異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

『新生』 瀬名秀明

新生 (NOVAコレクション)

 同じ未来を舞台にしており、互いに関連がある連作短篇集。小松左京「岬にて」「虚無回廊」がモチーフということだが、前者は内容を思い出せず後者は未読でその部分はよく分かっていない感想になる。

「新生」 震災後間もなく海外に発掘調査に行く研究者が一人の女に出会う。幻想的な内容だが、後二作を読むことによって人間の思考可能な範囲を超えた<向こう側>を渇望するという本作のイメージがこの作品集全体を貫いていくことが分かる。
「Wonderful World」 未来予測が人間の倫理観までカヴァーすることが可能になり、より良い未来を達成しようとするために世界が変質する話。ブラッドベリオマージュでメタファーをテーマにした著者のブラッドべリ論でもある。三作の中では単独作としては一番理解しやすいのではないか。
「ミシェル」 「Wonderful World」の主人公だった天才情報工学者マルセル・ジェランの息子ミシェルの話。豊かな才能を受け継いだ彼は将来を嘱望されたピアニストの道を捨て科学者になり<宇宙の共通言語>を創ろうとする。人工知能、ファーストコンタクト、宇宙論と大きなテーマが複数に重なり合い難解な内容だが、最新の知見から未来を外挿し世界の本質を探ろうとするSFの面白さを味わわせてくれる作品である。ジョン・ダンやダンテの「神曲」も主要なモチーフになっている。

 宇宙とは何か、生命とは何か思考の限界の<向こう側>すらまっすぐ前を向いて追い求めようという著者の真摯で曇りのない眼差しの強さは時に読む者を息苦しくすらさせるほどでもあるが、それと表裏一体に(特に「ミシェル」)現れる死への魅了が危ういバランスで同居していて、スリリングな作品集である。