異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。

2020年6月に読んだ本

なかなか世の中が落ち着きませんなあ。
『となりのヨンヒさん』チョン・ソヨン
 訳者あとがきにあるように、本短編集は一部(となりのヨンヒさん)と二部(カドゥケスの物語)にわかれ、一部の方は独立したSF(やや奇想系っぽいものを含む)作品が並び、二部は宇宙船による移動が可能になっているが格差が固定されている未来社会での人々を描いた連作。一部では、なんといってもアリス・シェルドンが登場する「アリスとのティータイム」には驚かされた。ティプトリーに対する思い入れが感じられるしみじみとした逸品である。他台風の被害をテーマにした「馬山沖」孤独な少女の世界をSF的に描いた「雨上がり」もよかった。二部含め、全体的に孤独や家族関係等が焦点となり真摯で抒情的な作風。中には既視感のあるアイディアの作品もあるが、切り口がユニークだったり興味深い作品集だ
『海女たち』ホ・ヨンソン
 観光で知られる済州島だが、日本占領期1930年代の抗日闘争、その解放後の済州島四・三事件と苦難の歴史を歩んできた。その歴史を見つめてきた知られざる島民たちの「声なき声」を拾い上げた詩集。文字通り一人一人の声を反映した表現(個人の名が記されている形式)、丁寧な背景説明、その声を余さず届けようとする訳業(姜信子、趙倫子)で、歴史に明るくない当ブログ主のような読者にも、人々の思いが歴史の重さと共にずしりと伝わる。素晴らしい本である。
侍女の物語マーガレット・アトウッド
 世評高い作品だが、遅ればせながら読了。ディストピアものとしては個人の内面をじっくりと追っている点で『1984年』の系譜に属する印象(というわけで、丸屋九兵衛の解説にあるように、『声の物語』が本作を意識していることは間違いないだろう)。立場の違いによって(いずれも悪夢なのだが)、抑圧されたそれぞれの女性キャラクターの運命や心理が、細やかに描かれている分に現実の世界の陰画となっていることが強く印象付けられる。やはり歴史に残る小説だろう。
SFマガジン8月号特集・日本SF第七世代へ』
 珍しく新世代の批評・論考が並んだのでそこだけだが読んでみた。(正直第七世代がなんなのかよくわからないが)
「この世界、そして意識―反出生主義のユートピア(?)へ」木澤佐登志
 多くの著作を引いて、現代の技術における意識と社会というテーマをユートピア文学としてのSFを題材に検証していて読み応えがある。著作も読んでみたい。
「Re:Re:Enchantment」青山新
 疫病と社会特に都市デザインという観点から歴史的変遷をたどるが、ミクロからマクロへと視点が大胆に動くところにSF的想像力の面白さがある。フィクションの方にも優れた資質があるかもしれない。
「かたる、つくるーデザインとSFの交差する場所で」佐々木未来
 デザイナーをされているとのことで、デザインというものが幅広い概念を有し、未来の世界のあり方といったSFとも交錯する領域が多いことを伝えてくれ、知見を広げてくれる内容だった。
「プログラムの保存先」田村俊明
 ゲームの世界は全く疎く、時間があればなあと思う。月並みだが、進歩がすごいなあと。
「異常進化するバーチャルアイドルVRVTuberの新たな可能性‐」届木ウカ
 現役VTuberによるVRアイドル論。これまた送り手・受け手双方の感覚の進歩に驚かされる。特に送り手側の意識がよくわかり根本的に新しい時代が訪れていることを伝えてくれ面白かった。
フェミニストたちのフェミニズムSF」近藤銀河
 現代のフェミニズムSFをその視点と共に多く紹介しており、なかなか消化が追いついていない身としては、読まなくてはと思わされる。個人的な印象だが百合とフェミニズムは少々ずれがある気がしている。
「「ユートピアの敗北」をめぐってー山野浩一「小説世界の小説」を読む」前田龍之祐
 Fマガジン8月号「ユートピアの敗北」をめぐってー山野浩一「小説世界の小説」を読む」(前田龍之祐)
 季刊NW-SF山野浩一連載評論「小説世界の小説」でのユートピアSF、特にウエルズについての批評を中心に、ウエルズの「ユートピア志向とその限界」というジレンマを焦点をあて、そこから山野浩一のスペキュレイティヴ・フィクションへ向かう歩みを示す。「小説世界の小説」を直前に読んでいたので(NW-SFvol18「現実としての未来世界ーハインラインとウィルヘルム」)、 明快で関連図書への言及も多い本論考は、大変示唆に富む内容だ。今後への意思表明も頼もしい。