異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

丸屋九兵衛トークライブ「Q-B-CONTINUED vol.5」007と大英帝国の爪痕(スペクター転覆計画)!  (随分まとめが遅れた!)

随分間が空いてしまったが、2015年12月4日に行われた丸屋九兵衛さんのトークライブ「Q-B-CONTINUED vol.5」のまとめ。映画『007 スペクター』の公開日に行われた、007特集!平日金曜日の夜で007ファンはいったいどうするんだと思ったら既に日中に観てきたという方が数名いらしてびっくりした。場所はvol.4と同じ代官山シアターサイバード。やはり司会はスペシャルホストのサンキュータツオさん。(※はブログ主の感想など)
 

 さて導入はお馴染みわれらがジョージ・タケイ。山梨出身の父タケイ・タケクマは大のAnglophile(英国好き)でジョージⅥ世にちなんで名づけられたという。それもあってか本人もAnglophileで英国製スーツや英国の食べ物が好きだったりするらしい。
 トークショーのタイトルは<007と大英帝国の爪痕(スペクター転覆計画)>。丸屋さんの衣装は緑色のスーツ(裏地はオレンジ!)に紫のシャツ。(たしかオズワルド・ボーテングのスーツらしい。それについては後記)。殺人許可証・ボンドガール・ゴルゴ13より明るい(笑)などなど誰もが知っている特徴を持つ、男のファンタジーを演出するシリーズ。途切れずに続いていて衰えることなく世界的な人気を誇っているということでは比較するものがない。現在のボンド役はダニエル・クレイグ。ここでクレイグの写真が提示され、「どうですか北極圏東欧黒帯感・・・」という丸屋さんがいうとタツオさんから「プーチンに似てなくないすか!」ということで以後この日は<プーチン>の愛称が(初っ端から)定着(笑)。クレイグといえばこれまでのボンド役と異なりイングランド人で金髪碧眼のため起用に賛否がわかれたことや体を鍛えているために脱ぐシーンが多いこと(笑)が知られる。
 ここでいくつか007映画の特徴を整理。まず悪役。歴代の悪役の写真が出て(あまりの典型的な悪役ぶりばかりで)会場から笑いが。ブロフェルドについて猫を撫でている悪役というのは007が初めてなのではないかとのこと。次に秘密兵器。超小型FAXの無意味ぶり(笑)。そして美女(ボンドも忙しいねんなあ・・・とは丸屋さん)。出たのはハル・ベリーの写真(※少し話が出たが後から調べてみても私生活もいろいろ話題が豊富なのね。とにかく『ダイ・アナザー・デイ』のハル・ベリーはよかったな)。あと「スパイなのに脇が甘い」、『女王陛下の007』で一回結婚していることが紹介。
 007映画にはパロディ作品、オマージュ作品が数多く、丸屋さんおすすめは『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』(※これは観た!最高だった!)。他『オースティン・パワーズ』『電撃フリント』『スパイ大作戦』などなど。
 007映画の受容について、「公開時に(若者というより)大人が集まっている感じ」。日本でも人気は高く『パタリロ!』に登場するバンコランもMI6所属でイニシャルもJB(※ジャック・バルバロッサ・バンコランらしい)。
 さて原作者イアン・フレミングの話。第二次大戦中に諜報活動に従事していたのは事実だがいわば「内勤のスパイ」(笑)。なので007小説は尾ひれの部分が99%(笑)。JFKが遊説中に読んでいたことからブームになった。ちなみにビル・クリントンが愛読したのはウォルター・モズレイの『青いドレスの女』で、映画化されたが大コケしたらしい(※「青いドレス」はモニカ・ルインスキーが着ていて鑑定の対象にもなったいわくつきのもので、スキャンダルの後だったが映画も便乗ヒットしていたかもしれないね)。
 ここでこのトークショーの隠れ主要テーマ(?)の日本語でいうイギリス/英国はどこを示しているのかについて。例えば「イングランド」「グレート・ブリテン島」「(主権国家である)United Kingdom」だったりする。人によっては「United Kingdom+アイルランド」(ブリテン諸島)をイメージしているかもしれない。ここで英国関係の様々な国旗について。ユニオンフラッグはイングランドスコットランドアイルランドの国旗として知られるが、ウェールズ「スマウグな感じ」(笑)の国旗が入っていない。現女王エリザベスの紋章もなかなか興味深く、ライオン=イングランドユニコーンスコットランド(国獣がユニコーン)・竪琴=アイルランドを示している。まあ何はともあれ今後このライブでは「(曖昧な表現である)イギリスはいっさい禁止!」(笑)ということだった。
 で、初代ボンドであるショーン・コネリースコットランド出身でボンドも同じ設定だがこれはコネリーがそうだったことによる後付けの設定。他ボンドといえばイートン校出身(でも女性トラブルで追い出される)、柔道をやっていた、ウォッカマティーニは"Shaken, not stirred"(※なんとこれで英語版wikiの項目がある。普通は味のために軽くかき混ぜるstirがよく冷えるようにシェイクshakeしてくれということのようだ)。コネリー自身は住民投票にまで至ったスコットランド独立の旗振り役でもある(女王からナイトの称号をもらいながらも)。親しくしていた2代目ボンドのロジャー・ムーアは独立反対の立場なので友情に亀裂が入ったという。
 なぜ独立話が出るのか。スコットランド人の60%が英国人とは自覚していない。ここでスコットランドの正装(これの下から2番目にある)。キャンディ・キャンディに出てくる。ショーン・コネリーの股間にある鞄は下がノーパンのスカートなのでちらちらしないようにである(笑)。スカートは意外と高価らしい。スコットランド鉛は「ザ・ネイム・イシュ・ボンド、ジェイムシュ・ボンド」といった具合で、若干の九州感(??)とのこと。映画『ザ・ロック』でショーン・コネリーの台詞のsex appealがシェクシュ・アピールになっていた?(※記憶に自信がありません失礼)。ウェールズ語の話などが出ていったん前半終了。
 後半開始で、同じ話の続き。スコットランド独立を掲げているのがスコットランド民族党ウェールズ人、アイルランド人などと同じく元々定住していたケルト系。イングランド人は後からきたアングロ・サクソン(ゲルマン系)。フン族の侵攻にともなうゲルマン民族の大移動でグレードブリテン島に渡り隅に追いやられた方になったのが上記の元々いたケルト系。コーンウォール(Curnwall) もケルト系の地域として知られる。マイケル・ムアコックの英雄コルムのシリーズもケルト神話がベース(※コルムは積んでるんだよなあ、しまった。チラッと解説を慌ててみるとそんなことが書いてあるね)。
 以前のQ-B-CONTINUEDで言及された漫画『エリア88』でもアメリカ人とイングランド人がもめるエピソードがあったりする(※ここはどういう文脈で出たのか忘れてしまいました)。
 さてこのブリテン島必ずしも肥沃ではないのになぜかいろんな民族が来てしまうが、その辺は謎。とにかく第一次大戦後の1921年に最大となった大英帝国の地図が提示。最初に征服されたのがアイルランドで、こちらもQ-B-CONTINUEDでお馴染みの股間王ヘンリー8世の時。当然アイルランドとは微妙な関係があって、5代目ボンドでアイルランド出身のピアーズ・ブロスナンは小さい頃にロンドンに移り住んだ時いじめられていたそうだ。なお007映画とファンタジー映画はしばしばキャスティングがオーバーラップする。そのブロスナンの『ゴールデンアイ』に出ていたショーン・ビーンは『ホビット』に、ジョン・リス=デイヴィスは『リビング・デイライツ』と『ロード・オブ・ザ・リング』に、クリストファー・リーは『黄金銃を持つ男』と『ロード・オブ・ザ・リング』に出演しており、いずれの映画でも重要な役柄で出ているところもポイント。そしてクリストファー・リーは原作者フレミングの従兄でもある(※これは聞いたことがあった気がするがクリストファー・リーにはオタク関連での属性カードが異常なほど備わっており、オタクのロイヤルストレートフラッシュといった人物である)。
 ゴールデンアイ、というのは映画のタイトルでもあるがジャマイカにあるフレミングの別荘でもある(元々は彼が指揮した第二次大戦中のゴールデンアイ作戦から)。1年の半分をジャマイカで過ごし、そこでしか007を執筆しなかったという。フレミングはコーヒー党らしく、ボンドの紅茶嫌いに通じる。007は南洋に行くシーンが多いのもフレミングの趣味の現れか。シリーズ40周年ということもあって『ダイ・アナザー・デイ』ではシリーズのオマージュが沢山あり、ボンドの名前の由来となった鳥類学者ジェームス・ボンドの著書『西インド諸島の鳥たち』が映る。シリーズ第1作『ドクター・ノオ』の舞台もジャマイカ。この別荘ゴールデンアイ、フレミングの死後所有権はボブ・マーリーを経て、アイランド・レコードの創業者クリス・ブラックウェルに引き継がれる。実はブラックウェルの母親が晩年のフレミングの愛人だったのである。ブラックウェル自身『ドクター・ノオ』のロケハンで雇われてレーベルのための資金を稼いでいる(※ここでブラックウェルの名前が登場するとは思わなかったので驚いた。80年代ミュージック・マガジン中心にポピュラー音楽を聴いてきた人間にとって、アイランド・レコードは最も「カッコいい」レーベルだった。というのも早くからボブ・マーリーはじめレゲエを紹介しワールド・ミュージック関連(キング・サニー・アデなど)も出しロック系でもユニークなものが多くトラッドにも強い。それが尖鋭的かつポピュラリティの高いものばかりで、先進性と商業的成功を兼ね備えていたのである(※そういえば初期にはスペンサー・デイヴィス・グループを見出だし、クリムゾンやELPも出したんだな。どれだけ幅広い音楽アンテナが身についていたんだ!)。というわけで007の成功がレゲエの世界的広がりにも寄与したわけで、No James Bond, No Bob Marley!である、と。
 そのジャマイカが舞台の『ドクター・ノオ』、悪役の博士Dr. Julius Noは中華系である(※英語wikiではドイツ人宣教師である父と中国人である母親の間に北京で生まれたとある。ただ例えばNoが盧だとすると韓国系っぽく感じられるがどうだろう)。ジャマイカにはバイロン・リー・アンド・ザ・ドラゴネアーズByron Lee & the Dragonaires)というグループがあり、バイロン・リーは中華系ジャマイカ人。『ドクター・ノオ』にJump Upという曲が使われている

Byron Lee & The Dragonaires - Jump Up (From Dr No)

実は中国系の出稼ぎの人はジャマイカに昔からいて、香港から多いらしいのだ。ジャマイカも香港も大英帝国がらみといえる。で、そういった人々はレゲエスタジオも所有している。(※ここは記憶に自信がないのですが)そういったイメージが『燃えよドラゴン』の悪役ミスター・ハンに反映されている。また『燃えよドラゴン』(これまた-B-CONTINUEDではお馴染み『ゴールドライタン』の)『黄金銃を持つ男』に逆影響している。
 ちなみにジェームズ・ボンドは公務員なので給料は安いが、いろいろ経費で落としているかもしれない(笑)。
 香港がらみ。1842~1997年大英帝国に属していて、『プロジェクトA』におけるジャッキー・チェンの役は大英帝国愛を感じさせるところが見られ「女王陛下のジャッキー・チェン」ともいえる。香港の中国返還は住民に大きな出来事であり、一部の香港住民は国籍を変えるのに英国系の人達の援助があったという(※この辺も詳しくないので聞きとれたか自信がありません失礼)。ジャッキー・チェンはオーストラリア国籍を取ろうとしたことがあるが、中国から変えないよう説得された。ユン・ピョウは現在カナダ国籍。
 ジャマイカ、カナダ、オーストラリアは王制を現在もとっていてイングランド女王が王である(16カ国の王)。この三国は女王の名代(代わり)である総督(Governor-general)を設置している。commonwealthという言葉もある(※これまたなかなか難しいが、例えばBritish commonwealthは英連邦と日本語では訳され、エリザベス女王Head of the commonwealthであるということらしい。カナダ人である初代マネーペニー(※何度聞いてもヒドい名前だな!)も、オーストラリア人であるジョージ・レイゼンビーも女王陛下は同じ。ある意味今でも大英帝国は存在している。
 斜陽といわれている英国も持ち直してきている。1996~2000年ごろのCool Britanniaで英国らしさのブームを演出した(ちゃんと終わっているのがいいね、とのこと。Japanの方はいつまで・・・)。これは愛国歌Rule Britnniaの語呂合わせらしい。その時のミュージシャンにR&Bシンガーのリンデン・デイヴィッド・ホール(Lynden David Hall)がいる(※31歳で亡くなってしまったらしい)。
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あるいは冒頭に書いた丸屋さんのスーツのデザイナー、オズワルド・ボーテング(※両親がガーナから移住しロンドン生まれの記載あり)。007映画が大好きでようやくオファーが来たが、悪役の衣装の注文だった(なので丸屋さんの衣装も007の悪役っぽかった!)。オズワルド・ボーテングの店があるオーダーメイドの名門紳士服街Savile Rowの写真も登場した(※と思う)。またというように今や多民族。多文化の英国。ロンドンは今や広東料理とカレーの店が多い。ロンドンの病院はインド系医師が沢山。ジェイ・ショーン(Jay Sean)も元は医師を目指していた(※ロンドン生まれだがパキスタンのパンジャーブ移民の両親の元に生まれていてシーク教家系っぽい)。
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ナオミ・キャンベルは中国系とアフリカ系のジャマイカ人の子でやはりロンドン生まれ、オマー(Omar Lye-Fook)は名前が「来福」から来ている中国系(ジャマイカ人)(※ちなみに中国系ジャマイカ人の項目がこれまた英語版wikiにあり、名前をちょっと知ってる程度だがSean Paulも出ている)。
 帝国とは
 ・支配された人々が中心地に来る。それを受け入れる。
 ・支配された地域の人々が文化を学ぶ。
 ・伝統を学んで自分の色をつける。
という要素があって、噂されるダニエル・クレイグ降板の際の後継には・・・・
イドリス・アルバ(シエラレオネとガーナの両親の子)!『パシフィック・リム』の司令官!(Idris Elba 007でググるアイコラが沢山。期待度が高いのではとのこと)

いやーまたも長くなってしまったが、ハイライトはクリス・ブラックウェルとのつながりだなー。あとつい先日、派手な秘密基地の美術担当ケン・アダムが亡くなった。全く知らなかったが『博士の異常な愛情・・・・』や『バリー・リンドン』にも参加し、Sirの称号をもらってる偉大な人なんだね(この方はユダヤ系のドイツ人でナチスの迫害でイングランドに渡った)。