異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。

2020年6月に読んだ本

なかなか世の中が落ち着きませんなあ。
『となりのヨンヒさん』チョン・ソヨン
 訳者あとがきにあるように、本短編集は一部(となりのヨンヒさん)と二部(カドゥケスの物語)にわかれ、一部の方は独立したSF(やや奇想系っぽいものを含む)作品が並び、二部は宇宙船による移動が可能になっているが格差が固定されている未来社会での人々を描いた連作。一部では、なんといってもアリス・シェルドンが登場する「アリスとのティータイム」には驚かされた。ティプトリーに対する思い入れが感じられるしみじみとした逸品である。他台風の被害をテーマにした「馬山沖」孤独な少女の世界をSF的に描いた「雨上がり」もよかった。二部含め、全体的に孤独や家族関係等が焦点となり真摯で抒情的な作風。中には既視感のあるアイディアの作品もあるが、切り口がユニークだったり興味深い作品集だ
『海女たち』ホ・ヨンソン
 観光で知られる済州島だが、日本占領期1930年代の抗日闘争、その解放後の済州島四・三事件と苦難の歴史を歩んできた。その歴史を見つめてきた知られざる島民たちの「声なき声」を拾い上げた詩集。文字通り一人一人の声を反映した表現(個人の名が記されている形式)、丁寧な背景説明、その声を余さず届けようとする訳業(姜信子、趙倫子)で、歴史に明るくない当ブログ主のような読者にも、人々の思いが歴史の重さと共にずしりと伝わる。素晴らしい本である。
侍女の物語マーガレット・アトウッド
 世評高い作品だが、遅ればせながら読了。ディストピアものとしては個人の内面をじっくりと追っている点で『1984年』の系譜に属する印象(というわけで、丸屋九兵衛の解説にあるように、『声の物語』が本作を意識していることは間違いないだろう)。立場の違いによって(いずれも悪夢なのだが)、抑圧されたそれぞれの女性キャラクターの運命や心理が、細やかに描かれている分に現実の世界の陰画となっていることが強く印象付けられる。やはり歴史に残る小説だろう。
SFマガジン8月号特集・日本SF第七世代へ』
 珍しく新世代の批評・論考が並んだのでそこだけだが読んでみた。(正直第七世代がなんなのかよくわからないが)
「この世界、そして意識―反出生主義のユートピア(?)へ」木澤佐登志
 多くの著作を引いて、現代の技術における意識と社会というテーマをユートピア文学としてのSFを題材に検証していて読み応えがある。著作も読んでみたい。
「Re:Re:Enchantment」青山新
 疫病と社会特に都市デザインという観点から歴史的変遷をたどるが、ミクロからマクロへと視点が大胆に動くところにSF的想像力の面白さがある。フィクションの方にも優れた資質があるかもしれない。
「かたる、つくるーデザインとSFの交差する場所で」佐々木未来
 デザイナーをされているとのことで、デザインというものが幅広い概念を有し、未来の世界のあり方といったSFとも交錯する領域が多いことを伝えてくれ、知見を広げてくれる内容だった。
「プログラムの保存先」田村俊明
 ゲームの世界は全く疎く、時間があればなあと思う。月並みだが、進歩がすごいなあと。
「異常進化するバーチャルアイドルVRVTuberの新たな可能性‐」届木ウカ
 現役VTuberによるVRアイドル論。これまた送り手・受け手双方の感覚の進歩に驚かされる。特に送り手側の意識がよくわかり根本的に新しい時代が訪れていることを伝えてくれ面白かった。
フェミニストたちのフェミニズムSF」近藤銀河
 現代のフェミニズムSFをその視点と共に多く紹介しており、なかなか消化が追いついていない身としては、読まなくてはと思わされる。個人的な印象だが百合とフェミニズムは少々ずれがある気がしている。
「「ユートピアの敗北」をめぐってー山野浩一「小説世界の小説」を読む」前田龍之祐
 Fマガジン8月号「ユートピアの敗北」をめぐってー山野浩一「小説世界の小説」を読む」(前田龍之祐)
 季刊NW-SF山野浩一連載評論「小説世界の小説」でのユートピアSF、特にウエルズについての批評を中心に、ウエルズの「ユートピア志向とその限界」というジレンマを焦点をあて、そこから山野浩一のスペキュレイティヴ・フィクションへ向かう歩みを示す。「小説世界の小説」を直前に読んでいたので(NW-SFvol18「現実としての未来世界ーハインラインとウィルヘルム」)、 明快で関連図書への言及も多い本論考は、大変示唆に富む内容だ。今後への意思表明も頼もしい。

2020年5月に読んだ本

『ペストの記憶』ダニエル・デフォー
 コロナウィルス蔓延の前から少しずつ読んでいたのだが、なかなか読み終わらず。ようやく読了。1665年にロンドンで発生したペストの被害について、その後数十年してデフォーが架空の語り手で記述した作品である(刊行は1722年、ちなみにデフォーは1660年ロンドン生まれ)。ということで今でいえばドキュメンタリータッチのフィクションということにもなるのだろうか。とはいえかなり詳細な情報によって沢山の出来事が並び、内容からしても流言などを元にした飛躍や偏りはそれほど感じられず、かなり事実に基づいている印象がある。その上で考えると、数百年した現在と驚くほど似通った状況や問題が提示されており、科学技術が発達してもなかなか人間社会の根本的な問題は容易には解決しないという重い現実につきあたる(たとえば患者隔離や自由移動、迷信や偽科学、状況を左右する貧富の格差などなど)。架空の語り手で記述されるのだが、(ランダムではないものの)基本的には様々な出来事が羅列されるような形である上に、間に感染を避けるために放浪をする<さすらい三人衆>のエピソードが入るなどするので、現代的な視点から言えば語りが一定ではないために少々読みづらいところはある。ただ、時に現代人からみるとおかしな科学的考察が混ざるものの、約300年前の書物としては驚くほど現代からみて違和感のない客観的で冷静な視点で物事がとらえられており、人間と社会について考えさせられる。あと読んだのは『ペストの記憶』と題された2017年に出た研究社の単行本で、地図や注釈が充実している。またロンドンの地図が相当細かくなかなか見にくいのは事実で、研究社がネットにアップしている。こちらがそれに関するツイート → https://twitter.com/Kenkyusha_PR/status/1252431475410006018?s=20 
『ホテル・アルカディア』石川宗生
 奇想短編集でありつつ、(タイトではないものの)メタフィクショナルな構造を持つ作品。各編想像力を強くかき立てるイマジネーションの豊かさと独特のユーモア感覚はちょっと類をみないものだ。作家・アーティスト・作品名への言及が多くあり(実在人物と強く相関したりそうてもなかったりする)、それも楽しい。SFマガジン6月号の横道仁志氏の評が示唆に富んだ内容で、本書を読んだ方はおすすめ。
J・G・バラード短編全集2 (歌う彫刻)』J・G・バラード
 ゆっくり読んでいたら刊行から随分経っていて・・・(こんなんばっか)。でもねバラードはいいよ。やっぱし。
「重荷を負いすぎた男」 整った病院都市、時間の停止する世界、人間の退行といったお馴染みのモチーフが扱われている。
「ミスターFはミスターF」若返りをという古典的なアイディアがバラード流に処理されているのが読みどころ。
「至福一兆」人口爆発自体は日本では想像しにくいテーマになっているが、娯楽がスポーツであるところとかやはり鋭い。
「優しい暗殺者」時間ものだが、戴冠式が扱われているので少し昨秋を思い出した。
「正常ならざる人々」精神診療に対する興味もバラードの特徴の一つ。
「時間の庭」時間の止まる花、終末を目の前にした伯爵と美しい作品。SFっぽさはあるが根幹にあるのは正統派のファンタジーのイマジネーションで、バラードの場合どこからの影響か気になる。
「ステラヴィスタの千の夢」初読時の印象は薄かったが、亡くなった美しい映画スターの心理が投影された空き住宅に夫婦で移り住むことにした夫の歪んだ欲望が描かれる傑作で、倦怠期のインテリ夫婦を描くのが実に巧い。
「アルファ・ケンタウリへの十三人」宇宙の夢を信じないバラードらしいアイロニーが光る。
「永遠へのパスポート」これはバラードとしては意外なほどのスラプスティックなコメディ。
「砂の檻」20世紀SF(河出文庫)にも収録された作品だが、以前はピンとこなかった。改めて読み直すと、宇宙開発の挫折と破滅が結びつき、現在の状況とも一部重なる傑作であることに気づく。
「監視塔」これも閉塞感漂う寓意的な小説。
「歌う彫刻」交通事故で顔に大怪我をしてから人気を得た女優という、バラードらしい人物が登場するが全体としては非モテのいじましさのコミカルな味がある。
「九十九階の男」比較的同時代にもあったようなアイディアストーリーかな。
「無意識の人間」加速した消費社会を描いた割合ストレートな風刺小説になっている。
「爬虫類園」バラードらしさもあるが他の作家でも書きそうな作品でもある。
「地球帰還の問題」ジャングルを舞台に宇宙飛行士の消えた謎を追う、らしいモチーフでミステリとしても完成度の高い作品。
「時間の墓標」再読だが読んでいる途中、ピラミッドの盗掘が発想の元かなと思ったところ、解説にも言及あった。「サイバー」という用語が既に使用されているところにニヤリ。
「いまめざめる海」夜ごと忍び寄る海の幻と危機を迎えた夫婦、というこれまたらしい一編。海のイメージが印象的。
『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ
 2016年に本国で刊行され、話題になった抑圧状況にある現代女性を描く小説。訳者解説にあるように、必ずしも極限的なエピソードを取り上げるのではなく、<ささやかさ>のある苦難を連ねることによって普遍的な共感を呼んだというのはありそうだ。大枠として本人の内面の記録される形だが、無駄のない文章でシャープなレポートのようにつづられているので読みやすく問題提起がストレートに読者に伝わり、それが成功している。ある意味より深刻な問題を抱えている日本の優遇された性の人間としては、改善のために何をするべきか真摯に向かわなくてはいけないと思わせる一冊。
音楽本3冊。
『ジャニーズと日本』矢野利裕
 ちょっとジャニーズの歴史を知りたくなり読んでみた。ジャニーズに詳しくない人間には通史を知る上で参考になったが、(スキャンダル的な視点とは関係なく)あまり切り口に新鮮さはなくもう一つ食い足りない感じだった。
『大韓ロック探訪記 (海を渡って、ギターを仕事にした男)』長谷川陽平
 韓国ロックに関り、90年代中盤から韓国に住み、音楽活動も積極的に行ってきた著者のことが対談を中心に語られる。対談中心だが、編著の大石始氏が丁寧に歴史を追い、対談者も黎明期の伝説的ロッカーから若手DJまで幅広く、レコード情報・写真も多く、単なる個人の半生記ではなく韓国ロック史を紹介する一冊にもなっている。好奇心と情熱だけで海を渡り、いつのまにか伝説のバンド(サヌリム)に参加することになる展開は胸アツ間違いなしだが、読了後パラパラ見直してたらこの長谷川陽平氏、なんと竜雷太太陽にほえろのゴリさん)の息子であることに気づき、さらに驚いた。
『K-POP 新感覚のメディア』金成玟
 K-POPの発展の歴史を豊富な資料で分析した本。サウンドの特徴、米国や日本の音楽との関係性などを含め解説し、社会の動きとの関連もおさえられている好著。K-POPの世界的な活躍で興味を持った人たち(自分もだが)におすすめ。

丸屋九兵衛さんオンラインイベント備忘録

コロナによる自粛期間でも丸屋九兵衛さんは積極的にオンラインイベント敢行。
さすがである。
5/30に聞いたのは
・Q-B-CONTINUED vol.37 2パック、西郷どんキム・ジョンナム。珍説・俗説・都市伝説で読み解く世界史
 生存説の残るヒーローたちなどの話から、人々の心に現れるいわゆる”普通の”歴史ではないまた別の歴史という視点が面白かった。2パックは現在形成中のフォークヒーローなのかもしれないという。
・Q-B-CONTINUED vol.25 REMIXED アジア系アメリカ人が歩んだ道。コロナウィルス差別と戦う兄弟たちのこと
 コロナ禍にともないアジア人差別が各地で生じている悲しい状況に日本で欠けがちな視点を提示したトーク(また黒人差別の問題もアメリカで問題となっている。それがあくまでも穏やかなトーンで差別への抗議を訴えていたプリンスのミネアポリスからということ事実に胸が痛む)。活躍を制限されてきたこともあり、表ではなかなかプレゼンスが認識されてこなかったアジア系アメリカ(など)人について。特に日本では日系人の偉人すらあまり知られていないのだよね・・・(自らの不勉強も恥じつつ)。近年のアジア系映画やドラマ、そして俳優・ミュージシャンなどの活躍はやはりうれしい。やはりバックボーンに共通するものが感じられるということが大きい。いろいろ幅広く情報をチェックしていかないとなあ。
それから少し前にもいろいろ配信されていた。全てではないが、聞き逃したのを中心に参加した。
前にやったものでも大幅に刷新されていたので、本当は全部見たかったなあ。
備忘録として整理
・Q-B-CONTINUED vol.30 RETURNS アヴェンジャーズよりザ・ボーイズ!/個性派アメコミヒーロー列伝
・Q-B-CONTINUED vol.31 今こそ『ゲーム・オブ・スローンズ』総決算
・Q-B-CONTINUED vol.2 REMIXED ディスカヴァー・ディズニー! 『南部の唄』から『アナと雪の女王2』まで、夢と魔法の国の変心を追う
・CHINCO DE MAYO 2020 MEXICAN SOUL & HIP-HOP LATINO コロナビール応援&セレーナ没後25周年記念!メキシコ系R&Bとチカーノ・ラップ/ヒスパニック・ヒップホップを!
そういえば1/31のブッカー・T・ワセダ以降、いろんなことがあって他に丸屋さんのオンライン・イベント見たのを思い出したので追加。3/20にダブルヘッダーのオンライン・イベント。
・SOUL FOOD Assassins vol.14 コービー・ブライアントに捧ぐ。シーズン中断が発表された今こそ語りたい、NBAアメリカと世界と
・4GOTTEN RELMZ 丸屋九兵衛主催「忘却の彼方」系ミュージック&トークイベント

2020年5月に観た映画、ドラマ

JSA」(2000年)(録画視聴)
 韓国軍・米軍と北朝鮮軍が共同で警備を行う、JSA(Joint Security Area:共同警備区域)で南北兵士の間に生まれた奇妙な友情を描いた作品。昨年劇場で観た「工作 黒金星と呼ばれた男」(→当ブログの感想)と同じように南北統一への思いが感じられる作品。フォーマットとしては「ロミオとジュリエット」であり悲恋ものなので、終着点はまあ推して知るべしという感じなのだが、これまたもう20年前の作品だということを考えると人々の抱える現実の重さを感じざるを得ない。ソン・ガンホはやはり素晴らしく、イ・ビョンホンはまだちょっと若手っぽさがあるのが面白い。
「刑事ファルチャー失踪捜査」(TVドラマ)(2019年)
 シネフィルWOWOWでやっていて、われらがマーティン・フリーマンが刑事役ということで観てみた。2011年に実際に起きた事件のドラマ化。ちょっと撮影が変わっていて、全面的にではないが、元が実際の事件ということもあってか、密着ドキュメントっぽいカメラワークになっている。ということで全体的には本格ミステリタイプの仕掛けが核というわけではなく、捜査側・犯罪者・被害者やその家族をめぐる人間ドラマにおけるサスペンスが中心のドラマだった。抑制されたタッチだが、中高年俳優陣中心の重厚な演技は緊張感があって6話一気見、なかなか良かった。

未来少年コナン観た

 NHKで再放送されている名作アニメ「未来少年コナン」、なかなか放送を追うのは難しいので(時間的にも性格的にも)、youtubeにあることに気づき、とりあえず観はじめたら、(いつもの今さらなのだが)さすがの出来に全部観てしまった。
 世代的にある程度は観ていたのだが、断片的でしかなく、トータルの印象はあまりなかった。実は多少少苦手な部分があったことが今回確認されたが、それもこの作品の長所でもあり、作品の受容というのは難しいものだなあとも思った(万人に受けることはそもそも不可能なのね)。
 たとえば、コナンやラナがあまりにピュアな存在であることで、自分にとっては必ずしも感情移入しやすい対象ではなかった。またコナンが一見普通の少年の絵柄なのに実はスーパーヒーローであり、人々のピンチを信じられない能力で打開してしまうことにどうもストーリー展開的についていけなかった。
 しかしこれらはこちらのないものねだりだとわかった(随分と時間がかかってしまったが(苦笑)。大きなポイントは少年を主人公としたアニメであることだ。つまりこれは少年(それも小学生くらい)の夢である。なので、全能感に満ちているのは当然で、それがまずこの作品世界の基本法則なのだ。そうなると主人公は必ず危機を脱するし、当初悪役であっても魅力があったり弱さを抱えた登場人物たち(子供でも伝わるような)は必ず会心し味方になる。苦手としていた要素に、コナンやラナが肉体的に痛い目に合うシーンが多い、ということもあったことにも今回気づいたが、これもそうした世界であることを考えれば納得がいく。(現代においてそうしたシーンがそのまま表現される是非はともかくも)つらいシーンがあってもいつかハッピーエンドが待っていると思えば、むしろそれはストーリーのいい意味での駆動になる。実際、そうした苦難の後にコナンは何度もエモーショナルなパワーで状況を打開していくのである。
 前記のようにアニメであることも大きい。実写ではないので、ありえない(ある意味アニメではお決まりの)アクションシーンが数多く登場する。というよりもそここそが見せ場であるといってもいい。今や一般常識ともいえる宮崎駿流のコミカルでダイナミックなキャラクターのアクションシーンが随所に現れる。もちろんレトロ感覚にあふれた飛行メカの魅力や先進性も特筆ものだ。
 またそうしたアニメーションの動きの楽しさだけでは作品は成り立たない。ストーリーや設定も非常に練られていて、非常に起伏に富み視聴者を飽きさせない(原作は未読なので比較はできないがより陰鬱な作品らしい)。本当に完成度が高い。
 これも既に指摘されていることだが、ピュア過ぎる主人公二人の周囲のキャラクターの配置が絶妙で、むしろそちらに感情移入させるように出来ているのも巧い。あと低年齢層アニメなのに実は音楽は割とジャズ~ファンク系というか子供子供していないのもよく考えられている。音楽も素晴らしいと思う。
 全体の印象として宮崎駿はアニメの特性というものをよく知っているなあという感じだ。アニメの持つ力を、細かく整合性をつける部分と大胆にすべき部分を知り尽くして表現しているとあらためて感じる作品である。

 
 

THに投稿しました。あと2020年4月に読んだ本、観た映画

 「TH vol.82もの病みのヴィジョン」特選品レビューでテッド・チャン『息吹』について「不安は自由のめまい」を中心に書きました。本屋も閉じたりしている昨今ではありますが・・・よろしくお願いします!
 
athird.cart.fc2.com

www.hayakawa-online.co.jp


 で、私事のもろもろで時間がないわけでもないが、読書は進まず。いろんなものをランダムに少しずつ読んでいる感じ。
 ということで以前から気になっていた雑誌を。
「ナイトランド・クォータリー vol.20」
 特集:バベルの図書館、ということで全体を読んでみた。

高山宏インタビュー
 不勉強にも氏の本は未読だが、「マニエリスム談義」は抜群に面白く、該博な知識に基づいたエッジの効いた会話と切り口に圧倒される。

・図書館映画から生まれるふしぎ、書から生まれる映画幻想
 深泰勉
 図書館や焚書や読書関連をテーマにした映画をクトゥルーものまで含め紹介。毎回知らない映画をいろいろ紹介してくるのでありがたい。またまたナイジェル・ニールの「火星人地球大襲撃」に言及あり。なかなか観るのが難しそうだけど観てみたいなあ。

・夜の図書館ー映画「龍宮之使」制作秘話 浅見典彦
 大阪の文化財をロケした戦前クトゥルーものの映画とのことで、これも気になる。

・非在の書棚より 朝松健
 異端審問に関する伝説的な本の翻訳にあたっての話。いやーこれ怖い。

岡和田氏の論考はいずれも面白かったが、スケールの大きなボルヘス世界を実証的に解き明かした<「バベルの図書館」の解釈学>が特に良く、『ブラック・トムのバラード』(ヴィクター・ラヴァル)の書評もラヴクラフト識者の評価が知りたかったのでありがたい。

・「手触りのある音」白沢達生
 楽譜の話がこの特集で出てくるのが楽しい。クラシックには明るくないのだが、その分いろんなエピソードが新鮮だった。音楽史が楽譜の発見で変わったりということもあるんだなあ。

・「おかえりなさい」橋本純
 森で迷子の少女と出会う。これも楽しい作品だ。

・「post script」樺山三英
 ボルヘスの「バベルの図書館」に正攻法で挑んだ奇想が楽しいが、現代の混迷状況にある高度情報化社会に深く切り込んでいる。

・「深夜圖書館」井上雅彦
 新シリーズ<ミライ妖カイ幻視行>開幕。どうやらSF的なアイディアが出てくる妖怪ハンターものなのかな。いつも新鮮なアイディアがあってさすがだよな。

・「夜の図書館」ゾラン・ジヴコヴィッチ
 ちょっとした怪談風だが、いい作品だ。

・「シュザンヌ・ドラジュ」ジーン・ウルフ
 解説にあるように、ほんと何気ないちょっとした中年男の回想なんだが、それだけではないはず。はじめの方の「自分ほど現実的な人間はいない、と自負していると」という下りに記憶と自覚というウルフらしいテーマを個人的には感じる。実は非日常的な事が起こっているのに語り手が気づいていないというような。(と書いた後、岡和田氏の解説を読む。むむむたしかにウルフだけに・・・)

・「奇妙な大罪」M・ジョン・ハリスン
 短い作品だが、嫌われ者の伯父がヴィリコニウムで暮らした日々がしみじみとした哀感を感じさせる。noteを読むと背景にはいろんなテクストがあるようだ。

・「バーナバス・ウィルコックスの遺産相続」サラ・モネット
 コンパクトにまとまった切れ味の良い怪異譚。キャサリン・アディスン名義の小説も翻訳されているようだ。

・「ギブソン・フリンの蒐集癖」ピート・ローリック
 古本クトゥルー。静かな本好きあるあるな前半からエグい後半への転調に意外性があった。作品のあとについている翻訳者(待兼音二郎)の作者紹介も参考になる。

・「空を見上げた老人」フランク・オーウェン
 中華ファンタジーの掌編。甘い、とも評されたようだが悪くない。

・「デミウルゴスについて」ジェイムズ・ブランチ・キャベル
 <マニュエル伝>の一部の訳載、キャベルのフィクションに対する考え方の一端を(なかなか難しいが)知ることができる。(『ジャーゲン』まだ途中だが・・・)

・「生ける本、ソフィア」アンジェラ・スラッター
 よく登場する作家、今回は最後尾で本自身が語る形になっていてニヤリ。

ヨット・ロックの本を読んだ。日本ではAORとして知られるジャンルがアメリカでTV番組をきっかけに再評価されているらしい。シミルボンに投稿しました。
shimirubon.jp


SFマガジン2003年6月号」
 昨年亡くなった翻訳家の小川隆氏が提唱した(都市のスプロール化現象をイメージして)ジャンル横断的フィクションのムーブメント<スプロール・フィクション>。断片的にしか読んでいなかったのだが、とりあえず第1回目の特集を読んでみた(ついでにほかの読み切りも)。

・「ドッグズ」アーサー・ブラッドフォード
 恋人の飼い犬と寝ている、という驚くべき導入部から始まる。奇妙で先が読めないのに日常的という好みの作品。

・「ブレイクスルー」ポール・パーク
 コミュニケーション障害をめぐる問題をえぐるシャープな作品。重い内容でもある。

・「わたしの友人はたいてい三分の二が水でできている」ケリー・リンク
 ステレオタイプ化された女性のイメージがブロンドに集約され、クローンや宇宙人へと連想がつながって
いく。

・「死んだ少年はあなたの窓辺に」ブルース・ホランド・ロジャース
 両親が育てた死んだ嬰児の話。ほのぼのとした読後感。

・「十月が椅子に座る」ニール・ゲイマン
 死と少年の孤独が重なった見事なブラッドベリオマージュ。さすがゲイマン。

・「栄曜邸の娘の魂が抜けた話」林巧
 ちょっとした仕掛けのある中華ファンタジー。著者についてはどうやらアジアファンタジー系の本やホラーが何冊か出ているようだ。

・<ことのはの海、カタシロノ庭>piece18 単純な形
藤原ヨウコウ&小林泰三
 藤原ヨウコウによるイラストと作家によるショートストーリーの企画。オチに笑った。

・「青銅の人形」草上仁
 RPGっぽい世界を題材にした短編。

レディ・プレイヤー1」(2018年)
 CSでやっていたのを録画視聴。ゲームには詳しくないが、音楽・映画の懐かしいネタ満載のウェルメイドな作品で楽しかった。まあ著作権とかを思うとスピルバーグじゃないとできないちょっとズルいネタではある感じもしたが(笑)。『シャイニング』未読なんで読まないとなあ。

うる星やつらの映画を観てみた

 シネフィルWOWWOWでうる星やつらの映画をまとめてやっていたのでふと思い立って全部観た。ビューティフルドリーマーの評価は高かったので2回ほど観たがそれ以外は初見。うる星やつらについては漫画の登場が衝撃的だった世代で(あんなにキャラクターが面白くてセンスの良いSFギャグ漫画ははじめてだったのだ)、TVアニメについては途中から独自の面白さを発揮していたらしいことは後から知ったが、最初にアニメ化に喜びつつ原作との違いが馴染めずそこそこしか楽しめなかった口だ。さて。

 

うる星やつらオンリーユー(1983年)

 エルの結婚式場がガウディ風だったかな。あまりアニメ事情には明るくないのだが、まだTVの特番みたいな企画でも映画公開できたのかなあという印象で、ぱっとしない感じ。

 

うる星やつら ビューティフルドリーマー(1984年)

   正直これまでピンとこなかったのだが、今更ながらいろんな要素が含まれた作品だということがわかり楽しめた。要素を羅列すると、幽霊屋敷もののホラーテイスト、騙し絵(エッシャーかな)、パロディ化された全共闘の影、漂流教室の影響(?)、千と千尋のような電車のシーン(先達からの返信?)、フランケンシュタインなど先行作からの引用など。ただ押井作品とはどうも相性が合わず、たとえばこの作品では時々訪れる変な間にリズムがしっくりこない(序盤の面堂とあたるが車で街を回り人形が出てくるところとか)。「イノセンス」に関しては音楽の趣味がいまいち合わず。

 

うる星やつら3 リメンバー・マイ・ラブ 1985年

またTV特番のようなタイプ。ルウという少年がラムに入れ込んで騒動を起こす。ただ2の1年後で、ちょっと祭りの後の影がさすところなどは興味深い。遊園地がネタになっていたり(東京ディズニーランドの開園後)、産業ロックっぽい曲調が時代を感じさせる。

 

うる星やつら4 ラム・ザ・フォーエバー 1986年

今度は映画製作という形で、また祝祭的な舞台とメタフィクション 構造をつくりあげており、なるほどと納得。少し絵のタッチが変わってきてる。ややとっ散らかったイメージの連鎖はまとまりに欠けるものの映像的には意外に悪くない。ただビューティフルドリーマーインパクトが其の後の路線を決めてしまった側面も感じられる。

 

うる星やつら 完結編 1988年

  ラムを許嫁としている宇宙人がいてというような結局は同じような話なんだが、あまり新しいことをしなくていいというような立ち位置になったのか、比較的安定したつくりになっている。

 

うる星やつら いつだってマイダーリン 1991年

  放送10周年記念作品にして最終作。この作品になるとファンへのアフターサービスといった趣きで馴染みのキャラクターによる同窓会が行われているような感じだ。うる星やつらが80年代という時代の空気そのものから形成された作品であることを強く意識させる。その後リメイクやリブートもされていない(ですよね?)のも当然という気がする。そのこと自体に一抹の寂しさがないこともないが。