異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

山下達郎ライブ@神奈川県民ホール

 長く続いた雨がふいにやみ、透き通った青空が広がった。会場に向かう時間を早め鎌倉駅まで歩くことにした。のんびり歩くと約50分ほどかかる。瑞々しさを取り戻した緑に紅葉が色どりを添えていた。週末の残り少ない時間を待ち構えていたのだろうか、雨が上がてさほど時間も経っていないのに海辺を散歩する人たちも目立つ。みんなよく知っているんだなあ。雨上がりの秋の空はすみ渡り、さわやかな風が心地よい。普段見慣れた海もこんなに違うんだ。聴いていた山下達郎のベストは「いつか晴れた日に」になった。曲は喧嘩をした恋人がまだちゃんと仲直りできていないといったちょっと切ない内容だ。晴れた日に聴くと曲の未来を先取りしているような不思議な気分になる。「いつか君と晴れた日に君と線路沿いに歩こう」という歌詞が流れた時ちょうど江ノ電の線路がみえた。こういう偶然が嬉しい。
 山下公園近くの神奈川県民ホールに着く頃にはもうすっかり日が暮れていた。夜にくるのは何年振りだろうか。ライトアップした船が華やかだ。開場は17時。開演は18時なので、17時半にはもう入場の長い行列ができていた。
 デビューから40周年になるそうだ。曲がりなりにもブラックミュージックをよく聴くようになってから30年近くたち思春期だった80年代にルーツをもつ世代にとってポピュラー音楽のマエストロである山下達郎は特別な存在である。ドゥーワップやオールディーズに対する深い造詣と完璧主義、強い信念に基づきクオリティとポピュラリティの両立した作品を作り続けてきた。とはいえいち音楽好きは気まぐれであり、なかなかチケットが取れなかったりそうこうしているうちに忙しい年齢になったりなどなどいつか行かなくてはと思いつつ時が過ぎていってしまった。というわけで初めての達郎ライブである。内容はもちろん折紙つきの素晴らしいもの。エヴァー・グリーンな名曲の数々、達郎はやっぱり達郎だった。
 「ライブは一期一会だ」といっていた。「この中に自分のコンサートに初めてきた人もいるだろうし、これが人生で一度だけかもしれない。初めてのお客さんはヒット曲を聴けなければがっかりするだろう。だからぼくはクリスマス・イブを歌い続ける」。それが彼の姿勢なのだろう。またドーム会場は音楽を聴くところではないともいっていた。小さい会場で音楽を聴かせるという揺るがない意志があるのだ。一方で「ライブは道楽」ともいっていた。2008年から再度ライブを中心に活動をするようになったというが、以前のライブツアーはアルバムを出してプロモーション目的が主だったらしく、今はコンサート自体を思い通りの構成やスタイルでできるというのが道楽という意味なのだろう。
 時節柄平和を願う曲もあった。「平和な時代でなければ音楽はできない」「70~80年代という音楽に力があった時代を過ごすことができたので今でも音楽をやり続けられる」という思いが伝わってくると同時に、次の時代にいい音楽を継承したいというのも感じられた。
 デビュー40周年ということで「明るい曲」を意識したという。音楽の力を信じている山下達郎にふさわしい言葉は「希望」だ。市井の人々の情感をポピュラー音楽の王道から逃げることなく表現し続けてきた彼のコアにあるものだ。心に刻みこまれた「希望という名の光」をもう一度帰り路に聴いた。