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異色もん。

ドラえもん、もやしもん、くまもんに続く第四のもん

『日本アパッチ族』 小松左京

日本アパッチ族 (ハルキ文庫)

日本アパッチ族 (ハルキ文庫)

「終戦直後の大阪で、鉄を食べる人間が出現した。名は「アパッチ」。一日に平均六キロの鉄と〇・二~〇・六リットルのガソリンを摂取し、その肉体の強靭さとスピードは、人類をはるかに凌駕する。彼らはやがて全国へと拡がり、日本の政治、生産機構までも揺さぶるようになっていった…。小松左京の処女長篇にして、SFの枠を超えた永遠の名作が、ここに復活。」

 戦後のいわゆる第一世代(星新一小松左京筒井康隆ら現代日本SFの創始者である世代)のSF作家による最初の本格的なSF長篇である。元々小松左京の中では一番好きな長篇だったが、再読しても印象はあせることがなく、オールタイムベストSF日本長篇の1位に挙げた。再読しての発見はポリティカルフィクション的側面がかなり強いこと、それも現代まで続く政治的ジレンマを既に提示していることだ。危険思想の持ち主たちを捕え食料すら無い廃墟に追放する法律を死刑廃止の美名の元に通す与党勢力、イデオロギーを示すことが自己目的化し建前からその法律に協力してしまうふがいない革新勢力、既得権益を死守するためにな手段を選ばない業界団体、隙を狙い政治家を操り暗躍する商売人などなど。実はこのアパッチ族も単純に理想化されているわけでもなく、生存のためとはいいながら指導者たちは戦略的に相当の犠牲を払うことを受け入れている。しかしそこは心も鋼鉄化されているため人間の様な嘆きや感慨を持つことがないという設定にもなっているのが巧みである。結局人類とアパッチ族の問題は平和裏に解決せず、やがて核兵器・内戦といった方向に進むところは、敗戦を体験し人間の愚かさを嫌というほど味わった著者の偽らざる実感が出ているのだろう。本書は十分に科学的想像力が駆使されておりまさにSFとしかいえない作品だが、一方で「鉄を食う」モンスターを扱う怪奇幻想小説的要素を根に持ち、かなり陰惨な内容を含みながら日本語・外国語問わない駄洒落や言葉遊びが大阪弁にのせられて飛び交う寓話的な要素も強い。そういった意味で敗戦後の日本らしい廃墟の中から歴史的な怪奇幻想小説や風刺小説の根をもつ新しいメタリックな芽が息吹くスリリングな瞬間を目の当たりにする様な作品で、歴史的意義の大きいい冊だろう。
 戦後日本を強く印象付ける本作の被虐的想像力(マゾヒスティック・クリエイション)がのちの日本SFなどへ与える影響を論じた巽孝之先生の解説も面白くいつもながら示唆に富んでいる。