アーティストを挙げていたが、そこには入っていないようだ。(ただこれはマイナーなバンドが沢山入っていて革新的とかそういう切り口っぽい)
 そろそろ映画「ボヘミアン・ラプソディ」の話をしなくては。率直にいってあと一歩といった出来だった。伝記映画とはいえ劇映画なので史実との違いとかはある程度やむを得ないと思う(詳しくはないのできちんと指摘は出来ないが)。そこではなくせっかく終盤のライブ・エイドの部分が音楽映画らしく躍動感があふれているのに、そこにいたるまでがもったりしているのだ。ドラマ部分も(ある程度史実に忠実らしいのが逆に厄介なところなのだが)よくある線をなぞっているにとどまっていたので正直退屈で、そこを削いでもっとクイーンの曲をつなぎながらガンガン観客をのせていった方が良かったのではないかと思ってしまった。クイーンの曲はどの時代でも彼ららしさがあり、多少知られていない曲でも雰囲気を壊すことはないだろうし。とにかく終盤は良かった。個人的に持っているフレディのイメージもあると思う。終盤が良いのは残された時間を前にしてフレディが迷いを捨てて「自分がどういう人間かは自分が決めるのだ」と宣言するからで、こうした不屈の人物をテンポ良く描いた映画にはたとえば「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」があって、やや自己中心的な人物を楽しく見せるのに成功していた。またショウビズ映画としては「オール・ザット・ジャズ」の主人公ジョー・ギデオンの魔に取りつかれたような様も印象的だった(※2019年1/1追記。後から気づいたのだが「オール・ザット・ジャズ」はボブ・フォッシーによる自伝的映画なのだが、フレディ役のラミ・マレックのインタビューでフレディがフォッシーの影響を受けていたことが書かれていた。あながち無関係な連想でもないのかもしれない)クイーンにはThe Show Must Go Onというそれそのもののタイトルがついた曲があるが、他にもLet Me Entertain Youという曲があってこれも歌詞に「ショウへの準備はいいかい」といった箇所があって、ロックバンドであってもギグやライブではなくてあくまでも<ショウ>であるところに彼らの特徴が出ている。フロントマンであるフレディの個性が強く現れた結果だろう。
 バンドのメンバー役も雰囲気はよく出ていた。特にブライアン・メイの落ち着いた感じは(誰がフレディをやっても難しいことはわかりきっているので)らしさに安定感を与えていた(髪型に騙されているのかもしれないが(笑)。
 ※映画を観た人用のネタばれ入り動画 → 
https://www.youtube.com/watch?v=-XqPBEODZ4s&feature=youtu.be
※2019年2/28 制作過程についてこんな記事を知った。→https://ironna.jp/article/11995
玄人筋の評価が悪かった背景を指摘した記事だが、むしろ印象的だったのはロジャーやブライアンが家族連れにも観て欲しいためにリアルな実像をよりクリーンな描き方を望んだということだ。これは(彼らが自分たちを美化したいわけではなく)フレディの理想を伝えたいのだと記事の書く通りなんだろうと思う。そもそもが非日常の世界を描いて楽しませようというのがこのバンドなのだ。やはり彼らは自分たちのことがよく分かっているし、そのプロ意識に拍手したくなる。

 さてなぜクイーンの評価が高まったのか、あるいは以前低かったのかということだが、これは少々鬱陶しい話になってくる。現在の音楽ファンにはわかりにくいと思うが、<ロック>という言葉に「音楽ジャンル以上の何か」が強く求められていた時代と関係しているのではないかと思う。基準があるわけではないので説明しにくいがそれは「新しいことをやろうという(自由な)精神」「無茶をする勇気」だったり「聴いている人たちを驚かそうとする意気込み」だったり時には「不良性」だったりする、いわばアティテュード的な要素ともいえる。もちろんクイーンはいわゆるクラッシックロックの時代のバンドなので、そういう要素は大いにある。ただし曲Bohemian Rhapsodyのアイディアには10ccの影響があり、Another One Bites the DustはまんまChicのGood Timesだ(こうしたことは映画には登場しない。それ自体は劇映画だから特に是も非もないと考える)。クイーンは実に優秀なバンドで全員が優れた作曲能力を持った上にテクニックは抜群、曲をまとめる構成力も兼ね備えている。メンバーもまあフレディの放蕩はあったものの暴力的だったり攻撃的だったりするタイプではなく不良性の少ないバンドである。完成度よりむしろ新奇、一番乗りであったり危うさがあったりすることが評価されやすいジャンルでは相対的に評価が下がる傾向があったのだと思う。やがて時は流れ、ワールドミュージックという概念が登場し各国の様々な進化形態を呈したロックが知られるようになり、これまであったロックのイメージが崩れ何を持って「ロックらしい」とするかが不鮮明になり、また新しい音楽として君臨してきたロックもヒップホップの登場でその「新しさ」にも影が差すようになった。そうした時代の変化のなかで圧倒的に優れた楽曲をつくり続けたクイーンの評価は上昇していく。日本でいうと1970年代に雑誌ミュージック・ライフなどビジュアル面を押し出した若いロックファン向けの媒体で火がついたクイーンを、90年代になるとワールドミュージックや芸能といった切り口を持っていた雑誌ミュージックマガジンが前向きに評価する動きが出てきたのだ(ミュージックマガジンのどれかの号で英米以外の国特に南米でのクイーンの人気ぶりに言及した記事があった記憶がある。英米ロックの本流と異なる性質をクイーンは持っているというわけだ。奇しくも映画でリオの印象的なシーンが登場する)。売上などでは景気の良い数字が並んでいたクイーンにようやく専門家の評価が追いついたのだ。(もちろんこれは主に日本の状況だが、ロックの位置づけが変わったのは世界的なことなので他の国でも似たような流れがあったのではないかと考えている)
 最後はちょっとだけ自分語り(笑)。ブログ主は10位にクイーンを入れた。teenagerというのは~teenとつく年齢でthirteenからnineteenにあたるわけだが、自分の場合1980~86年がそれにあたる。つまり80年代前半がそのまま自分の方向性を決めたといってもいい。80年代は近年こそリバイバルされたりもするが、一部音楽ファンに「なにもなかった」と揶揄されがちでそこには反発があったし今でも80年代のポピュラー音楽には独特の思いがある。それにロックというのはやっぱり流行り音楽だし、その時期を体感した同時代のファン出なければわからないのではない部分が大きくあると考えて80年代音楽に影響を受けた世代の視点から選んだ。他の時代のロックも入れたし、やや強引にCaetano Velosoも入れたりしたが、クイーンは(デビューは70年代といはいえ80年代初頭もシーンの中心であったし)やはり同時代を象徴したバンドの代表として、またその時代の日本のロックファンが推したバンドの一例として是非入れたかったのである。
 さて後編はクイーンの80年代のアルバムを聴きなおしていきます。