ナイトランド叢書の2冊目。次のブラム・ストーカーも順調に出ているようで喜ばしい限り。問題は遅読のブログ主がちゃんと追いつけるかどうかだ。
以前トライデントハウスで予約制として企画された時に予定として挙げられていた作品で実は一番期待をしていたのがこれ。ハワードは新版コナン全集1巻目『黒い海岸の女王』が面白くて、例によって2巻以降はまだ積んじゃってるんだが、ナイトランドに掲載されていた短篇(本書に収録されている)もまた違った面が感じられ、現代のホラーやヒロイック・ファンタジーの直接の祖として重要な作家だなあと認識、その一端を知ることができそうと思っていた。なるほどこれはやはり興味深いですよ。もちろん編・訳は新版コナン全集の中村融さんで
(以下特に面白かったものに◎。一部内容に触れているので未読の方はご注意を)
「鳩は地獄から来る」◎ 夕闇が迫り主人公と友人が飛びこんだ古い誰もいない屋敷。二人を待ち受けていたものは。視覚的な描写の鮮やかさ恐ろしさとモダンなテンポのよさが際立ち、そしてヴ―ドゥーとくる。スティーヴン・キングが絶賛したというのもうなづける。
「トム・モリーノの霊魂」◎ エース・ジェッセルを覚えているかい?あの<マンキラー>ゴメスとの伝説の一戦を。ボクシング幽霊譚。解説によると<ウィアード・テールズ>の原稿料の安さに耐えかねてジャンル横断的な怪奇小説を書き、その中でボクシング小説との融合を図ったのがこれとのこと。ボクシングパートの描写も見事で、これもテンポがいいんだよね。
「失われた者たちの谷」 レイノルズ家最後の生き残りジョンは宿怨のマクリル家に追われ、謎めいた<失われた者たちの谷>に逃げこむ。こちらはウェスタン+怪奇小説。きれいに融合しているとはいえない部分もあるが、ウェスタン部分そのものの筆さばきはよどみがなく優れた資質を感じさせる。
「黒い海岸の住民」 婚約者と乗った自家用飛行機が遭難し、とある島に到着。もちろんなんか出てくるんだが、それが(以下ちょっと内容に直結するので改行します。)
蟹。ちょっとSFっぽいけど蟹。で、先日ツイッターでもイギリスに蟹ホラーのシリーズがあることが話題になり翻訳家の白石朗さんがツイートしていた→
https://twitter.com/R_SRIS/status/646501282652381184
で、リンク先がそれこそ中村融さんのブログなのでちょっと笑った。しかし7作目もあるとは。西洋圏では蟹コワいの人が結構いるということなのではないか。
「墓所の事件」◎ 死んだ双子の弟に襲われたと助けを求める老人。これは探偵小説との融合で解説によると本人は推理小説とは肌が合わなかったらしいが、どうしてどうして。たしかに探偵小説的要素はやや表層的だけどその分後半のスケール感とコントラストがあってこれはこれでいい感じになってる。
「暗黒の男」 オブライエンの一族に連なる卓越した闘士ターロウ・ダヴ。身を切られる寒風の海岸で漁師に舟を貸せという。ダルシアンの一族の娘モイラを救うのだ。典型的なヒロイック・ファンタジーながら実在の民族や地名があってとまどう。このターロウ・ダヴ11世紀のアイルランド人戦士で<剣と魔法>仕立ての歴史冒険小説のシリーズということらしい。アクションシーンはコナンを彷彿させる迫力だが、巻末の「影の王国」と比べると若干地味というか荒唐無稽さが控えめで少々物足りない。ただ(「影の王国」の解説に書かれている)<歴史冒険小説と怪奇小説の融合>という視点で読むとその試行錯誤の過程が垣間見え大変興味深い。ある意味本書の最大の読みどころともいえる。
「バーバラ・アレンへの愛ゆえに」 恋人同士だったジョエルとレイチェル。悲劇が襲い・・・。美しい詩が挿入されるロマンティックな掌篇。核となるイメージはある種のSF小説でも綿々と連なっていて幅広いジャンルで普遍的なモチーフだなあと思わせる。またハワードの作品の多様さも印象づけられる。
「影の王国」◎ 超古代王国ヴァルシア王カル。比類なき勇敢さで玉座を奪い取り君幻想要素はよりたっぷり、と自由に想像の世界をふくらませてこれぞヒロイック・ファンタジー!というカタルシスを感じさせてくれる。
生前未発表であったものなど詳細な解説もありがたい。コナンの続き読まないとなあ。