異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん。いつか鎌倉の老人になる日まで。(単なる読書系ブログです)

丸屋九兵衛さんP-Funk関連トークまとめ(前半)

 あーもう10月になっちゃった。遅れたけど書くよ!
 7/15ジョージ・クリントン自伝『ファンクはつらいよ』発売を記念して、監修にあたった(カラフルな栞を4本もつけただけの仕事との噂があるものの、その4色はGeorgeの以前のカラフルな髪型に合わせた色で赤緑色盲らしいGeorgeのために赤と緑が入っていないというGeorge愛あふれる)丸屋九兵衛さんが、8月3日下北沢B&B(以下、B&B)で「雑学王・丸屋九兵衛が語るポップカルチャーとしてのジョージ・クリントン」、8月18日BIBLIOPHILIC & bookunion 新宿(以下union)で「丸屋九兵衛とギヴ・アップ・ザ・ファンクするパーラメント/ファンカデリックな一夜」と連続してトークショーを行い、いずれも参加したので時期が少しずれたが恒例の備忘録まとめ。内容は重なるところがあることや他の事情から合わせたまとめにすることにした。一部丸屋さんが9月10日ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフルに出演した「みんな大好き"Pファンク"特集」がよくまとまっていてようつべにもあるので→ https://www.youtube.com/watch?v=eDpW3UsHbTI ここを中心に導入にしてみた。例によって※印は当ブログ主の感想、間違いなどご指摘いただければありがたいです(そういうわけでいつものまとめにも増していろいろ混ざったものになっています)。

 この自伝、予期せぬ(!)ベストセラーNY Timesブックレビューで「本年度の音楽系書籍のベストの一つ」と評された(本国での発売日は2014年10月21日のようだ)ようにかなり話題になった一冊。当ブログでも紹介したが、話をかなり<盛っている>んじゃないかなというのもこの本の面白さで、「(自らを美化するのではなく)面白い方へ転がるのなら多少話を作ってもいいかな」みたいなノリがよいと丸屋さん・宇多丸さんがいわれていた。数年前丸屋さんのインタビューで出なかったSamuel R. Delaneyの名が記されているのは、実は「丸屋さんがジョージに教えたのでは!」(宇多丸さん)という話も。
 さてP-Funk、そもそも説明が難しい。ジャンルであり、クルーであり、率いる音楽集団の俗称でもある。主にはParliamentFunkadelicの二大バンドがまずは中心。で、ややこしいことにこの二つのグループ、メンバーがほとんど同じ。さらにはBootsy's Rubber BandやThe Brides of Dr. Funkensteinなどなどいろんなグループがあり、メンバーのソロ活動も含まれる。総勢(おそらく)50人ぐらい、さらにはメンバーのプロデュース作も入れるとより裾野が広がってしまう有様(そうなると人数3桁いく)。西海岸Hip hopの連中が音楽だけでなく精神的にも大きく影響を受けているのを始め、ヒット曲がほとんどないにも関わらず、根強いファンが多い(UK、フランス、ドイツ、日本等)。長い楽曲・展開なし・コテコテグチョグチョ(←宇多丸氏)というその音楽の人気の秘密について、丸屋さんはストーリー性にあるのではないかと指摘。P-Funkは全盛時代を通じて、SF的諷刺的なストーリーに基づくコンセプト・アルバムを発表し続けたおそらく唯一のグループ、とのこと。そこには正義側のStarchildやその黒幕Dr. Funkensteinや悪役Sir NoseなどのさまざまなキャラクターやBop Gunなどのガジェットが沢山登場する。悪役Sir Noseは踊らないファンキーじゃない、いわば野暮天(by宇多丸氏)なのだが、人気が出てしまいいつの間にか人気キャラになってしまうといった面白さもある。「音楽・ストーリーなどスケールがとにかく大きく、そこになぜか『宇宙的な宗教としてのFunkを崇め奉る」といった要素がある(自伝で「コンセプトはゲットーのスター・トレック」と記している)。コミカルなのもポイントでそこに出てくる戦いは、タケちゃんマンVSブラックデビルレベル(笑)。ステージにも宇宙船が登場(アポロ風、アルバムジャケットとは違っていた(笑)。扮装も変わっていて、ピラミッド型の人やオムツ一枚の人(※Gary Shider! R.I.P.)や花嫁姿のむくつけき黒人男性(その後Larry Blackmon、Dennis Rodmanらが継承)など。
 P-Funkの全盛時代は基本的に1975~80年、その時代はマニアしか聴いていなかった(その時代の日本ブラックミュージックファンはソウル指向・歌もの中心だったため)。90年代に再評価されたものの当時日本音楽評論の世界の英語力はpoor(Hip hopでもそうだったらしい)。折角Bootzilla(ブーツィラ)とBootsy自らゴジラの化身となってくれたにも関わらず、「ブーツィーランド」と勘違いしていた評論家がいたほどで丸屋さんから「渋澤龍彦の<ドラコニア>か!」とのツッコミ(笑)(※ちなみに当ブログ主はBootsyの知名度に割に<ブーツィラ>の語呂合わせに反応している人が少なかった時代をなんとなく覚えているが、ざっくり<ブジラ>の表記を言い出す関係者がいてもよかったのではと思っていた。不正確ではあるがゴジラのパロディとしてはわかりやすいということで。<ブーツィジラ>という表記もあった記憶があるが、ダジャレとしてわかりにくかったように思われた)。(※以下の部分はラジオでの話ではなくトークショーで出た話)ブラックミュージックレビュー(BMR)などの雑誌は最新の音楽紹介が中心だったので、ややP-Funkの活動が低下していた時期にはミュージック・マガジンレコード・コレクターズが再評価の役割を果たしていた。しかしP-Funk特集号の表記には間違いが多く、名のある音楽評論家もStar ChildとDr. Funkensteinを混同していたり、Sir Noseが改心してFunk化し自分のルーツのFunknessに気づくというエジプトネタのアルバム"Trombipulation"に頓珍漢なレビューがついているなど問題もあったようだ。(※この辺りの時代背景は非常によくわかる。ただその辺りを個人的にきちんと正確にP-Funk情報を深めることができなかったのは悔いが残っているのでファン側ではあるものの少々耳が痛くもある)。結局再評価が進んだのはParliament"Mothership Connection (Star Child)"をサンプリングした西海岸勢Dr. Dreの"Let Me Ride"のヒットから。

www.youtube.com

元ネタParliament"Mothership Connection (Star Child)"
www.youtube.com

(この辺は全て上記のウィークエンドシャッフルからなのだが、丸屋さんが「マザーシップをインパラ(車)に置き換え『乗せてくれよ』といったのは美しかった」と評し宇多丸さんが「P-Funkの宇宙観から、より自らの生活感に引き寄せた」と解説したのが面白かった。時代に伴う適切なアップデートということだろう)
自伝でもHip hopを強く支持、非常に一生懸命研究している様子が伺える。
 まず丸屋さんが英語翻訳・音楽業界に深くかかわるようになったのP-Funkがきっかけとのこと。P-Funkは「ラップより遅いが語りがやたら多い」ので、丸屋さんは基本的に英語をP-Funkで学んだということ。(unionではコラージュ作品のようなこの曲が例として挙げられていた。ちなみにこの曲は元々あった音源に自分の語りだけを入れてジGeorgeが1曲に仕上げたもので、その辺のクレバーな(ちゃっかりした?)ところはGeorgeらしい)


Parliament - The Landing Of The Holy Mothership

また90年前後にP-Funk系のコスプレをしていてコンサート会場でミュージックマガジンの人に声をかけられた。またBootsyのコンサートにいつもそのコスプレでいることから初来日時にもステージに上げられるなどお馴染みな存在となっていて、会う機会もあったのでBootsyのアルバム"The One Giveth, the Count Taketh Away"のコンセプトに習って、アーサー王の最後の部分を自らに当てはめた英語のオリジナル・ファンク・ストーリーを作ってBootsyに見てもらいほめられ、英語や文章に自信を持ったのがはじまりとのこと。またP-Funkコミックの関西弁翻訳を送ったのがBMR採用のきっかけ、ということでP-Funkと丸屋さんの縁は深いとのこと(コミックの話題はB&Bでも出ていて、たしかBootsy's New Rubber Band"Blasters's of the Universe"についていたコミックということだったと思う)。※コミックについてウィリアム・テル風と以前記載していたが、間違いだったので削除しました(2016年11月28日訂正)

 さてこのGeorge Clinton、音楽グループのリーダーとしては少々変わっていて、ヴォーカルではあるが歌は下手、楽器はできない、楽譜は読めない書けない、曲は書けるもののコーラス理論がわかっていないためにできるのはバリトンベースとそれ以外といったわけ方程度。とないない尽くしのお方なのだが、不思議なカリスマ性で(とても人格者ともいえないのに)人心掌握力があり、造語能力とコンセプト作りに長けていることで成功した(ただ床屋なので散髪はできる(笑)。「ニュージャージーで最も危険なストレート・パーマ屋」といわれ、<危険>とはギリギリまでストレートにするの意)丸屋さんは項羽と劉邦でいけば、劉邦であると(個人戦・組織戦とも強い項羽はPrince。当然ケン・リュウ蒲公英(ダンデライオン)王朝記』への言及あり!)。ちなみにTemptationsのリーダー(※Otis Williamsだろうか)も滅多にリードをとらないとのことで、黒人コーラスグループのリーダーシップの在り方なのかもしれないとのこと。
 さてここから2回のトークショーの話が中心になるが、上記のように音楽紹介の英語面での弱さから、P-Funkのストーリー的な側面への掘り下げ不足ということがこれまであり、それを補うところが丸屋さんの真骨頂。ということで、コンセプト的そしてストーリー的また歌詞的な面白さの紹介に焦点が置かれ、具体的な曲などへの言及はBootsyのアルバムの一部とParliamentのアルバムについてであった。
 それを順を追って整理していこうと思うが、総論的な意味で興味深かったのはまずBootsyとGeorgeのセンスの違い。Bootsyがネタにしてきたのはゴジラ、キャスパー、赤ずきんちゃん、ロビンフッド、キリスト、アーサー王、Countracula(※Count von Count セサミストリートの数字を数える人気キャラ。Count Dracula(Count = 伯爵)を計算の方とひっかけての名前。話し方にどことなく中~東欧訛りっぽい感じがある気がするがどうだろうか
www.youtube.com)、など比較的明るいキャラクターが目立つとのこと(Bootsyだもんなあ納得)。目から鱗だったのは(※unionで出た話題だったかな?)上記のBootsy+GodzillaのBootzillaはゼンマイ仕掛けのオモチャ。だからWind me upという歌詞が出てくるのだという指摘!いやなるほどねえ(Wind me upはBootsyの決めゼリフでしばしば登場する、「ねじを巻く」でここを見ると必ずしもポジティヴな言葉じゃないんだよな。だからこそゼンマイ仕掛けのオモチャだと思うとしっくりくる。ちなみにさっきのweb辞書にwind up a rubber band
(〔模型などの〕輪ゴムを巻く)という例もあり、Bootsyのバンド名とも一致するではないか!)。ともかく全体に陽性なBootsyらしいコンセプトになんだなと感じる。
 一方Georgeの場合TVドラマ『アウターリミッツ』(冒頭の言葉「TVの故障ではありません・・・」が"Mothership Connection"のアルバム冒頭曲で「ラジオの故障ではありません・・・」としてパロディ化されている)。
The Outer Limits intro
"There is nothing wrong with your television set. Do not attempt to adjust the picture. We are controlling transmission. …"
www.youtube.com

Parliament"P. Funk (Wants to Get Funked Up)"
"Do not attempt to adjust your radio, there is nothing wrong.
We have taken control as to bring you this special show.
We will return it to you as soon as you are grooving...″

www.youtube.com

他にクローン人間、フランケンシュタイン博士などシリアス・ダーク寄り。
 またコンセプトという意味ではなんといってもParliamentFunkadelicはそうした要素が薄いのだが、宇宙を題材にしているParliamentに対しFunkadelicの題材はアメリカであるという丸屋さんの指摘は膝を打った(※ご指摘の通り軍や国家をパロディにしたものが多いのだ。そういう意味ではFunkadelicも十分コンセプチュアルといえるかもしれない)。

さて長くなってしまったので、実際のアルバム等については後半で。

葉山を散歩

ブログ更新が滞ってしまつた・・・。
(止めたわけではありません)
鈍ったブログ勘(<なんじゃそりゃ)のリハビリを兼ねて、今日行った葉山の散歩を軽~く記録。

逗子からバスで葉山方面へ行ってちょっと山登り。

f:id:funkenstein:20160930102734j:plain:w400

いつも見ている鎌倉が別角度から幅広くとらえることができて楽しい。

f:id:funkenstein:20160930105821j:plain:w400

結構急な山道を小一時間(ぜえぜえ)。その後森戸海岸に。平日でもう9月最終日となれば静か。
珍しくChristopher Crossなぞ聴きながら散歩をしていると・・・

f:id:funkenstein:20160930105359j:plain:w400

何やらいわくありそげな古い蔵が。AORムードが一転古典探偵小説モードに!<続きはありません(笑)

f:id:funkenstein:20160930121418j:plain:w400

最後は神奈川県立近代美術館葉山のクエイ兄弟展。アメリカ出身の一卵性双生児の兄弟でなぜか東欧の人形アニメーションに影響を受けた作風。ヤン・シュヴァンクマイエルを敬愛していて、Peter Gabrielの"Sledgehammer"はこの人達なので、当ブログ主はよく知らなかったがご存知の方も多いのではないかと思う。

Peter Gabriel - Sledgehammer (HD version)

カフカ「変身」やレム「仮面」もあったぞ(いずれも短いが)。慌てて未読の「仮面」を読み始める(笑)
不気味なタッチで面白かった。10/10までなので興味のある方はお早めに。
美術館の近所にあった山口蓬春記念館も行った。元々本人の住んでいたところが記念館になっているようで、葉山の素敵なお宅にお邪魔した感じがあってこれもなかなかよかった。

『ファンクはつらいよ バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』        ジョージ・クリントン+ベン・グリーンマン

ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝 バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録
“ドゥワップ・シンガー兼ソングライターとしてキャリアをスタートしたジョージは、リズム・アンド・ブルースからモータウンビートルズストーンズサイケデリック・ロック、ファンクに至るまで、ポップ・ミュージックのあらゆるトレンドを吸収した。70年代には、パーラメントファンカデリックという2バンドを中心に構成された、音楽ムーヴメントのリーダーとして台頭。そして、70年代半ば、クリントン統帥が率いるPファンク帝国は、ソウル・チャートのみならず、ポップ・チャートをも席巻していた。先進的なアーティスト、元祖ヴィジュアル系、クレイジーな哲学者、敏腕なビジネスマン。全てが合わさりひとつになったのが、クリントンだ。彼のような人物は、ポップ・ミュージックにおいて、先例がない。その物語は、セックスやドラッグのたしなみ方はもちろん、スーパースターの名言集、フラッシュライトの演出法、バップ・ガンの使い方、キャラクタービジネス、宇宙論、超古代史、各種の陰謀説、法廷論争(音楽著作権に詳しくなろう)を内包し、想像を絶するほどの創造的エネルギーで展開される。誇張された話のようだが、これは現実である。”(amazonの紹介より)

 ついに出た。我らがP-funkファン待望、総帥の自伝の登場である。10代にロックを始めいろんなポピュラー音楽を聴いたが、高校の頃に知ったP-funkほど自分の志向に合うものはなかった(もちろんPrinceという導入があってのことだが)。煎じ詰めると「頭と腰の両方にくる音楽」ということだ。強固なリズム隊で躍らせ強烈なギターでエモーションを掻き立て肉体に働きかけ、それと同時に異様な宇宙趣味と語呂合わせの聖俗一体となった歌詞世界で脳を刺激する、こんな音楽は他にない。しかしあまりにメンバーが多く、自分が聴き始めたころには既にコアのメンバーが離散状態にあり、低迷期ながら個々の活動は途切れず楽しませてくれさらにその後は人気も回復したものの、結局のところ全体像は後追い世代としては非常につかみづらいものがあった。本書はその穴埋めを十二分に果たしてくれるものだ。
 まず印象的だったのはかなり早い段階からG.Clintonは音楽のプロフェッショナルだったこと。ぼんやりと床屋さんが店に集まってた若者を率いてデビューしたみたいな図を想像していたのだが、床屋もやっていた音楽のプロだったようだ。楽譜も読めず歌もけっして上手いとはいえない人だが、曲を作れるクリエイターなのだという自負がそこかしこに感じられる。振り返ってみるとどんなに状況の悪い時でも彼の活動の中心は音楽でありあまり他のジャンルへ手を出すイメージはなく、相当な年齢だが(先月75歳になった)ステージに立ち続けている。まあ楽器を弾いたりする人ではないということもあるのだが。メンバーへの金払いの悪さからBootsyやBernie(R.I.P.)のど古株の主要メンバーが離れたため、どうにも守銭奴のイメージがついて回るが、音楽のことばかり考えていた騙されたというような発言もあながち嘘ではないのかもしれない。
 音楽への自信からかそれぞれのミュージシャンへの発言も率直だ。新しい音楽を作ってきたという自負があるためJBを古い音楽と位置づける部分もあるし、ZappのRogerも小さい成功で満足してしまった人物と評している。特に印象深いのはBob Marleyの政治への傾倒に強い疑念を抱いている部分で、政治と常に距離を置きながら諷刺をする姿勢を自覚的に取っていたことがよくわかる。またロックへ影響が大きいことも認めており、当ブログ主も自分の音楽体験をとらえ直す非常に良い機会となった。そう、音楽ファンとして自分が帰っていく場所は常にここなんだ!
 ドラッグについての言及にも大きくスペースが割かれているのも本書の特徴だろう。具体的に(あからさまに)記され、公的行事の裏でやっていて見つからないように慌てて隠したなんていうエピソードまで披露している。悪びれないところも実に彼らしい。いずれにしても音楽業界につきまとうドラッグ関連状況の貴重な記録になっている。
 契約問題はかなり複雑怪奇。ポピュラー音楽の成功と挫折でマネージャーとの金銭問題がしばしば挙げられ、『ストレイト・アウタ・コンプトン』もまさにそんな話だったが、いつの時代もどんなジャンルでもなかなか上手くいくのは難しいのかもしれない。
 非日常的なエピソードがところどころに登場するのも彼ならではだ。売れていない若い頃に出会い音楽のヒントを得たという謎のマジシャン(『歩道橋の魔術師』を思わせる)、ツアー移動中道に迷ったらゾンビが出てきて驚いたら『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の撮影中だったとか、コンサートを見守る宇宙人(?)などなど。
 もちろん丸屋九兵衛さんの解説にあるように「信頼できない語り手」であるGeorgeのこと、全てをそのまま受け取っていいのかわからない。しかし巧みな言葉遊びに乗って語られるこの一代記、まさしくG.Clintonにしかできない作品であろう。どんな状況でもクールにそしてユーモアを忘れず、戦い生き抜いたサバイバルの書でもある。自らのバイブルとしたい(ドラッグはやらないけど)。

遅いまとめ丸屋九兵衛トークライヴQ-B-CONTINUED vol.8&9今回のテーマはN.W.A.とPrince!

 またまた遅すぎるまとめ。さる6月7日のQ-B-CONTINUEDはようやく(笑)音楽テーマが登場。しかも2本立てだ!『丸屋九兵衛が選ぶ、ストレイト・アウタ・コンプトンの決めゼリフ』刊行記念!それからPrince追悼・・・。(以下いつものように話題順不同、断片的な個人備忘録用まとめ。※はブログ主の補足 間違いなどありましたらご指摘いただければ幸いです)(8/5追記 丸屋さんのご本人からのご指摘で多々あった間違いを訂正しました。丸屋さん今回もありがとうございました)
 
 ということで第1部は「著書爆誕 N.W.A.祭り」with サンキュータツオ。ということでサンキュータツオさんの司会でN.W.A.がテーマ。映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」の字幕監修を担当した丸屋さんが、字幕に収まりきらないもろもろを詰め込んだ『丸屋九兵衛が選ぶ、ストレイト・アウタ・コンプトンの決めゼリフ』を刊行!著者爆誕というわけでN.W.A.特集。著作に出ている内容もあるので印象に残ったことを箇条書き。
・cruising down the street in my 64という歌詞("Boyz-n-the-Hood" N.W.A.)の64とは64年式インパラのことで「64年式でかっ飛ばせ!」と訳されたりするが、ゆっくり走るスタイルで正しい訳ではない。「64年式でストリートを行く」とした。インパラはびょんぴょん跳ねる(インパラの動画も登場(笑)。
※インパラ

Jumping Impala kids and a Jackal

※車はこんな感じ

Chevrolet Impala 64 hopping lowrider

 

・黒人文化のNegativeなものをPositiveに変える力。N-wordを変化させて自らの仲間内を呼び合う言葉にしたように、台湾系のワン・リーホン(王力宏 Wang Leehon)が使ったのがChinked Out

chinked-out
この人自身はバークリー音楽院を出ているいわば音楽エリート(※その辺はN.W.A.とちょっと違う)。
・アジア系の蔑称にもいろいろある(略)
・Straight Outtaどこどこに代表されるようにhip hopには出身地を誇る文化がある。ルイ・ヴィトンのマスクを持つhip hop好きレスラーのレイ・ミステリオ(Rey Mysterio)は腕に619のタトゥー。出身地のサンディエゴの市外局番で上から見ても下から見ても619になるのがミソ。ニューオーリンズのhip hopグループの504Boyzも市外局番から。
・OGはOriginal Gangstaの意。ベテラン、古強者といった意味。
・西海岸と東海岸のhip hopの大まかな特徴。東はジャズがベース、ファッションは地味。西はファンクがベース、ファッションは長髪・派手(カラーギャングとの関連もある)。西のジーンズに折り目があるのに要注意!(笑)自転車も派手
(派手な自転車こんな感じかな) 

Meet the Godfather of the Lowrider Bicycle
・"Fuck the Police"の歌詞Searching my car, looking for the product Thinking every nigga is selling narcoticsには警察による人種偏見による捜査(racial profiling)への批判がある
・Q-B-CONTINUEDお馴染み長い登場曲の冒頭は曲の方のStraight Outta Comptonから取られているが "You are now about to witness the strength of street knowledge"のstreetの部分がbookに変えられている(何度も参加してきたが気づいていなかった・・・)。

さて休憩をはさんで第2部。まずロサンゼルス・レイカーズのユニフォームに着替えた丸屋さんからHello Tokyo!、Prince初来日横浜スタジアムの第一声がこれだったというエピソード(第一声だったかどうかは忘れていたがオールドファンにはよく知られているものである)。パレードツアーのTシャツもご持参。この日はまだ亡くなってから日が浅く、追悼しんみり気分で参加したのだが丸屋さんから「(周囲の人々に殿下の死に対するショックを心配されているが)まだ信じていない。2Pac生存説もある」と。これは意表をつかれた!そして急にPrinceを語り始めた音楽評論家たちへの違和感に触れる。そしてPrinceが丸屋さんの原点であったこと、憧れ鏡を見ながらイメージトレーニングを行い濃くなかった顔が濃くなった第二次性徴期へ言及。また一番近く接近したのがアルバムEmancipationのプロモーション来日の時で、顔が驚くほど細かったこと、質問をできなかった(指してもらえなかった)無念さについても。それからやたらといい面ばかりが語られるようになってしまったが、聖人君子というわけではなくむしろツッコミどころが多々ある人物であったことを強調。(以下羅列で)

・映画Purple Rainに登場するクラブFirst Avenueの写真
・(各種の例を挙げて)歌詞にみられる女性に対するゴーマンさ。
・結果的には優秀なギタリストだったThe TimeのJesse Johnson、風貌が似ているだけでPrinceファミリーに入れてもらったっぽい。しかしソロでSly Stoneとの共作曲が入ったアルバムShockadelicaを発表した時、同名の曲Shockadelicaを出してちょっとセコイ嫌がらせ(※詳細は忘れたが要はファミリーから自立しようとしているところが気に入らなかったという話だったと思う)。Jesseは訃報後Princeについてインタビューを受けていない(答えない)。
・実はユーモアのある人だった。映画監督Spike Leeはa funny catだったといっている。hiphopやfunkではdogが歌詞やタイトルで出てくるが、Princeの場合はcatがしっくりくると丸屋さん。
・Princeネタのコメディは多い。
・映画Jay and Silent Bob Strike Back主人公はThe Timeの大ファン。(※これかな 

Jay and Silent Bob Strike Back - Morris Day & The Time (End Credits) - HD )
・会場で流されたコメディアンDave Chappelleのプリンスネタ。「作戦、コンピュータブルー!」とかやっている(笑)。Micki Freeは元ShalamarのメンバーでThe Revolutionではない(※Micki Freeはネイティヴアメリカンの血が入っていて、ロック寄りの仕事をしていて当ブログ主的にも興味深い人だなあ)

True HollyWood Stories - Prince | Chappelle's Show
 (※これEddieのお兄さんCharlie Murphyが話しているというかたちなのね。俳優やコメディアンとして活躍しているらしい。Eddieにこんなお兄さんがいたとは知らなかった。ちなみにPrinceがこのネタに対しての感想を聞かれているのもyoutubeにあった。ネタに対して「あれはよかったねー。しかもあれはホントのことなんだよ(笑)」といっていて、(詳細は聞き取れないけど)ユーモアに理解のある人だったことが分かる。 

What Prince thought of Dave Chappelle Skit... )
・Dave Chappelleは顔はまあ近いが歌が歌えない。歌マネならJamie Foxx (※これっぽい 
youtu.be 他の物まねも面白いし、特に歌の上手さがハンパない。繰り返し観てしまう(笑)
・Jamie FoxxはPrinceに会った時の印象として「小鹿のように可愛かった」といい一瞬ゲイだったと腐女子歓喜ネタを投入したことがあるようだ。
Eddie Murphyも「Princeにならなりたかった」といったことがある。
・Missie ElliottのMVなどに登場する似ていないPrince多発問題(※まあこれは多そう) 
youtu.be
・Batdanceは曲というよりParliamentのThe Landingに近い(※コラージュのようなということだろう)。
・音楽的には黒人音楽と一線画するとされるが、Princeはところどころで黒人英語を使っている。映画Under the Cherry MoonにもWrecka Stow = Record Storeの様な言葉遊びがある。(※Muppet ShowのPrince登場回も見つけたがそれも黒人コメディアンの笑いに近い感じがあるね。詳しくないんだが。関連ネタは1分18秒あたりから 
www.youtube.com )
バットマンの映画でStop the pressが「息を止めろ」とひどい間違いがあった(pressとbreathの間違い)。
Quincy Jonesチュッパチャップス事件(どこかのスペシャルライブの映像で舞台上でPrinceが自分がくわえていたチュッパチャップスをQuincyに差出し、一瞬の間がありつつもそれをQuincyがくわえようとしたという出来事。壇上なので雰囲気を察知しくわえようとした器の大きさが光る。※当日GIFがあったので検索したが見つからず。QuincyはPrinceがドタキャンしたUSA For Africaのプロデューサー。ドタキャンについては西寺郷太氏『プリンス論』に詳しい。またQuincyはBadでMichaelとPrinceの競演を画策したが不成功に終わった)
・アルバムDirty Mindの頃は全く踊れていないが、1999では急に踊れるようになっていた。バスケが上手く運動神経がよかったPrinceは猛練習でダンスもできるようになったのではないか。
・曲Do Me Babyを初めて聴いたとき童貞だった人に挙手を迫る丸屋さん(^^;。何故かというと曲の後半殿下の喘ぎ声を聴いて、男性がこういう声を出すものなのかと思った童貞の人ががいたのではないかという・・・ (爆笑)。単なるセックスをロマンティックに歌う黒人音楽の流れがある。またDo Me Babyなどバラードにしてはスネアドラムが重いパターンはReady For The Worldなどに影響を与えた。
・弟子、特に女性を見る目に疑問。VanityやApolloniaはシンガーとしてどうだったか。Carmen Electra, Ingrid Chavez, The Family・・・。
・ここで丸屋さんの好きな曲やアルバムについて。まず好きな曲としてLittle Red Corvette、ベースのブーストされたバージョンが特にとのこと。非常にセクシャルな歌詞で女性の体について歌ったとされるが誰が誰に向かっている歌か考えると面白いそうだ(※いやーこの辺りは歌詞を見直したがかなり難しい)。性別を超えた歌詞としてはGinuwineのPonyという曲がそうらしい。以下アルバム別に羅列。
 Prince。原点の輝き。Stevie Wonderの様に様々な楽器を操り、Smokeyの様に歌うと評された。
 1999。JillとLisaが鞭でPrinceを責めるAutomaticのビデオ(※これは中学生の頃見てひっくり返った。その頃TV神奈川でMTVなど洋楽番組があって、ロングバージョンの曲でもしばしば平気でノーカットで放送されていた。もちろん結構な内容のものでも。さらに驚いたのはSexualityのビデオで一人で歌いまくった最後にカメラ目線で脱ぎ始めるというやつで大変イケないものを見てしまった気分でいっぱいになったのを今でも思い出す(笑)。ただAutomatic自体は曲としては落ちるとの評価で、アルバムが長過ぎるために一部の国(※失念)ではまんまカットされてしまったD.M.S.R.の方がよいとのこと。
 Purple Rain。funkではないのにfunkを感じさせる曲が好きとのことでこのアルバムではI Would Die 4 U。一方あまり力の入っていないfunk曲は好きではないとのこと(※これはなんとなくわかるんだが、実は個人的にはそういうユルめのfunk曲も割と嫌いじゃないんだよね)
 Around The World In A Day。Americaが好き。某カラオケ(※失念)でなぜかRaspberry Beretの珍しいバージョンがあったらしい。
 Parade。アルバムでは最も好き。中でもMountainsが一番好き。New PositionはJB流funkの再解釈。
 Sign 'O' The Times。さほど(※うーんこれは当ブログ主はParadeと並んで好きなので少々残念)。
 Black Album。これは好き(※うっかり手放したんだが再高騰してしまったんだよなあ、失敗。ただ随分遅れて正式発売されてから聴いたのでちょっと時代遅れに感じたんだよな。Bootleg時代に聴くべきだった)
 Lovesexy。好きなアルバムで特にEye No。
 (※時間が押していたので後のアルバムへの言及は少なかった。曲やアルバムについてはもっと聞きたかったなあ)
・最後はPrinceの歌詞から。
 But life is just a party, and parties weren't meant to last(1999から)が引用された。パーティにも終わりがあることを自身が歌っていた。さらに
What's the use of bein' young if you ain't gonna get old(Goldから)も。最後まで老いを感じさせなかったPrinceを思うと何だか不思議な歌詞である。

 あと今回の特集のツボを見事についたバスケのユニフォームを着た方がいらして丸屋さんが絶賛されていたが、当ブログ主はバスケに全く明るくないのでその話題は今回のまとめに入れらなかった。こちらももっと修行せねば。(これも丸屋さんからわざわざ解説をいただいた。その方はミネソタ・ヴァイキングスのユニフォームを着ていて、これはPrinceの出身地にちなんでミネソタのチームでありまたそのカラーがパープル&イエローでロサンゼルス・レイカーズ(こちらはN.W.A.に近い)との類似性を感じさせるという両方の特集を象徴した着こなし。うーんなるほど洒落ている。丸屋さん重ね重ねありがとうございました)
 ということで、特にPrinceのユーモア面というところにスポットを当てるのは丸屋さんらしく他の誰もが真似出来ないところだろう。しかしまずは音楽面でもまだまだ聞き足りないところも多く、是非Prince第2弾を実現して欲しい。お願いします!
 

 

 



 

山尾悠子トークショー

備忘録。

2016年7月16日に『新編 日本幻想文学集成』刊行記念トークイベント《澁澤龍彦のいる文学史 『新編 日本幻想文学集成』の刊行を記念して》 でスペシャルゲストとして山尾悠子さんが登場。(出演:諏訪哲史   聞き手:礒崎純一)

  

https://honyade.com/?p=24858 

比類なき文体で超然と揺るぎない異世界を構築し幻想文学の世界で唯一無二の評価を得ている山尾悠子さん。トークショーと聞いて滅多にない機会なので行ってきた。諏訪哲史さんの飄々とした語り口もあって和やかに進行、作品世界からは背景にいる人物が想像できなかったが意外に気さくに回答をしておられた(例えばフィギュアスケートはお好きらしいが、男子には興味がなく浅田真央選手がご贔屓らしい)。前日は澁澤関連の集まりがあったらしい。筆が遅いことを気にされいる様子もあり、あのような現実とは切り離されたような作品も人の手をへているのだなあとしみじみ思ったり。諏訪哲史さんが種村季弘の弟子であることもはじめて知った(基本、幻想文学系の知識が薄いので)り、有意義なイベントであった。

(その後2018年『飛ぶ孔雀』で泉鏡花文学賞を受賞されている。今後も活動が途絶えないことを祈っている)