異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『バベットの晩餐会』 イサク・ディーネセン

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

「女中バベットは富くじで当てた1万フランをはたいて、祝宴に海亀のスープやブリニのデミドフ風など本格的なフランス料理を準備する。その料理はまさに芸術だった…。寓話的な語り口で、“美”こそ最高とする芸術観・人生観を表現し、不思議な雰囲気の「バベットの晩餐会」(1987年度アカデミー賞外国語映画賞受賞の原作)。中年の画家が美しい娘を指一本ふれないで誘惑する、遺作の「エーレンガート」を併録。」

 2010年新宿紀伊國屋ワールド文学カップでタイトル買いした本(そうか、前回のサッカーワールドカップから四年たったわけだ)。最近白水社のuブックスから『七つのゴシック物語』が復刊されているようで、偶然買った作家が注目を集めているとなるとなんだか当たりくじを引いたようでなんか嬉しい(本好きの方は分かりますよネ)。こういうのがあるから本屋通いをやめられない(随分読むはじめるのに時間がかかってしまったが)。
 しかし作家名の表記に揺らぎの多い作家で、本書や『不滅の物語』(国書刊行会 文学の冒険シリーズ)の表記は「イサク・ディーネセン」、上記のuブックスと『アフリカの日々/ヤシ酒のみ』(河出書房 池澤夏樹世界文学全集)では「イサク・ディネセン」、晶文社の昔の『ディネーセン コレクション』では「アイザック・ディネーセン」となっている。さらには一見男性名のこの作家、実はカレン・ブリクセンという本名を持つ女性でそちらでも有名な作家だというのだからさらにややこしい。こちらもカレンとカーレンとあるようだがまあそこはさておき。ともかく訳者あとがきによるとこのカレン・ブリクセン、デンマークの作家でほとんどの作品を英語とデンマーク語で書き、英語版をイサク・ディーネセン、デンマーク語版をカレン・ブリクセンで発表したという(大半の作品をまず英語で書いてからデンマーク語に書き改め書きあらため、英語版とデンマーク語版をほぼ同時に出版している、とのこと)。
 まあむしろデンマーク生まれでスウェーデンの男爵夫人という立場でありながら東アフリカのコーヒー農園経営に失敗し帰国、そこから48歳で本格的に創作活動をはじめた。一方結婚生活も破綻、夫より感染した梅毒に生涯苦しんだという波乱の生涯が印象深い。
 さて感想。本書は単独の中篇2本の組み合わせという感じかな。

バベットの晩餐会」 ノルウェーの田舎町につつましく暮らしている美しい姉妹。やがて時は経ち未婚のまま中年を迎えた二人の元へパリから家族も財産を失った女性が亡命して女中として同居することになる。してこの人が晩餐会を開くという紹介通りある意味それだけの話なんだが、抑制されたキリスト教徒(ルター派?)の人々の心の機微が織りなす町の姿が心に残る。
「エーレンガート」 古のドイツの小さい公国の王子が密かになしてしまったお世継ぎの話。婚礼の儀と出生の時期を調整するため、側近でもある画家は信頼に足る侍女や乳母を集める。どことなくマラマッドを思わせる(あちらはニューヨークが舞台でユダヤ教だけど)貧乏叙情的な表題作から一転、民話の様な宮廷ファンタジーの様な作品。主人のために秘密を守り続けるたおやかな女性たちのけなげさが心にしみる...と思いきや意外にも胸のすくような活躍をする後半に驚かされつつ楽しんだ。こっちの方が面白かったかも。
 どちらも短いんで名刺的な一冊かな。長いもの方が面白そうだけどいつ次が読めるかだな(笑)。