異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

不定期更新#musicdogg音楽ポスト2026年4-6月

 X、検索もしづらくなりいろいろ微妙なのだが、だらだらと曲ポストはやっている。ということで実際にポストしたものを確認するのもうまくいかないので元々つくったリストから書き起こし、でポストとずれがある可能性はあり。まあ自己確認の作業なので。
 4月は16日がWorld Voice Dayということなので、Voiceで。
worldvoiceday.org
1."Voices" Cheap Trick
2."Voices Inside My Head" The Police
3."Voices" 吉田美奈子
4.”Voices Carry" Till Tuesday
5."Silent Voices" Dionne Warwick
6."Voices" Timothy B. Schmit
7."One Voice" Brandy
8."That Voice Again" Peter Gabriel
9."I Hear Your Voice" Patti Labelle
10."You Talk Too Much" Run DMC
11."Diddy Doo Wop (I Hear The Voices)" Hall & Oates
12."The Voice" Mavis Staples
13."There is a Voice" Squeeze
14."Voices In My Heart" April Wine
15."Voices of Jah" Buju Banton
16."World Shut Your Mouth" Julian Cope
17."Still Within the Sound of My Voice" Linda Ronstadt
18."The Voice of My Energy" Kraftwerk
19."Voices Piece for Soprano" Yoko Ono
20."Oye Mi Canto( Hear My Voice)" Gloria Estefan
21."Listen to My Voice" Gary Newman
22."Voices Crying Out" Donna Summer
23."Fear the Voices" Alice In Chains
24."Mutch the Name with the Voice" Busta Rhymes
25."One Small Voice" Kenny Loggins with Sesame Street
26."Voices of the Heart" Diana Ross
27."The Voice" Roxette
28."The Imploding Voice" Smashing Pumpkins
29."The Voice" Ultravox
30."Minha Voz, Minha Vida" Gal Costa

 5月はメーデーをふまえ、workな曲
1."Let's Work" Prince
2."Working in the Coal Mine" Lee Dorsey
3.”9 to 5" Sheena Easton
4."Working for a Living" Huey Lewis
5."Work Song" Nina Simone
6."Making Plans for Nigel" XTC
7."Shoshine Boy" Eddie Kendricks
8."Work It" Missy Elliott
9."働く男” ユニコーン
10.”Workin the Midnight Shift" Donna Summer
11."Maggie's Farm" Bob Dylan
12."Working on the Highway" Bruce Springsteen
13."Allentown" Billy Joel
14."Chain Gang" Sam Cooke
15."Salt of the Earth" The Rolling Stones
16."Working Class Hero" John Lennon
17."Intro/It’s A New Day"James Brown※有名な'the hardest working man in show business'の紹介が入るところ。
18."Working at the Car Wash Blues" Jim Croce
19."Working On a Groove" Judy Watley
20."Working Man" Rush
21."Hit Factory/Business is Business" Godley & Creme
22."一日中ボケーッ" ビブラストーン
23."Working for MCA" Lynyrd Skynyrd
24."I've Been Working on the Railroad" Pete Seger
25."Bang the Drum All Day" Todd Rundgren
26."Pink Houses" John Mellencamp
27."I've Been Working" Van Morrison
28."Work to Do" Isley Brothers
29."All in a Day's Work" Dr. Dre
30."This Woman's Work" Kate Bush
31."Carrier Opportunities" The Clash
32."Don't Talk to Me About Work" Lou Reed
 6月は24日(7月2日も、とのことだが)はWorld UFO Dayとのことで、UFOやFlying Saucerな曲。

nationaldaycalendar.com
1."Unfunky UFO" Parliament
2."Flying Saucer" Little Walter
3."UFO's" Undisputed Truth
4."The Flying Saucer Song" Harry Nilsson
5."There's Something in Roswell" Saxon
6."IFO" Deee-Lite
7."Flying Saucer" Brave Combo
8."Guaracha U.F.O (No Estamos Solos...) " Meridian Brothers
9."UFO" Sun Ra
10."No Doubt About It" Hot Chocolate
11."Flying Saucer Breakdown" Harry Hosono
12."Flying Saucer" Milt Jackson
13."When You See Those Flying Saucer" The Buchman Brothers
14."My Flying Saucer“ Billy Bragg
15."Two Little Men in a Flying Saucer" Ella Fitzgerald
16."Flyin' Saucers Rock & Roll" Billy Lee Riley and His Little Green Men
17."It Came Out of the Sky" Creedence Clearwater Revival
18."Have You Seen the Saucers" Jefferson Airplane
19."UFO" Sneaky Sound System
20."Flying Saucer" Nina Hagen
21."空飛ぶ円盤” 人間椅子
22.”UFO” ESG
23."I've Seen the Saucer" Elton John
24."Arriving UFO" Yes
25."Zero Zero UFO" Ramones
26."Flying Saucer Attack" Rezillos
27."UFO (feat.Tink & Future)“ Timbaland
28."Silver Lights" Sammy Hager
29."Looking for a U.F.O." Adrian Belew
30."円盤-Flying Saucer" クレイジーケンバンド

2026年6月に読んだ本


 積読本消化速度を上げると書いたのもつかの間、早速失速傾向。部屋の本貯蔵力の中心たるスライド式書棚が経年劣化を呈しており、いよいよ追い込まれてきた…。
◆『愛はさだめ、さだめは死』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

 伝記を読んでいろいろ気になってきたので手元にあったこれを再読。
「ティプトリーとはだれ、はたまた何者?」ロバート・シルヴァーバーグ
 「ティプトリーが女性なんてばかげている」で有名なシルヴァーバーグの解説文。しかしそれ以外はきちんとした分析だし、登場時のインパクトを示す空気感もあり、全体に優れた解説。しかもちゃんと女性だとわかってからの追記もあるという安心仕様。そこでは自身の不明を恥じているし、ティプトリー伝記でもシルヴァーバーグの誠実さがうかがえる記述があったことは記しておこう。優れた作家のために自らが道化となることができるヤツなのだ。エラいぞ!シルヴァーバーグ!
「すべての種類のイエス」
 エイリアンが地球にやってきて、偶然遭遇した人々と交流するセクシャルなドタバタコメディ。性愛への強い関心や宇宙的な望郷感覚など特徴がよく出ている。このあたりが"ティプトリー節"なんだろうなあ。唐突にぶっ飛んだ展開になるところもインパクトがあって楽しい一方、資質的に長編には向いていないところも感じられる。
「楽園の乳」
 思い出の星に図らずも連れてこられた主人公。これまた望郷の念、マイノリティへの共感、孤独といった特徴が見られる。
「そしてわたしは失われた道をたどり、この場所を見いだした」
 宇宙での研究者の話で、周囲のクルーへのコンプレックスの一方で自らの視点が大きな発見につながっていくという信念や情熱が現れていて、ティプトリー(あるいはアリス・シェルドン)のキャリアを思わせる。ただその熱量が開放されて読者に届くところまではいかずに作品内に閉じこもっている。印象的なタイトルではあるが他の作品に比べると地味。と感じたのだが、SFファン交流会で絶賛されていたのでもう一度読んでみたら、わかってきたことがある。全体は霊感を信じる研究者が、懐疑的な周囲に反発し、自らの信念に従い邁進し啓示を得る話である。ほんのわずかに科学研究の場にいた当ブログ犬には実に都合の良い話に思えてしまう。しかし、書かれた時期は正確にはわからないが、1972年発表ということで、伝記からみると既に中年期に達し、また学者としてのキャリアに限界を感じていた時期の創作であったと推察される。厳しくいって、ティプトリーは霊感に頼って研究を進めるタイプで、自然科学の研究者にはあまり向いていない。情熱よりも客観視が優先されるべきなのが科学者だからである。しかし本作には「どのみち、おれはもう科学者ではないのだ」の一文がある。つまりティプトリーは自らが研究者としての資質を備えていないことに気づいた。しかし、その霊感を信じざるを得ない内なる思いこそが、優れた創作へと結実したのではないか。そうなるとタイトルが示しているのは、偽らざる本人の心境だったに違いない。とはいえ、一抹の寂寥感と諦念が漂うのがティプトリー節でもある。
「エイン博士の最後の飛行」
 これも名作として知られた一編だが、短さに驚かされる。というか短い中で強烈なストーリーが語られているギャップがまたインパクトを強めているともいえる。
「アンバージャック」
 親密な関係性のなかに生まれる不安や哀しみが描かれているのがらしくはあるのだが、いかんせん解読し難い。これはかなり不穏な話のように思えるのだが…。(アンバージャックが恋人のルーを殺害し、ルーにそっくりの妹ポンピーが本人になりすましてアンバージャックに犯行を認めさせるみたいなことなのか??)
「乙女に映しておぼろげに」
 未来の少女との家族制度の違いで起こる会話のギャップによるコメディ。未来語の表現が原書ではどうなってるのか。楽しいが小品なので明示されない家族制度がどの程度設定されていかは気になるところ(ティプトリーは資質としてそんなに精密に構築していないのではないかと疑っている)。
「接続された女」
 匿名で承認欲求が満たされるようになった現代そのものがテーマになっていて、予見的と繰り返し言及されてきた作品。しかし実は題材と負けず劣らずティプトリージュニアのSF好きが、専門・科学用語てんこ盛りの饒舌な文体からあふれでていて、筆がのっているところにも大きな魅力があることに気づく。やはり名作だろう。
「恐竜の鼻は夜開く」
 恐竜ものでタイムマシンもの。ひょっとするとSFジャンル総ざらい的なところを目標にしていたところもあるのかなとも思ったり(要検証)。ただこうした短いコメディは楽しいもののどこかロジックが見えにくい印象も受ける。
「男たちの知らない女」
 かなりの回数読み直してきた作品。初読の時に全くよくわからなかったが、ほぼ同時期に読んだ「ヒューストン、ヒューストン聞こえるか」と共に、レビューなどを参考に自らのジェンダー的な偏りを自覚し衝撃を受けた記憶が甦る。本短編集が出て、間をおかずに読んだはずで(当ブログ犬の人間年齢)20歳ぐらいだったか。若いうちにこうした作品に出会えたのは幸運だった。「接続された女」に比べると抑制された客観視点寄りの文体、ただそこに視点男性のジェンダーバイアスがのぞくというかなり高度な技法が導入されている。調べると「接続された女」が1973年、本作は1974年で短い期間に多様なアプローチをした作品を発表していて読者や批評家の驚きは想像に難くない。
「断層」
 異星で罪に問われた男の悲劇。文化の落差をテーマにしているところは作者らしいが、この全体としては50年代風のコメディSF。楽しいがどこかロジックにピントこない部分がある。
「愛はさだめ、さだめは死」
『2010年代SF傑作選』の「ジャガンナートー世界の主」とかを連想した。影響関係はどうなのだろう。今までよくわからなかったが、生物の不思議な生態への好奇心が核にあることが伝わってきた。
「最後の午後に」
 これまた奇妙な生物が登場。とはいえ中心は主人公の内面の葛藤にある。ただその葛藤のポイントがいまひとつ理解しづらいところがあって、時々ティプトリージュニアとの距離を感じる。
◆『ドイツ幻想小説傑作集』(白水Uブックス)

 印象に残ったもの。
「人間工場」オスカル・パニッツァ 
 人造人間の不気味な描写が続き、『家畜人ヤプー』を連想させる。
「第四次元」ウーヴェ・ブレマー
 1940年生まれの画家・作家。ということで自作の銅版画が添えられていて、それぞれ関連のないSFショートショートの連作。ストレートなSFということで貴重かもしれい。
「黄色テロ」ヴォルター・ゼルナー
 テロがテーマになっていることでちょっと気になる。黄色と狂気のつながりのイメージはどこからなんだろうか。1923年の作品で、作者はダダとの関わりがあるなかなか興味深い人物のようだ。
「寸描された紳士たちの仮面をはぐ」ゲアハルト・アマンスハウザー
 序盤病院での生後まもない赤ん坊の描写から入るが、そちらが中心かと思いきや。どちらかというと産後の母親の不安定な内面を示すような不気味な描写で進み、奇怪な現象が起こる。何回か読み返してようやくつかめたくらいに読みにくい作品だが、熱に浮かされたような宇宙的悪夢世界は妙に印象に残る。実は1969年の作品で、むしろニューウェーヴSFと同時期である。
「メカニズムの勝利」カール・ハンス・シュトローブル
 自動ウサギが引き起こす騒動を描く、SF黄金期のユーモアショートショートのような話。こちらは1920年作でセンスとしては先駆性を感じる。アメリカ人の発明家なのは時代を反映しているのだろうか?
「北極星と牝虎」ハンス・へニー・ヤーン
 悲恋ものの中華ファンタジー。流麗な語りで読ませるが、作者は大著で知られる『岸辺なき流れ』の人か。
「風のある日」ハンス・カール・アルトマン
 1924年ウィーン生まれの詩人らしいが、『奥の細道』からの引用がある。うーんどういう作家なんだろう。
「シティルフス農場のミッドランド」トーマス・ベルンハルト
 評価の高い作家と知識だけはあるがこれが初読。文体に迫力があるな。
◆『新訳 チェーホフ短篇集』

 テーマ別に作品が集められている。各項目で面白かったのを羅列。<女たち>「ジーノチカ」語り手の少年の無邪気な悪意がユーモラスながら嫌な空気がいやらしく残る。<子供たち(とわんちゃん一匹)>「おでこの白い子犬」このコーナー唯一の犬ものだが様々な解釈ができる。<死について>「ねむい」短くシンプルな筋立てながら幻覚的で衝撃的。「ロスチャイルドのバイオリン」老人の妻に対する悔恨が描かれるが、解説によると人種的な偏見を裏返している側面もあるらしい。<愛について>これは名作「奥さんは小犬を連れて」のみ。曖昧さもあるがそこも含めてやはり気になる作品。主人公ドミトリー・ドミートリチ・グーロフの名前からハンバート・ハンバート(登場人物の方)を連想したが、解説を読んだら、ナボコフが激賞し「フィアルタの春」が本作のオマージュということらしい。
全体に解説が詳しくて良かった。昔の大作家がこうした詳しい解説と共に読めるのはうれしい。予備知識ゼロで好き勝手にいうのもそれまた素人読者の楽しみでもあるんのだが。
◆『リザベーション・ブルース』シャーマン・アレクシー

 ネイティヴ・アメリカン、スポーカン族居留地出身の作者のデビュー作。1995年の作品で、ロバート・ジョンスンが現代に現れ、そのギターを手に入れたスポーカン族の3人組がバンドで一旗上げようとする話。飛躍の要素は少ないものの、解説にあるように、マジックリアリズム的な部分が含まれる。しかし全体のトーンはヘヴィで虐げられた人々の悲しみが滲み出ている。
◆『異国の出来事』ウィリアム・トレヴァー

 実に巧い(美味い)短篇を贈り出してくれるウィリアム・トレヴァー。本書は旅がテーマで、不安定な心情と孤独感が醸し出される絶好の舞台が揃う。読者の想定する図式をさらりと反転させる手つきが憎い。どれも最高だが、若い学生に手を出した夫に愛想をつかした主人公の顛末「家出」、親切な雇い主に奢ってもらった海外旅行の失敗から意外な関係が浮き彫りになる「三つどもえ」、旅先での父娘のすれ違いを描く「ザッテレ河岸」あたり。またラストの「娘ふたり」は第二次大戦中のアイルランドの様子や当時の映画など1928年アイルランド生まれのトレヴァー自身と地続きの背景を感じさせるものがあって、興味深かったが、技巧派の作者のこと、そのまま受け取るのはナイーブかもしれないとも思う。
◆『インディビジュアリスト トッド・ラングレン自伝』

 時系列ながら、キイワードにちなんだ短文が連なるというある意味トッドらしい感じの変化球な自伝。いわゆる"ロックスター"的な賑やかな体験談が並びながらも、どこか一歩引いた内省とシニカルな視点が漂う。イデオロギー的なものについては懐疑的で皮肉な視点がのぞく。そこでタイトルが"The Individualist"であることに気づく。常にそうあったてきた人なのだな。キャリアの序盤、ドラッグカルチャーや西海岸文化には関心が薄く(ドラッグに関してはその後結局やりまくるものの注射するタイプは嫌った様子)、むしろロンドンに魅入られていたのも印象深い。
◇SFマガジン2026年2月号

 例によってメモ書き程度。
 架空生物特集
「ブリーダーズ」酉島伝法
 同じ音楽が繰り返し聞こえる現象が疾患によるものとわかった主人公。earwormという実際にある言葉通りに虫と結びつけるのが酉島印。プライマスなど曲のタイトルが多くどうもどれも実在のものの様子。かなりマニアックなものが並び酉島先生の音楽への造詣の深さがうかがえる。
「リラクオッカ」溝渕久美子
 人の心を癒やしてくれるペット。初めて読む作家だがほどよく情感があって読ませる。
「星の薪」坂永雄一
 ロケットのような大樹"龍天樹"のある世界を描いており、本誌解説では宮沢賢治やサン=テグジュペリの名が挙げられるているか、壮大なプロジェクト系ハードSFの趣もある。なかなかユニークな世界像を提出した作品。
「魂の湖」アン・レッキー
 基本的に正攻法なファーストコンタクトSF。解説にある「オーソドックスだが先住民の権利といった今日的なテーマ(一部抜粋引用)」自体は間違いではなく出来も悪くはないが、オーソドックスさの方が勝っていてその辺がこの作者の物足りないところでもある。
※2026年7/19追記 吉上亮「ヴェルト」は18世紀末革命下のパリで処刑人について書いている歴史ものなんだな。これは面白いかもしれないが流し読みしかできなかった。気づくのが遅かった(時間的な余裕など今後もちゃんと読めそうになく)残念。本としてまとめてもらえるかなあ。
 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア小特集
⚪︎フィクション
「タイムマシンをオモチャにしないでください、あるいは、わたしはF.B.I.のために≪アスタウンディング≫誌ののバックナンバー15924冊をズダボロにした。」
 時々載る人気作家の未訳探しで出てきたろう習作。ティプトリージュニアの文章の構築という面では情報として貴重ではあるが、こういうのはどのくらいニーズがあるのかなと少し疑問に思う。
⚪︎ノンフィクション
「私たちの知らないあなた ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア」橋本輝幸
 タイミングとしては(別出版社ではあるが)伝記「男たちの知らない女」の紹介を担う役割のもの。当然いきなり大部の伝記を読むようなマニアばかりではないので、ティプトリーと日本の受容をしっかりまとめてポイントを紹介しているので、まずはティプトリージュニアを知りたい人におすすめの内容。
◇SFマガジン2026年4月号

 ⚪︎フィクション
「コモレビ」トシヤ・カメイ
 解説で「クィアなアジア系作家で主に合衆国の媒体で短篇を発表。英語とスペイン語の環境で教育を受け日本語とスペイン語の短篇や詩を英訳する翻訳家」(記載から一部抜粋)と記され、つまり本作は翻訳作品。翻訳作品ではあるが、作者は日本語への造詣が深く、短い中に豊かな言葉の奥行きを感じさせてくれる。

2026年に5-6月に観た映画とコンサートと美術展

 

 6月は映画「マイケル」を観たよ。

 ちなみにマイケル・ジャクソンの伝記映画です(いちおう当たり前のことだが触れておこう)。

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 近年多い印象の音楽伝記映画のフォーマット(とにかく父ー息子の相克ばかり)をなぞっている感はあるが成り切り度は出色(後からマイケルの甥っ子と気づく。そうきたかー)。パフォーマンスシーンがかなりの部分を占めているのもそこを観て欲しいのだろう。 それにしても映画内でいろいろ起こっても(熱心なファンではない目からも)いろいろ端折ってるなという印象。そもそもジャネットがいないではないか(兄弟の情報も相当端折ってるし、兄弟も少し目立つモブキャラ程度)。うーん伝記映画難しい。

 しかし個人的には大変満足。音の良い劇場で観たのと、常々マイケルのパフォーマンスは観ておきたかったなと思っていたから。今のポピュラー音楽ファンにはよくわからないかもしれないが、50年弱くらい(!)前はアメリカのチャートの音楽を聴くのは、日本のポップミュージック(当時は歌謡曲。ロックはまだマイナージャンル)と別の体験。情報化時代に入る前なので、主体的に追いかけないと情報が入ってこない。というわけで、中学生になってから兄や友人の影響でアメリカやイギリスのロックなどを聴く(<洋楽>と呼ばれていたわけだ)。レコードを買う余裕もまだなく、当然ラジオのヒット曲くらいしかまずは情報が入らない(ほどなくMTVなどの音楽番組が始まるが)。その中で「世界一カッコいい曲だ!」と思ったのがマイケルのロック・ウィズ・ユーである。

www.youtube.com

 まあ実際はこんなビデオもほとんど観たことがなかった気もするが。今聴くとちょっと完成度が高過ぎて、窮屈な感じもあるが、何回聴いても最初に聴いた時のウキウキ感は色褪せない。その後「スリラー」で、音楽ジャンルを超越してあまりにも大きなポップ・アイコンになってしまったためにほどなく心が離れてしまうのだが。しかし自分にとっては、洋楽聴きはじめの<幼稚園の先生>のような存在なのだ。<恩師>という言葉だとちょっと大げさでそぐわず、しかしいつまでたっても忘れえない、感謝の思いが常に湧いてくる音楽家なのだ。

 もうマイケルはいない。となると、ベストのかたちに近いのが本作。当ブログ犬のような逃した連中、後追い世代に豪華な追体験をさせてくれるのだ。しかもこうだろうなあと思わせるマイケルの人物像に沿って作劇もされていたように思う。そういう意味では大成功といえるだろう。

 ちなみに書き忘れていたが、5月23日にはダイアナ・ロスのコンサートをKアリーナ横浜で観てきた(今更だがこんなホールが横浜駅近くにできていたんだなあ)。

www.universal-music.co.jp

 実はこちらももう一人の<幼稚園の先生>である。それこそ同じくらい「カッコいい!」となったのが、アップサイド・ダウンとアイム・カミング・アウト。

www.youtube.com

www.youtube.com  そしてこちらは驚くことに現役で来日してる!観客は高年齢層!時間短い!(のに家族タイムもあった!)コスパキビシイ!が、それがどうした。今や高揚感バリバリアゲアゲ(←死語)のモータウンサウンドショウの本物を見せてくれるのはダイアナだけではないか。ありがたやありがたやノリノリで楽しみましたよ。

 あとちょっとだけ言及、アンドリュー・ワイエス展。独特な技法から生れる渋ーい色合いが実に素晴らしかった。

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 東京は週末で終わりですが、巡回がありますよ。おすすめ。

wyeth2026.jp

2026年5月に読んだ本と参加したイベント

 
諸般の事情からやや読書ペースを少し上げていくことにしました(感想もさらに簡略化傾向に)。
◇SFマガジン2010年12月号

 ジェイムズ・P・ホーガン追悼特集。(冲方丁特集はスルー。ほぼ全く読んでいないなあ)
〇フィクション
「プリンセスに銀の靴を」ジェイムズ・P・ホーガン
 それまで翻訳されていなかった1979年のノヴェラ。宇宙船内で何も知らずに機械知性に育てられた一人の少女が、疑問を持ち状況を理解していくというのがおおまかな流れ。30年以上前の作品なのでやむを得ないが、機械意識の役割訳が<科学><神秘><懐疑>など素朴過ぎるのが気になって、斜め読みとなってしまった。先の展開が面白くなりそうなところで終わってしまうのも印象が良くない。ホーガンとは相性が悪いのかもしれないな。
〇ノンフィクション
 小谷真理氏の紹介文によるとSFを研究する学者たちの学会で代表的なものが2つで、アカデミズム色の強いのがSF研究学会(SFRA : Science Fiction Research Association)でもう少しゆるいのが国際幻想芸術学会(IAFA : The International Association for the Fantastic in the Arts)。その後者IAFAの2010年度会議の全体テーマが「人種と幻想」で、3名のゲスト・オブ・オーナーの一人が巽孝之先生らしく、その関連のミニ特集。(SFのアカデミズムには明るくないものの361名という世界のSF研究者がいる規模の学会のようで)ゲスト・オブ・オーナーとはやはりすごいことだね。学会の様子の紹介など評論関連の情報はどうしても少ないのでこういうのはホントにありがたいね。
「惑星思考のブラックユーモア」巽孝之
 基調講演の全文掲載。ブラックユーモアという切り口で、ハリケーン・カトリーナなどへの陰謀論がはびこる社会情勢の背景、「リトル・ボーイ再び」を題材に核兵器をめぐるフィクションの系譜、最後に小松・筒井作品など日本作品や日本人のイメージと関連のある作品の分析が行われる。これは巽先生しかできない講演だな。面白かった。この号にはステファン・ホールによる「惑星思考の大冒険ー間テクスト的タツミ・マシーンとともにー」というゲスト・オブ・オーナー紹介文もあり、時間がない人はそっちで講演の概略がわかる。
◆『ポドロ島』L・P・ハートリー

 積読をようやく消化。全体的にはミステリ寄りの作風だなという印象。解説で指摘されている分身、妄執といったテーマの作品が目立ち、短く不穏な空気を漂わせる作品も良いが、後半に緊迫感の高まる怪奇譚「足から先に」やこれも一気にサスペンスフルになる「毒壜」の少しだけ長めの作品が印象に残った。ちなみに「W・S」はポーの「ウィリアム・ウィルソン」をイニシャル的にも連想させる。
◆『ドン・キホーテのごとく セルバンテス自叙伝』上・下 スティーヴン・マーロウ

 あまり資料がないというセルバンテスの経歴を思いっきりフィクション化したもので、作者は1991年ニューヨーク生まれ。ということで資料的なところを期待するわけにはいかないタイプの小説。女性のような男性ダンサーのソライダや少年であることが価値を持つために少女であることを隠し続けているミカエラ・マルトラピリョが出てきてからは少し面白い。(セルバンテス『アルジェリアの地下牢』『ドン・キホーテ』「虜囚の話」(主人公が戦争と教育について長広舌をふるったあとの第三章?にソライダという登場人物が出てくるらしい)。あと妻カタリーナの明るく素朴で直情的というキャラクターも笑えた。以下のブログに感想があって、そちらを読むとかなり面白そうなのだが、個人的には長年読んでいていつまでたってものっていけない感じがあって、走り読みしてしまった。
 https://sekitanamida.hatenablog.jp/entry/thedeathandlifeofmigueldecervantes
 メタフィクション的な要素もあるんだが、こちらが『ドン・キホーテ』に明るくないことに加え、認識をゆるがすような思考実験の部分に著者の関心が薄く期待の方向に進んでいかないもどかしさがずっと続いた印象。あと登場人物たちの考え方が現代人のそれなのが(コメディタッチとはいっても)気になる。例えば佐藤亜紀ならもっと高度に仕上げているはず。
◆『ディフェンス』ウラジミール・ナボコフ

 チェスチャンピオンの生涯が対局と人生が華やかに交錯するような小説を事前に想像していたのだがだいぶ違った。コミュニケーションの問題を抱える内向的な主人公ルージンが、少年時代にとあるきっかけから指すようになったチェスを通じて、人生で遭遇する出来事をチェスになぞらえてとらえるようになるといったような内容。ルージン自体チェス巧者ではあるのだが、大きな栄光を目指したり目標があったりするわけでもない。むしろ人生の縁(よすが)として唯一世界と自らをつなぎ止めるものがチェスなのだ。一方、孤独な彼がようやく出会った庇護者の妻はそのことが理解できない。生活の破綻をきたす原因として本人とチェスを切り離してしまう。果たしてルージンは自らを守ることができるのか、という「ディフェンス」である。(なお短編「バッハマン」がコミュニケーションに難のある人物を庇護する話で、共通している)
◆『誰?』アルジス・バドリス

 冷戦下で秘密裏の計画が事故になり、その秘密を握る人物がソ連側に搬送されてしまう。その後顔や片腕まで金属化され西側に戻ってくるが…。とりあえずSFではなく、ミステリとしてもよく分からなかった。検索すると個人のアイデンティティがとか…ん?そういう話なのか?どんでん返しを読み逃してるとかではなく?(最近再チャレンジの元気もなく…)それにしても『無頼の月』はどうなってるのかなあ。
◆『SFの世界 果てしなき人類の夢』福島正実

 今月はSF関連のノンフィクションも読んだ。福島正実の著作をきちんと読んだことがなかったので、目を通した。1971年刊行の本で、科学的な部分や価値観など古くなっていたりズレていたりすることもあって斜め読み。テーマ別にまとめられているが、そもそもこうしたテーマ別分類が批評的に有効なのか疑問がある。読書ガイドとしては有効な面はあるかもしれないが。ともかくこの時代にして幅広い情報を押さえているところがすごい。熱のこもった筆致にもSFジャンルを浸透させたいという気持ちがあふれている。思い余ってか現在の感覚でいけば小説についてはしばしばネタバレになっていたりもするが。
◆『男たちの知らない女  ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの二つの生涯 』Ⅰ・Ⅱ ジュリー・フィリップス 衝撃的なSF小説群とその生涯でいまなお大きな影響を与え続けている作家ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア。その波乱に満ちた歩みが丹念に追われている本格的な伝記の登場である。人気作家の娘としてアフリカ旅行に同行するなどはじまりから特殊な環境で育った彼女は母へのコンプレックスやまたジェンダー的な葛藤を抱えながら、ありあまる才能を持て余し気味に職業を転々とし、離婚も経験する。そんななか50歳を越えて気晴らしで男性名で書いたSF小説が評価を集め、多くの作家と文通を行うなど人気が高まる。しかし実は女性であったことが明らかになると、内的事情もあって男性名にしていた彼女の内面に微妙な変化が起こり、作家としては不調を生じるようになってしまう。やがて高齢になり、かねてからの約束で弱った夫と(いわゆる)心中し生涯を閉じる。SFジャンルでは伝説的な人物で、読者としても(既に女性であることは分かっていた時代時期だが)文庫刊行がはじまった1980年代からはリアルタイムでその死などを知ったので、おおむねのことは知っていた。しかしそれにしてもだ。とにかく本書では一般人の何倍も濃密な人生を送っていることがよくわかる。一方異常ともいえる環境で育っているためもあるが、極端で不安定な人格にともない出入りの多い私生活になっていて、途中までは才能の無駄遣いの傾向がぬぐえない。たとえば、今後の仕事と家庭の問題を整理するために客観的な「作戦分析」をした際、時間の観点からみたリストアップの中に「夫との会話週五時間」というのがあったりする(困惑&苦笑)。特に笑えるのは家を探しあてた友人作家デヴィッド・ジェロルドが訪問した際に謎のおばさんとしてごまかすところである。時代的なこともあってエピソードのジャンルも多彩で、「ジョセフィン・ベーカーのダンスを見た」とか「展覧会でホッパーの横に絵が展示された」とかまである。一方で、創作で宇宙船だとかタイムマシンだとかのガジェットにこだわるティプトリーに、新しいSFを指向するデーモン・ナイトが苦言を呈するところも面白い。たしかにその時代SFが飽和するにつれ、そうしたガジェットや設定が陳腐になってきていたが、遅れてSFを再発見したティプトリーにとっては少し違っていたのだ。SFファンとしてシンパシーを感じてしまう。最終盤のところはさすがに辛い内容になるが経緯がきちんと記載されていて、ティプトリーをめぐる問題の難しさが伝わってくる。全体に、訳者あとがきにもあるように、ティプトリーへの敬意がありつつも客観的視点からはみ出していない非常に精度の高い評伝だった。年間ベストに入る本である。
 本書を題材にした5月のSFファン交流会も参加した。
 www.din.or.jp
SFセミナーでの企画もあったが、いかんせん時間に限りがあったのでゆっくりお話が聞けてよかった。とにかく「ティプトリーの作品はパーソナルな要素が多く、本人だけのもの。一般化して分析するのは難しいし誤解が生じかねない」というようなことが最後に出たが、まさしくその通りだと思う。最近ご無沙汰だったティプトリー作品を読み返しているがいろいろ発見がある。人を驚かす様な突飛な発想、時に甘々なセンティメンタリズム、スノビッシュな科学用語の羅列など、ティプトリー・ジュニア自身の起伏の激しい人生に見事にマッチしたのがSFだったとわかる。それまで経験した様々な職業や体験が全て作品に生かされているのだ。また、拡大しつつも未成熟だったジャンルが求めていた"大人"の作家であったことも登場のタイミングとして絶妙だった。コメディとかユーモラスなシーンでの語り口はまさに早口で話すオタクのようにも感じられたりもするし(伝記では、直接知るSF関係者には「出自が異なるため、ファンの集まりに喜んで出席する姿は想像できない(大意)」とも書かれており、いわゆるファンダムの人になることはどの道なかっただろうけど)。

 あーそうだ。順番逆だけどSFセミナーも今月だったね。現地参加しました。
www.sfseminar.org
 そうティプトリー企画は十分時間がなかったのとやや生真面目さが勝ってしまったのが惜しいね。中村融さん、渡辺英樹さんの「ジャンルSF誕生 百年の宴 」は超初期の底抜けSFの楽しさが爆発して最高だった!それからお相手をしてくださった皆様ありがとうございました。SFどっぷりの一日楽しかった!

※2026年6/8追記 ティプトリー企画について、生真面目過ぎと書いたが大野万紀さんのSFセミナーのまとめを読んでみると、しっかりと重要ポイントが押さえられていることがよくわかる。演者のお二人には失礼した。やはり印象論ではいかんねえ。↓

https://x.com/makioono/status/2063575822125219914?s=46&t=2VMTS8gei2dEH7zwdNy3ow

2026年4月読んだ本

 
 長かったので古典を読んだ時間が多かったよ。
◆『赤い魚の夫婦』グアダルーペ・ネッテル
  メキシコ作家の短編集。
「赤い魚の夫婦」 妊娠・出産の期に不和となる夫婦が女性の視点から細やかに描かれる。抑制された筆致で相互のずれと男女の不均等を掬い取っていて巧みだが、水中出産はどうかなあ。
「ゴミ箱の中の戦争」 昆虫嫌いの人を凍りつかせるところがある奇想小説だが、ホラー的なところとはやや違った着地点に到るのが面白い。
「牝猫」 これもインテリ女性のキャリアと私生活との軋轢に苦悩する話で、タイトル通りに猫がからんでくる。動物飼育の厄介なところをスルーしているところが気になる。
「菌類」 不倫関係と、ここで登場する生き物は菌。感染症のメタファーではなく、あくまで関係性と連動しつつも個人を侵食していくという存在なのが新しい。
「北京の蛇」 海外在住経験は多いもののメキシコ出身の作家が、易経など中国文化を核にした(ルーツはあるが)白人系主人公が迷走していく話を描いているというねじじれっぷりがなかなか楽しい。タイトル通り本作では蛇が題材で、多様な文化の中でいろいろな顔を見せる生き物であることがうまく取り入れられている。サルトルとボーヴォワールの話も知らなかったのでためになった。
 奇想小説としては飛躍もそれほどでもないので、そうした楽しみは必ずしも大きくない。また女性主人公の小説ではやや視点がインテリ側に寄り過ぎのような感じもあって、そうなると上記の出産や動物飼育に関する細部の安易さが技量が高いせいもあって逆に気になる。
◆『アンナ・カレーニナ』トルストイ

 いわずと知れた名作中の名作。月並みな感想になるが、一般の評価にたがわない堂々たる構えの大作。恋愛、結婚、不倫、出産など当時の貴族社会の人間ドラマというのが基本的な枠組みだが、プロットや視点の移動など構成がしっかりしていて大部にも関わらず、全体を通してゆるみがなく、スムースにどんどん読み進められる。また、扱われる題材は上記のような恋愛関係を中心としたものに限らず、階級や経済あるいは民族など多岐に渡る。しかも社会や人間の本質的な問題をとらえているため、1870年代当時のロシアにおける現代小説でありながら、文化や時代を超えて登場人物の悲喜こもごもの心情が伝わってくる。
 ちなみに当時のロシアの上流社会でフランス語が当たり前になっていて、会話にしばしばフランス語が混ざるところが訳文にも反映されている。で、これを現代の日本社会に当てはめてみると、英語が堪能だったり英語圏の生活が長い日本人が英語と日本語が混ざって会話するのと似ているなと感じた。日本だと気取った人と見られやすいパターンだが、特別変わった現象でもなく昔からよくあることなのかなと気づく。当時のロシアでも一般の人たちからは気取ってると見られていた可能性はあるけれども。
◇SFマガジン 1996年09月号

 戦争SF特集。
○フィクション
「戦争記念碑」アレン・スティール
 ショートショートという範疇の尺だが未来の戦場の過酷さが映像的によく表現されている。
「フェルミと冬」フレデリック・ポール
 核戦争で破滅する地球をストレートに追っていくような作品でこうしたものは意外に多くはないかもしれない。ポールの思いが終盤パートに出ている。80年代の作品で、既にアイスランドの地熱発電に言及があって、ベテラン作家の博識さが伝わる。
「死者登録」ジョー・ホールドマン
 ヴェトナム戦争の過酷な状況を描いた作品。コンパクトな作品だが戦地のディテールが眼前に現れてくるホールドマンらしい傑作。ただ一読だとほとんど一般文学。ということでネビュラ賞受賞なのは何か読み落としてるのかとも思ったが…。ファン投票のヒューゴー賞と違い、ネビュラ賞は専門家の投票だからジャンル意識より作品の質重視なのかもと思ったり。一方で一般文学とSFやファンタジイの関係も変わってきてるかもしれないとかふと思ったりもそれだといまだと一般文学と認知されてネビュラ賞受賞しないことも出てくるのか?とかいろいろなんだかわからなくなってきたり。何はともあれ詳しい方によると直近のネビュラ賞候補にも一般文学に近いものが複数あるとのこと。ネビュラ賞自体の元々の傾向なのかもしれない。
「ラッキー・ストライク」キム・スタンリー・ロビンスン
 広島への原爆投下命令を受けた兵士を主人公にした改変歴史もの。投下側から真摯に振り返る、試合シリアスな問題提起で定評のある作者らしい作品。苦い余韻に戦争というものの根深い罪が滲んでいる。イサク・ディーネセン『冬物語』に言及があるのは関連があるのだろうか。
特集外作品
「永き夜の終わりに」ロバート・シルヴァーバーグ
 この時期に連載されていた太陽系オデッセイ第8回。太陽系を様々なところを舞台にした作品がチョイスされているシリーズ。小品だが、サイバーパンク勃興後の1985年にして正攻法の宇宙探査・科学的発見を謳う作品であることはある意味現代との違いを感じさせる。冥王星情報、関連SFなど解説が充実している。
「ブレイン・キッズ」野阿梓
 これまで何度かチャレンジしたもののピンとこない作家だが、今回は少しとっかかりがつかめたかもしれない。テロリストが主人公で、海賊ラジオのイメージと重ね合わされた、潜在意識にある反体制意識を増幅させるようなサイキック能力を有する若者が物語の鍵を握る。一見カウンターカルチャーやアンダーグラウンドなムーヴメントへの憧憬ととらえられそうな筋書きだが最終的に個の選択肢が提示されているのが1960年代との違いかもしれない。
○ノンフィクション
「サイエンス・フィクションは死を願う」<後篇>ロジャー・ラックハースト
 前篇(1996年8月号掲載)と合わせての感想。文意のとりづらいところもあるが、自壊を指向してしまうジャンルという視点が面白い。フロイト〜ユングで分析することの是非はさておき(文中ではフロイド)、ジャンルの拡大と崩壊(いわゆる拡散と浸透)が繰り返されるという認識は妥当かもしれない。本誌で必ずしも本格的な評論が頻繁に掲載されるとはいえない中、なぜこの時期に掲載されたのかなどについても考えさせられるものがある。