異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『残念な日々』 ディミトリ・フェルフルスト

 残念な日々 (新潮クレスト・ブックス)


ベルギーの作家による自伝的連作短篇集。
 母親はとうに家を飛び出し、祖母と飲んだくれてばかりいる父親と右に同じく叔父たちに囲まれ暮らす少年の「残念な日々」のお話。
 それぞれ単独の短篇として成立してはいるが基本的には一つの長篇と言えるだろう。(以下備忘録のため筋をばらしています)


「美しい子ども」主人公が暮らすのは冴えない貧しい村。叔母は若い頃美女で村の注目の的だったが結局町の男と結婚。しかし結婚生活が上手くいかず舞い戻り、そっくりな娘と共に好奇の的となってしまう。主人公の少女に対する複雑な心境と飲んだくれ達が織りなす可笑しくも切ない話。冒頭からヤられた。
「赤ん坊の沈む池」貧しい村には生まれた赤ん坊を次々沈めているとの噂の女がいた。コワい。
ツール・ド・フランス」飲み助ばかりの村では馬鹿なことを思いつく奴もいる。酒飲み版ツール・ド・フランスをやるんだ!馬鹿だねえ(呆)。
「オンリー・ザ・ロンリー」財産差し押さえ人がTVを没収。ああ何ということだ今日はあのロイ・オービソンの復活ライヴだというのに!そう何と他の作品でもところどころロイ・オービソン愛があふれ出ていて、実は全篇通じてロイ・オービソン小説でもあるのだ。
「父の新しい恋人」父の女とも思えないタイプがやってきた・・・。
「母について」母についての苦い記憶。
「巡礼者」父が断酒を決意し、入院しようと言い出す。
「収集家」これはやや毛色が違い飲んだくれとは違うタイプの幼馴染の話だが、こっちはオタク系のダメなやつで。やるせない程度の心の交流しかないのがリアルだなあ(笑)。
「回復者」予想に反して父は断酒を成功して帰ってきた。さて。
「後継者の誕生」そんな主人公も人の親になる。しかし喜びもない。
民俗学者の研究対象」飲むと父や叔父たちが下品な歌を歌っていた。いつしか忘れてしまったそんな歌が、研究対象だという。お礼をはずむから思い出して欲しいといわれるが。なかなか思い出せず「飲めば思い出せるだろう」という展開が実に可笑しい。また矢鱈とこの種のものを採集したがるインテリへのアイロニーにもなっている。つまり、録音したからといってそれを歌っている人々の生活がきちんと残せる訳でもないし、そもそも記録する人々がそういった人々の生活に真に興味を持っているわけでもないだろうというのだ。学者たちの自己満足でしかないというのだ。案の定そんなオチになっている。
「あの子の叔父」主人公が距離感を測りかねている息子と叔父たちに初めて会う。切ないねえ。

 いつしかインテリになってしまった主人公は苦しかった過去に対し郷愁と嫌悪がない交ぜになった複雑な感情を抱いている(「民俗学者の研究対象」での酔っ払いの歌の録音に対する怒りもその表れだろう)。子どもの教育も何もあったものではないダメ大人たちの無軌道ぶりは全くもってサイテーなのだがそんな大人に囲まれた主人公の少年時代の話の方が不思議とコミカルで、大人になってからの話の方が何ともやるせない味わいに満ちている。人の一生というのはそんなものなのかもしれないねえ。