“少年時代に抱いた友人の母親への恋心を、二十世紀メキシコの激動の時代と共に追想する、パチェーコ『砂漠の戦い』。犬に噛まれ、大怪我をしたことから鬱屈した青春を送る少年と仲間との交遊を描いた、バルガス=リョサ『小犬たち』。マヤの神話や伝説が語られる、アストゥリアス『グアテマラ伝説集』。ほか、オクタビオ・パス、フエンテスの詩や短篇を収録。ラテンアメリカを代表する作家たちの競演。”
2011年に復刊された改訂新版で最初は1995年に同じ集英社文庫で出版されていたものにフエンテスの作品が加わっているようだ。(※追記 書評家の牧眞司さんからフエンテスの代わりに元版にはシルビーナ・オカンポ(ビオイ=カサーレスの妻)の作品が収録されていることをご教示いただきました。ありがとうございました)。※さらに追記 シルビーナ・オカンポについてググったら、その姉ビクトリアの話が海外文学好きの間ではおなじみのプヒプヒさんのブログから面白い話が出てきたぞー。 http://d.hatena.ne.jp/puhipuhi/20080923 やべえいろいろつながってきた。面白過ぎて今後懐具合に危険な予感(苦笑)。
「砂漠の戦い」パチェーコ タイトルから受ける印象とは異なり友人の母親に恋をしてしまった少年の話。40年代末から50年代初頭のメキシコが舞台らしくその時代の文化が数多く盛り込まれている。
「小犬たち」バルガス=リョサ 巻末で豊崎社長が絶賛しているが、なるほどこれは傑作。局所を犬にくいちぎられた少年と友人たちの悲劇と喜劇がないまぜになった青春小説で、過ぎていく時によって否応なく生まれる落差がなんとも切ない。会話をベースにしたリズミカルな文体が素晴らしい。
「二人のエレーナ」フエンテス 「砂漠の戦い」から時代が下ってこちらは60年代。ちょっとピンとこなかったな。解説で触れられているトリュフォーの『突然炎のごとく』を観れば少しわかるようになるのかな。
「白」「青い装束」「正体不明の二人への手紙」オクタビオ・パス パスは『魔術的リアリズム』ではラテンアメリカのいわゆるマジックリアリズム文学の基礎づくりをしたシュルレアリスムの作家の一人に挙げられていた。「白」は前衛的な詩で丁寧な解説を読んでもいまだよく理解はできない。が、シュルレアリスム小説の後者二篇と共に言葉の力が強力で、凄い作家であることはよくわかった。他作品も読んでみようかな。
「グアテマラ伝説集」アストゥリアス 『グアテマラ伝説集』が面白いという評判を以前聞いたことがあったが、たしかに面白い!宇宙的スケールで迸る色彩の洪水、といった趣でSFやファンタジーのファンもハマるやつだこれ。岩波文庫のは読まないとなー。
最初の刊行から20年以上経ち、作家や作品のチョイスなどラテンアメリカ文学に詳しい読者からすると注文がある内容かもしれないが、まだまだ不案内な当ブログ主としては一度に有名作家に触れることができて非常にありがたい一冊だった。日本の世界文学ファンにも歴史的意義の大きい本だったのではないか。