映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』観てきた。
コーエン兄弟による60年代初頭のにニューヨークフォークシーンを描いた作品。なかなか面白かった。
1961年のニューヨーク、売れないフォークシンガーのルーウィン・デイヴィスは住む家もなく仲間の家を渡り歩いている有様。いつも目をかけてくれる夫婦の家を出る際に飼い猫も外に出てしまった彼はその猫を連れて回らなくなる。
基本的に売れないミュージシャンの日常を中心にした人間ドラマで、地味な映画ということにはなるだろう。しかし主人公のままならない周囲の人物との関係が、さりげない会話や描写で苦いユーモアを交えて次第に明らかになる手つきはさすがに巧みでニヤリとさせられる。ロードムーヴィー的な部分も大変魅力があり、全体としても色んな人間と会話をしていくというつくりになっていて『キャンディ・マウンテン』の様なロック系映画の系譜も感じられたりもした。一方、この映画にピンときていない人もあるようで(ネット巡回の感想にもみられるが、実際に劇場でも知らない人に上映終了後「これ面白かったですか?自分にはどうも…」と言われた)、たしかにこの時代への多少の知識あるいは興味がないと厳しいかもしれない。例えば真面目な客が多いフォークシーンの学究的要素が強いところとかは『ボブ・ディラン ロックの精霊』で最近知ったことだし、主人公にダサいという男性コーラスグループに似た雰囲気のミュージシャンはボブ・ディラン30周年コンサートに登場していた。あくまでもその程度のニワカな自分だが、それぐらいの知識はあった方が楽しめるだろう。
本作はデイヴ・ヴァン・ロンクの自伝が元の劇映画のようだ。日本語wikiを読んだ程度だが、同時代を生きた人や思い入れのあるミュージシャンにはどうしても納得いかない部分はいろいろあるようだ。まあこういう素材にこういった批判はつきもので、実は当事者たちのイタいところを突いている可能性もあるし、難しい問題だな。ノンフィクションとは謳っていないし、興味のある時代を取り上げていい映画にしてくれるのは後追い世代には有難い。